島根県中小企業家同友会

島根同友会松江支部8月例会 ~自立型組織の構築は職員一人一人の感性と自主性の尊重から~

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2013年8月6日(火)、島根県中小企業家同友会 松江支部8月例会が開催されました。この日は、「『自立型組織への挑戦』~誰もが働きやすい環境を目指して~」と題して、社会福祉法人みずうみ 事務局長 岩本雅之さんから報告を頂きました。みずうみは、昭和60年に設立された社会福祉法人で、特別養護老人ホーム、ケアハウス、デイサービスセンター、保育園など様々な福祉施設を運営されており、職員数は361名にのぼります。岩本さんは、父親であり創設者でもある現理事長の元、事務局長として法人運営全体を統括されています。大学は福祉系大学に進まれ、学生時代も福祉ボランティアに従事されるなど、まさに福祉一色の人生を歩まれています。そして、現在、社会福祉法人みずうみの事務局長として、基本理念に基づいた“自立型組織”づくりに日々取り組まれています。報告を通じて伺った理念経営や組織運営の実践から、大変多くの気づきと学びを頂く事ができました。その一部を整理しておきます。

報告される岩本雅之さん

1.自分自身も基本理念に基づいて生きる

岩本さんが策定された基本理念は、「すべての人が自然に笑顔になる為の環境作り」です。さらに、「一、明るく、仲良く、楽しい人間関係の構築」、「二、向上的な組織改革、チームワークの徹底」、「三、地域福祉創造へのあくなき挑戦」、という三つの理念が続きます。これにはすべて解説が付されており、なぜそのことが必要なのか、どういった考え方に基づいて定められているのかが示されています。表面的な言葉だけでなく、言葉の奥に秘められた岩本さんの想いを伝えるためのものです。

そして、この基本理念を策定された経緯について、興味深いを話をされました。岩本さんは、福祉大学を卒業して法人に戻り、最初は現場に出ていらっしゃったそうです。法人に戻った当初は、漠然と、そこで働く人が楽しく過ごしてもらえればいい、と考えていたそうですが、当時の職員の方々は、目を合わせない、暗い、話をしない、という状況で、自分が考えていたことと、大きく異なった現実がそこにあったそうです。当初、そのことに対して直接的な改善を指示したりもしていたそうですが、いつまでも改善しない。そして遂には、自分自身にも違和感を覚えてきたそうです。

そして、「どうすれば自分の思っていることをみんなに伝えられるのか」、を考え、一年をかけてまとめたのが基本理念だそうです。その時のことを、「自分自身がすっきりしたかった」と話されます。理念策定後、自分が考えていることが文字になったことで自分自身の気持ちが落ち着き、その後は自分自身も自然体で居られるようになったそうです。現在、岩本さんは、「自分もこの基本理念に沿って生きている」と明言されます。

この言葉には、ハッとさせられるものがあります。私も一年半前、経営指針を策定し、経営理念を新たに定めました。その理念は、自分自身の想いとして、また会社が、そして会社に集う社員全員がどうあって欲しいかを文言にまとめました。しかし、一年以上が過ぎた今、自分自身、その経営理念に沿った生き方をぶれずに実践できているのか。自問自答させられます。出来ていないとは言いません。しかし、策定当初の想いを継続し、きちんと継続できているのか、今一度振り返り、襟を正すタイミングに来ていたのではないかと感じます。このタイミングで岩本さんのお話を聴けたことに感謝します。

2.自立型組織に向けて~一人一人の感性、自主性を尊重する~

社会福祉法人みずうみでは、「自立型組織」の確立を目指して様々な取り組みが実践されています。その一つに、「職場内のコミュニケーションに関する基本指針」という指針があります。この指針では、法人が求める人物像を、それぞれの役職ごとにまとめられています。特徴的だと感じたのは、役職ごとの指針は“人材育成”に特化した内容であり、「自分の上長が求める人材育成を理解するよう心がけること」、そして、「自分が育成する職員の“感性、自主性”に配慮したアドバイスをすること」と、示されている点です。この“感性、自主性”というキーワード。これに対して、岩本さんは「部下を自分のロボットにしようと思うとストレスになる。自分の子供に対して自分の思い通りにしようとしてストレスになるのと同じ。」と説明されます。

企業の求める人物像を想定して明文化し、人事考課や昇給などの判断資料として活用する仕組みはよくみかけますが、多くの場合、仕事上の能力発揮を主眼にしたものになっています。これに対して、この指針では人材育成のあり方に特化して人物像を描いています。この点に関し、岩本さんは、「人間は誰しも不完全な状態、だからそれぞれの人の力量を把握した上で、改善していく必要がある。」と話されます。そのことの意味は、お互いを認め合う、一人一人を肯定する、という考え方がベースにあるだけでなく、人財を画一化させないため、基本理念で大きな方向は示しながら、個々の職員の力を最大限に発揮させるためにどうすべきかを考えた結果、なのでしょう。

自分を認めてもらえる、否定されない、自分の考えが最大限尊重される、という環境でなければ、そもそも職員の“自立”にもつながらないし、自立型組織など構築できる訳もない、ということだと理解しています。そして、前述の基本理念に際しても、管理職が部下を注意する際、「まず、基本理念に基づいて指導を行うよう要請している」そうです。自分の考えや経験、価値観で指導するのではなく、まず、基本理念に基づいて指導する。その上で自分自身の言葉で話をする、というステップを踏むそうです。その前提には、採用時における基本理念に関する丁寧な導入説明があります。さまざまな場面で理念が丁寧に説明されることで、前述のコミュニケーションに関する基本方針が上手く機能し、自立型組織が確立されつつあるのだと感じます。

3.データを大切にし、繰り返し意識する仕組みをつくる

前述のとおり、社会福祉法人みずうみは、全事業所の職員総計が361名という大きな組織です。女性の数が圧倒的に多く、比較的若い世代が多い。岩本さんは、みずうみの組織を見渡す際に、部署(事業所)ごとの人員構成、年齢構成、就業年数など、データを丁寧にみながら様々な施策を検討されるそうです。平均勤続年、そしてどんな世代の人たちが働いているのか。それを把握し、その職員に必要な労働環境を考えていくのだそうです。

端的な例としては、保育園に所属する保育部の構成。年齢構成はほとんどが20代で、就業年数は3年未満が高く、長く勤めている人が少ない。それだけ、長く働くことが難しい職場・職種であるという傾向が出ているそうです。そういった職員の年齢構成を見定めながら、職場内保育園を開設するなどの施策を取られています。企業内保育園といっても、簡単に設立できるものではありませんし、コストもかかります。ある特定の時期だけでなく、経年的にこれらのデータを見ていくことで、思いつきではなく、どのタイミングで開設するのが最も効果的なのかを見定め、的確な準備を進めたうえで判断されているのだろと考えています。

もう1点、「職員備忘録」という冊子を見せて頂きました。これは、前述の基本理念、行動指針などのほか、各種の方針や組織図、危機管理マニュアル、各種制度説明など、1年の事業活動を通じて職場に周知された文書等をあらためて一まとめにし、冊子状に綴じたものです。これを作成するようになったきっかけは、会社で決めて周知したことも、次の月になると忘れてしまうことがある、という理由だそうです。だから、毎年一回全ての文書を取りまとめて職員に配布する。毎年変更があったところは少しずつ見直していく。このことで、理念や基本方針などを職場のみなさんがより深く理解してくれるようになった、思いつきで無いことを理解してくれた、と岩本さんはおっしゃいます。

私も社内向けに様々な資料を作成、配布していますが、“配りっぱなし”という面は否めません。1枚1枚の紙で都度配れば、そのうちどこかに紛れてしまう、ということも多々あるでしょう。会社としてきちんと理解してほしいこと、重要なことであれば、説明は一度だけでなく繰り返し行うとともに、形を整えて職員に配布する。こういった取組みも非常に重要です。これらの対応をとても“丁寧に”実践されている姿勢は尊敬できますし、直ぐに当社にも取り入れたいと考えています。

岩本さんを交えたグループ討議

岩本さんは、職員に向う姿勢として、「ウソをつかない、自分に正直」であることを強く意識されています。報告の後に行われたグループ討議では、岩本さんと社会福祉法人みずうみを良く知る方々が同じテーブルにいらっしゃいました。その方々が、口をそろえておっしゃるのは、「みずうみは、基本理念に書いてあるとおりの職場。岩本さんも理念どおりの人。」ということです。報告の中でおっしゃった「自分も基本理念に沿って生きている」という言葉は、ごく近しい方々からみてもそのとおりだという事です。正直、誰にでも出来ることではないと思います。人間色々な面があり、強く正しい自分もあれば、弱い自分もあるのが通常ではないかと思います。私もそうです。直ぐに岩本さんのようにはなれない。しかし、自分に、そして職員に対してウソをつかない、という点については徹底していかなければなりません。それは自分自身との戦い。これを、岩本さんの報告とグループ討議を経た私の答えとします。

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