2015
02.27

2015年2月25日(水)、島根同友会主催の「中小企業会計啓発・普及セミナー」が開催されました。テーマは、「企業の継続的成長を目指す経営」と題し、PSE研究所の中林孝氏を講師に迎え、会計(決算書、キャッシュフロー等)の観点からみた経営のあり方について講演を頂きました。このセミナーは、独立行政法人中小企業基盤整備機構の支援により「中小会計要領」に関する普及啓発も含めて実施されるものです。セミナーでは、中小会計要領についての説明も頂きましたが、中林さんからは、要領の説明に留まらず、会計を経営にどう活かすか、様々な示唆を頂きました。その一部をまとめておきます。

講師 PSE経営研究所 中林孝氏

1.現金を第一に考えた経営をしていく

中林さんが最も力を入れて説明されたのは、「現金を第一に考えた経営をしていく」ということです。

冒頭に興味深いシミュレーションを見せて頂きました。「減価償却によるキャッシュフローでは長期借入金を返済できない」、ということを分かりやすく示したものです。設備投資に伴う減価償却費では、借入金の返済が間に合わず、途中で運転資金の借り入れが必要になる。そして、すぐにその運転資金の借り入れの返済も間に合わなくなり、さらなる運転資金の借り入れが必要になる。その自転車操業が続けられるうちはいいが、いずれお金が借りられなくなった時に資金的にショートして経営が破たんする、というものです。分かりやすく数字でみせて頂きました。

これは、いわゆる“勘定合って銭足らず”の一例でもある訳ですが、損益を重視して利益を出すことばかりに捉われ、資金調達を安易に行い続けると、仮に利益が出ていても現金が足りなくなる可能性がある。一般的にはよく言われる指摘で、経営者であれば一応わかっているはずの話ですが、シミュレーションで見せつけられると、強く印象づけられます。

他でもなく、当社も“お金に忙しい会社”であり、運転資金を長期資金で賄うこともあります。一度そういう流れにはまると中々長期借入の残高は減らず、返済が続きます。経営者として、できるだけ長期資金の残高を減らしたい気持ちはありますが、かといって日々の資金繰りに窮しては本も子もありません。長期資金の返済と毎年のキャッシュフローのバランスをいかに取るのか。まさに当社の長年の経営課題です。「現金を第一に考える」、決して忘れてはならない原則を改めて指摘して頂きました。

2.決算書は自社のために使う~管理会計が重要~

二つ目の大きな指摘は、「決算書を自社のために使うべき」ということです。

会計のセミナーでは、決算書の読み方などを聴くことが多いのですが、今回は、“読み方”ではなく、“使い方”について示唆を頂きました。一般に、決算書の使い方としては、公告用、税務申告用、金融機関説明用、役所提出用、などがありますが、これは全て他人のための使い方です。それはそれで必要な訳ですが、それだけではもったいない、というのが中林さんの指摘です。他人のためだけでなく、自社で利用する。自社で使うことで、せっかく作成する決算書の効果が広がっていく、という訳です。

自社での活用の代表例は、経営方針発表会などでの活用です。自社の経営数値がどのようになっているのか、社員と共有することが重要なのは異論のないところです。もう一つは、自己管理用に用いることです。いわゆる“管理会計”としての活用です。そのためには自社用に決算数値を加工することが必要な場合もありますが、そのことで、自社の数字をより客観的に捉えることが可能となり、また経年的に比較することで、外部環境又は内部環境の変化との関係を把握し、次の一手を素早く判断することが可能になります。

具体的な活用例として、固定費管理日報による限界利益把握、対前年比売上伸び率推移による業績管理、など、実際にこの地域の中小企業が工夫されている事例を紹介して頂きました。業種・業態によって求められる管理会計も異なってくるでしょう。当社では、限界利益に着目し、実行予算と連動した利益管理を実施していますが、そういった各社なりの管理方法をお互いに勉強し、いいところを相互に取り入れていくという取り組みも、今後の同友会活動の一つとして有意義ではないかと感じたところです。

3.金融機関からお金を借りるのは「時間をお金で買う」という発想で

中林さんからの最後のメッセージは、「金融機関からお金を借りるのは時間をお金で買うという発想で」というものでした。

まずその前提として、資金計画はキャッシュフロー計算書をベースに作成し、シミュレーションしていかなければなりません。資金計画は、自社のキャッシュフローを考慮して作成する。あたりまえだけど、意外に出来ていない会社も多いという指摘もありました。そして大事なのは、シミュレーションは黒字を前提に行うが、実際には赤字の年もありうる、ということです。その場合にも許容できるバッファを持った資金計画を立てておくことが必要だということです。

「それができれば苦労しない」という経営者も多いでしょう。資金計画が苦労している経営者ほどそう感じると思います。私もそう思います。しかし、自社のキャッシュフローに見合った設備投資の実施、又は運転資金の調達を前提として経営を考えていかなえれば、大きな荒波が訪れた時に立ちゆかなくなる可能性があります。自社のキャッシュフローと必要資金とのバランス、単年度だけでなく、長期にわたって確認しておくことの重要性を改めて感じたところです。

その上で、金融機関からの借り入れはお金で時間を買うべきタイミングで決断する、と指摘されます。私も、運転資金ばかりでなく設備に関する資金調達も行ってきました。多くの場合は先行投資として実施しており、その市場における先行者利益の獲得を狙っていますが、直ぐに結果が出ていないものもあります。しかし、その結果が出ることを信じ、またそれを出していくために必死で経営する。その想いを新たにさせてもらった気がします。今後の資金調達に関しても、お金に困って借りるという後手の姿勢に回ることをできるだけ回避し、“攻めるために借りる”という基本方針は持ちながら、その上で自社のキャッシュフローを見据えた適切な判断をしていきたいと考えています。

講演する中林さん

一般に、中小企業の資金繰りは大変と言われますが、私の周りでも無借金経営やそれに準じる財務状態で、資金繰りに困っていない会社も結構あります。資金繰りにために頭を悩ましたり、そのための資料作成や手続き、交渉事に時間がかかったり、負荷は少なくありません。資金についてあまり心配しなくていい経営者を見ると、羨ましく感じる訳ですが、他人をうらやんでも自社が変わる訳ではありません。そういう財務体質に持っていった経営者の手腕こそ学ぶべきです。金に忙しい私のような会社は、むしろ、資金調達が必要だから金融機関と関係ができる、金融機関からの支援や助言、ネットワークの活用により経営の領域が広がる、そういった前向きな姿勢で資金調達を捉えていくことが大事だと感じます。そして、今回のテーマである「企業の継続的成長」を資金の観点からもしっかり見据えておくことが大切だと、今回のセミナーで改めて感じたところです。

2015
02.19

2015年2月14日(土)、島根同友会の第15回経営指針成文化セミナー成果発表会が開催されました。このセミナーは、島根同友会会員企業を対象に、経営指針(経営理念、経営方針、経営計画)を体系的に策定するものです。今回、6名(6社)の参加者があり、およそ5カ月の時間をかけて自社の経営指針をまとめました。成果発表会では、策定した各社の経営指針を発表します。そして、今後の経営指針に基づいた経営の実践に向け、指針に対するさまざまな意見を聴取する場でもあります。経営者が、自社の将来をかけて策定する経営指針。その策定の経緯から成果の内容までを聴くことができるこの成果発表会は、同友会活動の中でも最も多くの学びを得られる機会の一つです。第15期の発表会を通じて感じたことをまとめておきます。

成果発表するセミナー受講生

1.後継経営者が覚悟を決める場

今回の6名の受講生のうち、後継経営者が3名いらっしゃいました。そのうち、1名は既に社長として経営を司っていらっしゃいますが、後の2名は、いわゆるナンバー2の立場であ、今後の事業継承を予定されている方です。今回のセミナーでは、このナンバー2の方々が大きな決断を行う機会となったのが印象に残ります。

私も後継者なので同様なのですが、後継者というのは、なんとなく“事業を継承する”という認識はあっても、それが一体どういうことなのかという本質的な認識がなく、そのまま経営を継承してしまう場合があります。順風満帆で盤石の会社であればいい訳ですが、実際には継承後に外部環境の大きな変化や自社の経営状態を目の当たりにし、前向きになれない後継者もいます。そんな後継者が、経営を継承する前にこのセミナーを受講することで大きく変わることが出来ます。セミナーを通じて自分なりの経営の方向性を定め、また、経営環境や財務面も含めて会社の実情を把握し、それを事前に受け入れておく機会となる訳です。

実際問題として、順風満帆の会社の後継者の方がこのセミナーを受講するというケースは多くありません。やはり様々な課題がある会社、先行きに不安を持っている会社、外部環境の変化に直面する会社の後継者だからこそ、経営の学びを求めて同友会に入会し、このセミナーの受講に至るのだと思います。そんな後継者こそ周囲が支援しなければなりません。そして後継者のみなさんには、ぜひこのセミナーを通じて覚悟を決めてもらいたいと思います。仮に覚悟を決めきれなくても、いずれ覚悟するための土台づくりにはなります。その意味でも後継者こそ、このセミナーを受けて頂きたいです。

今回、いずれ社長を継承する後継者2名もそれぞれの立場での決断をされました。社長になるタイミングを自分自身で決めて現社長と意志統一した方、自分がどの方向を目指すのかを明確にして現社長と話合った方、セミナーやフォローアップの場以外で、それぞれに転機と変化を迎えています。半年間を通じてその経緯を見せて頂くことで、“後継者が経営者となる”ために何が必要なのか、改めて教えて頂いたと考えています。

2.創業経営者の転機を受け入れる場

今回の6名の受講生のうち、3名は創業経営者でした。創業者が創る経営指針について、私自身の認識を改める機会を頂きました。

後継者の私からみれば、創業者の方は、明確な自分の想いを持って事業を立ち上げ、運営されてきており、経営指針は創りやすいのではないかという印象がありました。しかし、今回、創業者でも経営者でも関係のない経営に係る大きな課題がたくさんあることを、改めて感じました。例えば、外部環境の変化。地域の小売店の横に全国資本の大規模小売店が来たらどうするのか。同じ商品・サービスを同じ値段で、同じように扱っていては勝負にならないのは明白で、これは創業でも後継でも関係ありません。また、いくら想いがあっても立ちうちできない変化があります。そして、人の問題。企業の問題の大半は人の問題に行きつくと言われますが、創業者だから人財育成が成功する、或いは人財に恵まれるとは限らない訳です。人にかかる様々なトラブルや問題もまた、創業者、後継者を問わず課題として顕在化しています。

そして、今回のセミナーで特徴的だったのは、創業経営者の方々が、自分達に訪れた大きな転機を受け入れ、さらなる飛躍を目指した決断をされたことでした。抗いがたい外部環境の変化に対応するため大きな業態変化を決断した方、一度諦めかけた後継者の育成に再度取り組む決断をした方、社員と一緒に目指す大きな夢を具体化するための方策を明確にした方、わずか半年の間に、大きなドラマをいくつも見せて頂きました。

発表後、大きな変化が訪れるタイミングでセミナーを受講していたからこそ、大きな決断することが出来たと話して下さいました。経営とは変化すること。変化の連続にどう対処していくのか。その答えの一端も、この経営指針成文化セミナーで得られるのではないかと考えています。

3.経営指針発表会が新たな受講生を呼び込む

現在、島根同友会で実施している経営指針成文化セミナーは、年2回、各6名(計12名)の受講生を定員としています。

毎回、募集開始後短期間で定員を満たす人気のセミナーとなっており、同友会会員における経営指針に対する認識の高まりを感じます。また、2回目の指針セミナーを受講する会員もいます。当初策定した指針が自分の想いを反映しきれていない、環境の変化に合わせて再度方針を見直すということもあります。また、一つの転機としては、一人で始めた事業から、従業員を雇用する事業へステップアップする段階で、再度策定を行う方もいらっしゃいます。

今回、発表会終了後に次回セミナーの申し込みを頂いた会員さんがありました。既に一度指針を策定されていますが、従業員の雇用をきっかけに再度セミナーを受講したいという希望です。また、一度策定して実践していく中で、十分に理解出来ていなかった指針の意義を、従業員の雇用という視点を踏まえてもう一度見直したいという意向も持たれています。一人で行う事業と、従業員を雇用して行う事業、その間には大きなハードルがあると思います。私は、従業員が居る会社を引き継いだので当たり前に雇用をしていますが、最初に1人で初めてしばらく事業を営んだ後、人を雇用するというステージに進む際には、やはり決断が要ります。雇用の形態は色々あるとしても、“従業員の生活を担う”立場になることに違いありません。自分一人であれば、すべて自分の責任の範囲内ですが、従業員を雇用すればそこにも経営者の責任が広がる。そのタイミングで、指針を見直すというのは大変いい試みではないかと考えています。

そして、もう一つ話題が出たのが、「同期を創りたい」という希望です。このセミナーで一緒に経営した受講生は、“同期”として今後の経営を競い合うことになります。業種業界、年齢性別、経験は違えど、同じタイミングで経営指針を策定した者どおし、やはり負ける訳にはいきません。ここでいう勝ち負けは売上や利益ということだけでなく、どれだけ自分の定めた理念や方向性を実現出来たかという点も含めてです。同期が頑張れば、自分も頑張れる。そういった経営者の横のつながりを創ることができるもの、このセミナーの大きな特徴だと考えています。想いを共にする仲間を創りたい方の参加をお待ちしたいと思います。

修了証を持って記念撮影

2014年10月に開催された第15期経営指針成文化セミナーは、島根同友会としては、初の直営方式として開催し、会内講師のみで最後の成果発表まで辿りつきました。私も今回初めて講師役を兼ねて参加しましたが、今回の発表会でセミナーの受講者が、それぞれに素晴らしい報告を行い、経営指針に基づいた経営を進める覚悟を決めて頂いたことは大変うれしく思います。そうやって受講生の方を送り出すからなおさら、自分自身の経営が立ち止まっていてはいけないと強く感じます。次年度以降も、島根同友会の経営労働委員会を任せて頂くことになりました。引き続き、経営指針の成文化を実施した経営者を島根に輩出し、それぞれの経営者が経営を伸ばすことで、地域経済が発展する。そういった同友会発のプラスのスパイラルを生みだすべき、努力していきたいと考えています。今回のセミナー受講者のみなさんの益々の発展とご活躍をお祈りします。

2015
02.13

協和地建コンサルタントでは、「地中熱」の地域活用に取り組んでいます。今回は、『雪のバリアフリー』対策として、地中熱を活用した融雪装置の必要性について簡単に紹介します。地中熱を利用した融雪装置は、積雪の多い地域を中心に様々な方式が開発され、実際に運用されています。その基本は、地中の熱を道路や駐車場等の路盤の下まで運び、その熱で雪を溶かし、着雪や凍結を防ぐというものです。地中熱による道路融雪設備は、島根県内では、国道261号の広島県との県境部に1km弱整備されています。鳥取県はもっと進んでいて、代表的なものとして大山へ至る道路に2km以上の融雪設備が整備されています。こういった設備が今後もっと必要になってくると考えています。

国道261号の融雪の様子(島根県HPより)

1.『雪のバリアフリー』対策の必要性~平常時のバリアフリーは進んだが~

ここで掲げる「雪のバリアフリー」とは、積雪によって道路や歩道、あるいは駐車場等への出入りに支障をきたす状況の解消を指しています。言い換えれば、除雪体制等の維持確保策とも言えます。当社が主に事業を営む山陰エリアは、中国山地沿いを中心に冬季には積雪により道路交通上の支障が発生することがあります。また、積雪だけでなく凍結によるスリップ事故など、安全面での懸念もあります。こういった事象に対応するため、国、県、市町村などにより除雪体制が構築されており、積雪になれば早朝より遅くまで地域建設会社の方々が除雪作業に従事され、交通環境の維持に尽力されています。

一方、島根県内においては継続した道路整備の成果により道路の改良が進み、より安全で走行性の高い道路の整備によって通行困難箇所が解消され、また、市街地等では歩道の整備による歩行者の安全確保や段差の解消など、さまざまなバリアフリーが実現しつつあります。しかし、こと「雪」に関しては、まだまだバリア“フリー”とはいかない状況がある、というのが問題意識です。前述のとおり、除雪体制によって基本的にはしっかりとした対応が図られていますが、それでも除雪には物理的な限界もあり、除雪基地から遠方箇所、トンネル出入口、交差点・歩道、など、除雪の難しい場所も多々あります。こういった箇所は除雪だけで対応するのではなく、消融雪装置による対応もあわせて、トータルの「雪のバリアフリー」を実現させるべきではないかと考えています。

2.除雪オペレータの高齢化・業者廃業と除雪ニーズの増加

冬季の積雪時には、除雪が行われます。除雪は各地域の建設会社が受託するのが一般的ですが、この除雪を行うオペレータの高齢化が進んでいます。加えて、建設業そのものの廃業もあったりして、除雪体制を維持していくのは年々難しくなっていくことが予想されます。行政サイドも、除雪用の車両を購入して貸与したり、オペレータの講習会を開催したりするなど、建設会社の負担を軽くしながら、除雪体制を維持できるよう努力されています。その一方で、前述のとおり、市街地内や学校、病院、福祉施設など雪のバリアフリー対策を必要とする施設はたくさんありますし、なにより、毎年道路は少しずつ改良が進み、かつその区間は要除雪区間となりますので、除雪が必要な道路総延長は毎年増えて行くと考えられます。

また、地域の除雪を担っている建設会社が雇用している除雪オペレータは、その専従職員とした雇用されている訳ではありません。冬季については除雪作業に従事することもありますが、それ以外の季節には一般の建設会社社員として各現場での工事等に従事します。除雪の仕事だけで1人の社員が雇用できるものではありません。かつては、県内各地において様々な建設事業が多く存在し、その中で冬場の除雪にも対応する社員を雇用していくことが十分可能でした。しかし、現在、地域の建設事業は減少の一途をたどり、除雪の必要性は認識するものの、その体制を維持するめに必要な雇用を確保することが難しくなりつつあります。そう考えて行くと、近い将来、島根県内における除雪体制が維持できなくなる可能性があるのではないか、という懸念があります。

大きな課題であり一朝一夕には解決できませんが、その一端を担うのが消融雪設備の整備ではないかと考えている訳です。道路融雪設備の施工にあたっては、地元建設会社が担う土木的な領域が多々あります。そこは減少している夏場の仕事を一部でも補完することにつながります。そういう地域経済トータルの視点も必要だと考えています。

3.地中熱による融雪装置の有効性~無散水式による環境にも優しい融雪~

道路の積雪等を除去する設備は、島根県内においても積雪の多い地域において以前から導入が進められています。多くみられるのは、いわゆる「散水式」の消雪設備です。地下水や河川水等を利用して道路に散水するものです。積雪時には各地の交通改善に役立っていますが、散水された水が近隣地域へ影響を与えたり、自動車による水跳ね等による苦情が寄せられたりします。また散水口の詰まりなどによる機能低下などのデメリットもあります。

その一方、「無散水式」と呼ばれる融雪装置は、古くは電気を熱源とする伝熱ヒーターなどが用いられてきましたが、現在は、地中熱を活用するタイプが普及してきています。地中に熱交換用の井戸を掘削してパイプを通し、水を循環させることで地中の熱を舗装の下の放熱管へと運び、融雪又は凍結防止を行うものです。散水式に比べて地下水などの水資源を無駄に使うこともなく、また、飛散した散水による影響もないため、環境にも優しい融雪装置と言うことができます。

この設備は、道路だけでなく、駐車場でも活用することが期待されます。国道54号では本線脇のチェーン脱着場に地中熱による融雪設備が整備されています。道路の雪が溶けているだけでなく、停車して作業をするためのスペースも確保されることは重要です。いずれも温度センサーによる自動運転が可能であり、維持管理・メンテナンス性に優れた道路設備と言えます。

地中熱融雪模式図(国土交通省HPより)

こういった融雪設備が必要な場所は一般に中山間地域です。中山間地域は、今後人口が減る一方であり、新たな社会資本を整備してもそれだけの価値があるのか、という議論があり、私もそのように感じていた時もありました。しかし、先日、島根県中山間地域研究センターの藤山浩研究統括監の講演を聴き、考えが一変しました。島根県内の中山間地域には人口が増えているところがあります。また、総人口は減っていても若い女性と子どもの数が増えている地区はかなりの数になります。島根では中山間地域への定住が進みつつあります。だからこそ、これからのインフラ整備は、今まで以上に地域の生活に寄り添ったものでなければなりません。その一つとして、積雪地域における「雪のバリアフリー」対策。今後進めていくべき施策だと強く感じています。

2015
02.06

2015年1月18日(水)、島大毎熊研究室・島根同友会合同新春講演会が開催されました。「地域経済循環の現状と戦略~人口と所得の1%を取り戻す」と題し、島根県中山間地域研究センターの藤山浩 研究統括監を講師にお招きしました。藤山浩さんは、島根県益田市生まれで、現在も益田市に在住し、田園生活を営まれています。国土交通省、農林水産省をはじめ各省庁の各種委員を歴任される中山間地域研究の第一人者であり、地元島根の中山間地域の実情、そして今後どうしていくべきなのかについて最も知見の深い方です。今回の講演も、まさに目からうろこ、そして、島根に住む我々自身が認識を新たに持つべき話をたくさん伺うことができました。その一部をまとめておきます。

講演する藤山さん

1.「市町村消滅論」への疑問~一番の例外は海士町~

冒頭の話は、いわゆる「市町村消滅論」に対する問題点の指摘でした。日本創世会議によって発表された、「全国の地方のうち896自治体で消滅の可能性がある」という報告。島根県のみならず全国的に大きな衝撃を持って受け止められました。藤山さんは、危機意識を喚起するための刺激的な問題提起であり、全国的にも地域的にも持続可能な人口動態ではないという指摘は重要、としながらもいくつかの疑問点を提示されました。具体的には、データ時期が2010年の国勢調査までで2011年以降のUIターンの増加が反映されていない、東京圏への一極集中が収束しない前提、データ単位が広域合併後の市町村単位で小地区単位での定住状況差を反映していない、などというものです。

その一番の例外が「島根県の海士町である」と指摘されます。海士町の取り組みは市町村消滅論が話題になって以降、とくにメディアでの露出が増えたようにも感じます。高校の入学定員が1クラス増えた、保育所に待機児童が発生した、などUIターンの成功によって町に活気が生まれている様子が取り上げられ、全国的にも注目されています。その海士町の人口推計ですが、2010年の国勢調査で2374人であったものが、日本創世会議の予測値では2040年に1,294人にまで減少するのに対し、島根県中山間地域研究センターの予測では2039年に2,434人と人口増に転じています。この違いは、20~39歳の女性の人口数、前者が町全体で53人にまで減少するのに対し、後者では223人となっていることによるものです。海士町は、既に人口増加基調に転じており、子どもが増えていく島になっている、と説明されます。

そして、実は、海士町はトップランナーではあるが、特別な事例ということではなく、島根県全体でも同じような傾向が起こりつつある、ということです。今回の講演で最も驚かされる点でした。

2.人口の1%を取り戻す~田舎の田舎は人口が増えている~

“田舎の田舎”は人口が増えている、という現実があるということです。島根県内の中山間地域を小学校区単位で見ていくと、人口が増加基調に転じている地区が多数あるそうです。そのこと自体驚きですが、そのポイントはやはり若い女性の数と子どもの数。30代の女性の増減をみると、県内の中山間地域(小学校区単位)227地区のうち、96エリアで増加しているそうです。地域一体としてUIターンに取り組み、成功しつつある地区ということです。それらの地区でも人口総数であれば減少しています。しかしそれは、昭和1ケタ世代の自然減によるもので、社会増に転じている地区が多数あるというのが藤山さんの説明です。

この成果は、ひとえに地域の存続をかけて新たな転入者の受け入れに地域を上げて取り組まれている住民のみなさんの取り組みの結果であるとともに、東日本大震災以降の、日本国民の価値観の変容もあると指摘されます。その例え話が秀逸でした。これまでの日本をすごろくに例えると、ゴールが東京であった。すなわち、東京すごろく。しかし、それがゴールと思わない人が増えてきた。田舎に住んでいることが自体悪くないと考える人が、増えてきた、と言う訳です。

藤山さんは、今後の中山間地域のとるべき戦略として、「1%戦略」を示されました。毎年、外部からの移住により人口の1%を増やしていく、というものです。そのことで人口が安定し、30年後にも今の人口がほぼ減らない、高齢化率が上がらない、子どもの数が減らない地域ができる、と話されます。それを実際に試算と各地域の実績により実証されています。1%でいい、しかし、継続していく。100人であれば1人。1000人であれば10人ですから、毎年と思えば大変ではありますが、出来ない数ではない、という印象を持ちます。海士町や、島根県内の中山間地期で起こっている事実を共有し、島根県全体で取り組んでいくことで、島根県の中でも中山間地域の将来に明るいものがある、と理解していくことにつながる、とても希望の持てる話を頂きました。

3.所得の1%を取り戻す~地域内循環の再構築~

人口の1%にあわせて、「所得の1%を取り戻す」、というお話も伺いました。「地域内経済循環の強化が必要」という考え方です。地域内でお金を循環させるという指摘。今回、長年にわたる家計支出調査の結果を踏まえて、具体的に聞かせて頂きました。

まず、現状を単純に言うと、「住民所得に等しい金額が域外流出している」ということです。これは、ある一定の規模の地域の中での出来事として集計されていますが、島根県全体でみても、総県民所得と同じぐらいの金額を、県外から調達しているということです。当然、これをすべて域内で調達することは現代社会の生活ではできません。しかし、1%を域内に取り戻せば、それが新規定住を実現するための原資になりうる(事例として、高津川流域(約7万人)の場合、1%で303組の新規定住に相当)、と試算されています。

その具体例ですが、例えば食費。近年では特に外食費が相当な割合で域外に流出している。これを地域で賄えるようにするだけで多くのお金が地域に回り、雇用を創出できる。そしてクルマ。購入費及び維持費でかなりの支出を取られているようです。今後は電気自動車など、エネルギーを域外市場に頼らない方法が導入可能な手段の普及に取り組むべきとのこと。そして、大きな課題は学費だそうです。特に大学の学費。これが原因でUIターンに踏み切れない移住希望者も多いとのこと。それが無ければ田舎に住んでも家計収支上は大きく変わらない。子どもの学費を貯めるために都会で働いている、という実態が調査から浮かび上がると言います。しかし、その原因が分かれば、その部分を何らかの支援でカバーすることによって、地域への定住を促進するという施策の方向性を探ることもできます。

エネルギーも当然のその中に入ります。エネルギーコストとして地域外に流出している金額は大きなウェイトを占めています。よく言われるように、地産地消の再生可能エネルギーによってエネルギーコスト、代表的に言えば電気代、地域内に還流していく。電力小売自由化の流れの中で地域電力会社の設立を通じて資金の地域内循環を実現しようとされている事業者が全国にたくさんいます。そういった大きな流れを逃さず、中小企業として地域を維持存続させていく中で生き延びる術を探っていくことが必要だと、実感するお話だったと感じています。

講演する藤山さん

藤山さんの最後のメッセージは「急いではいけない」というものでした。1%ずつ進めていく。それとて大変な事ではありますが、手間をかけて増やしていくことこそ、伝わっていくのではないか、という説明を受けました。私も中山間地に住む者の一人ではありますが、自分の地域をどうしていくべきか、また、どう動いていくべきなのかを考えるきっかけを頂きました。一方で、先行する地域のようにUIターンなどの移住者を受け入れ続けることが出来る地域を創るためには、手間暇を惜しまずかけていくことが何よりも大事になるということを、強く感じたところです。私は、私にできることを一つ一つやっていくしかありませんが、今回の講演を聴き、子ども達の世代においても地域を維持存続できることができることを前提に、物事を考えていけると考えています。今回まとめることが出来たのは、講演のごく一部だけですが、本当に素晴らしい、島根の未来に期待の持てる講演でした。中山間地域の様々なところ、中山間地域に住む様々な方に、この講演を聴いて頂きたいと思います。