島根県中小企業家同友会

鳥取同友会米子支部1月例会 ~ちょっとずつのハードルを超えることが、将来に向けた種まきになる~

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2013年1月22日(火)、鳥取県中小企業家同友会 米子支部の例会に参加させて頂きました。この日は、『経営者が変われば会社も変わる』~次代の荒波に立ち向かう経営者の姿とは~と題して、㈱クニヨシ(広島県福山市) 代表取締役 早間雄大さんの報告を聴かせて頂きました。早間さんは、2012年10月に島根県で開催された、第40回青年経営者全国交流会でも報告(第二分科会)されています。私は別の分科会の担当ということもあり、聴くことができませんでしたので、今回は大変楽しみにしていました。

㈱クニヨシは、鉄・ステンレス等の一次加工・溶接等を行う会社です。早間さんは、27歳の時に家業として経営されていた㈱クニヨシに入社され、依存度の高かった親会社の倒産や主要顧客との決別などの経営危機を乗り越えながら、現在では従業員30名を超える企業にまで成長させていらっしゃいます。また、ちょうど10年前同友会に入会し、それも一つの契機として「家業から企業へ」の転換を決心され、従業員を雇用し、会社の方向性を定め、事業を発展させてこられました。今回、その経緯の一端と早間さんの考える中小企業が成長する秘訣を伺い、今後の当社の運営にも大きな示唆を頂きました。私が同友会に入会して以降聴いた報告の中でベスト3に入る内容でした。残念なのは少し時間が短かったこと。もっと詳しく伺えていたら、私のベスト1だったと思います。

㈱クニヨシ 代表取締役 早間雄大さん

1.「家業から社業へ」~自分の理想の実現には社員が不可欠~

早間さんは、㈱クニヨシに入社して5年目、寝る時間を極限まで削って働く日々を過ごしながらも状況が全く改善しない状況から、家業として会社を運営していることの限界を感じ、「家業から社業へ」の転換を図ることを決心されます。その具体策とは、「従業員を雇用すること」。家業として経営するのでも苦しいのに、その時に社員を増やして経費が増えれば益々大変になる、そう考えるのが自然ではないかと思います。

このことに関連し、本例会の最後の質問事項の中で「従業員を雇用する判断した時不安はなかったですか?給料が払えないのではないか?直ぐに辞めてしまうのではないか?と考えませんでしたか?」という問いかけがありました。これに対し、早間さんは「不安はあった。悩んで悩んだ。しかし、家業では良くならない、一生懸命やって来ても変わらなかった。であるならば、自分のやりたいようにやるべきと決断した。」と話されました。「自分の理想を実現するためには社員が不可欠」と社長が確信したこと。それが現在の㈱クニヨシをつくり上げた原点ではないかと感じます。

㈱クニヨシの経営理念は、「社員の物心両面の幸せを追求する」です。社員第一の考え方を前面に出した理念となっています。当初の理念には“お客様の満足”といった文言もあったようですが、現在は社員のことだけが示されています。これは、社員の満足度が上がればお客さまにも喜んでもらえるようになる、という考え方に基づかれています。このため、社員教育においても「自主的に考え、行動する」社員の教育を進め、指示ではなく、「説得」「納得」を心がけているとのことです。現在では、社員のみなさんが「勝手に」、会議、朝礼、掃除などを行うようになったそうです。この辺りの経緯も、もう少し伺いたいところでしたが、いずれにしても、将来目指す姿を経営者が明確に決めたこと。それが今日の㈱クニヨシを形づくっていることは間違いありません。

2.毎回のちょっと、ちょっとのハードルを超えることが将来の種まきにつながる

早間さんは、「経営者が勘違いしなければ、きっと中小企業は成長する」と明言されます。

その理由は、中小企業には不思議と身の丈に合った仕事が来る、という性質があるからだそうです。確かに、いきなり桁違いの金額やスケールの仕事が来ることはありません。そして、その身の丈にあった仕事の中でも、「ちょっと大きい」とか、「ちょっと長い」仕事をクリアしていくことが成長につながる、という経験を話されました。“ちょっと大きい”とは、作っても工場から出すことができない大きな物件を半分ずつ分割して製作することで上手く対応したこと。“ちょっと長い”とは、工場に入りきらない長さの依頼物件に対して工場の外壁を壊して対応したこと。いずれも、面白おかしく話しをされました。しかし、“ちょっとだけ”ハードルの高い案件をクリアしていくことで、会社、そして従業員が成長し、さらに将来の種まきにつながる。その継続が、現在の仕事として顕在化している、ということだと理解しています。

もう一つは、「中小企業のシェアは知れている」という捉え方です。早間社長は、自社のことを振り返って、「昔はとにかく仕事がなかった。でも、今は元気いっぱい。中小企業には好景気・不景気は関係ない。」と話されます。㈱クニヨシは家業から社業への転換以来、順調に成長されています。その間には様々な外部環境の変化があったでしょう。現在は、年商4億円程度の事業規模とのことですが、それでも全製造業の市場規模の中からみればごくわずかなもの、と考える訳です。だから、世の中にはいくらで仕事がある。後はその中で売上を上げやすい仕組みづくり、利益を出しやすい仕組みづくりを経営者が実行していくだけ。そうすれば、外部環境の変化に関わらず会社を伸ばすことは可能だと、自ら証明されています。仕事はいくらでもある。その前向きな捉え方こそ原点だと感じます。

もちろん、前向きな発想だけで仕事が来る訳ではありません。報告では、㈱クニヨシにおける具体的な方策として、「型鋼加工」という技術に特化して川上から川下までの包括的な受注に取り組むこと(特化することによるブランド戦略)、他社と同じ土俵で勝負するものと独自路線とを見極め自社の将来に必要な設備を導入、一社依存で苦い想いをした経験から取引先業界を分散させてリスクヘッジを行う等、の話を伺いました。その戦略性についても大いに学ばせて頂きましたが、このあたりは別の機会にもっと詳しく伺ってみたいところです。

3.その場所にずっといると、自分の立ち位置が見えてこない

早間さんは、同友会の活動にも大変積極的に取り組まれており、広島同友会の理事であり、青年部会連絡協議会会長も務められています。例会などの定例的な活動だけでなく、様々な会合、今回のように他県に出向いての報告など、忙しい合間を縫って、しかし、ほとんど断ること無く、同友会活動に力を注がれているそうです。

なぜ、そこまでするのか。それは、「その場所にずっといると自分の立ち位置がみえず、じり貧になる。」からだそうです。ここで言う“その場所”とは、一つは自分の会社の中であり、外の世界を見ることが必要だということ。その一例が同友会での活動でしょう。さらには、同友会でも、自分の地域の同友会だけでなく、全国の様々な同友会をみることでさらに立ち位置が明確になってくる。自社に足りないところが次々と見えてくる、という訳です。不足するところが浮き彫りになれば、そこを攻めていく。その繰り返しで、自社をよくされてきたこの10年間の実績と自信が、その言葉の正しさを物語っています。

ところで、早間さんは、18歳から26歳まで、「海外放浪の旅」に出ていたそうです。“バックパッカー”と呼ばれるそうですが、旅から戻ると日本で小金を稼いではまた海外を旅する、という繰り返しで様々な国を巡る8年間を過ごされたとのこと。それはそれですごい経験ですが、自社や自分の所属する組織だけに留まらず、様々なステージに飛び込んでいく行動力は、この時の経験にも大きく影響されているのでしょう。さらに、旅をして外に出ることで、自分の居場所の良いところも悪いところも分かる、ということを体感的に理解されているのでしょう。

多くの経営者は、いまから海外放浪の旅に出ることはできません。しかし、同友会をはじめ様々な学びの会に飛び込み、そこで地域の、さらには全国の様々な経営者と交流を持つという“経営を学ぶ旅”に出ることは可能です。その目的は、自社の立ち位置を明確にすること。そして今後進むべき方向を明らかにし、それを決断することです。今回、自分自身が求める姿を実現するためには、外に出ることに億劫にならず、進んで出かけていくことが必須であることを再確認し、そのための勇気を頂くことが出来ました。本当にいいお話でした。

例会の様子(グループ討議終了後の発表)

例会の最後に、参加者からの早間さんにたくさんの質問があり、その中で、興味深い回答がありました。「社員とのコミュニケーションはどうされていますか?、という問いかけに対し、「大事なことではあるが、特に重要視していない。たくさんある大事なことの一つ。それよりも、いい会社をつくることが基本。」と話されました。とかく、コミュニケーションという言葉が溢れ、経営上も重要課題として取り上げられることも多々あるご時世に、なんという自然体の回答。しかも本質を突いている。前述のとおり、若い時から国内外で様々な形の交流を経験してきた早間さんだからこそ、という面もあるでしょうが、ともすれば、コミュニケーションと言う言葉に縛られ、社員も経営者もお互いに気を使ったり、使われたり、というのも実態です。その中で、とても気持ちを楽にさせてもらえ、また、物事の本質を気づかせてもらうことが出来る言葉でした。次の機会には、もっと多くの事を学ばせて頂きたい、本当にそう感じさせて頂ける、すばらしい報告でした。今後の早間さんの、㈱クニヨシの益々のご活躍・ご発展を確信します。

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