島根県中小企業家同友会

第44回中小企業問題全国研究集会in広島 エネルギーシフトで中小企業の新しい仕事づくりを

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2014年2月13日(木)~14日(金)、第44回中小企業問題全国研究集会が広島にて開催されました。この大会は、全国中小企業家同友会全国協議会(中同協)が主催する全国大会の一つです。全国の中小企業経営者1,400名が集い、様々な分科会に分かれて中小企業の経営課題について討議します。今回、私は第12分科会「エネルギーシフトで持続可能な地域づくりを」へ参加しました。2013年10月に実施された、中同協によるドイツ・オーストリア視察の成果を踏まえた分科会です。再生可能エネルギーの活用をはじめとしたエネルギー政策の転換により、エネルギーの地産地消を進め、そのことを地域の中小企業の仕事づくりにつなげて行こうという提言があり、今後の可能性や方向性に関する議論が行われました。当社としての今後の方向性にかかるヒントを得られるのではないかと考え、参加したものですが、同友会会員でエネルギー問題に関心のある企業、既に様々な取り組みをスタートされている企業が参加された分科会であり、大いに気づきを得ることができました。テーマである「エネルギーシフト」の考え方、今後の可能性など、今回の分科会での気づきを整理しておきます。

報告する阪南大学 大槻名誉教授

1.「エネルギーシフト」の3本柱~単なる省エネや発電ではない~

今回のテーマである「エネルギーシフト」。イメージ的には何となく分かりますが、その中身を理解する必要があります。視察先のドイツでは、3本柱から構成されているとの説明がありました。

1つ目は、「建物の断熱性向上」です。断熱性を高めることで熱負荷を軽減し、使用するエネルギーを少なくする。いわゆる“省エネ”という分野になります。非常に肉厚の断熱材や三重窓の採用など、住宅の断熱性を高める技術の導入について紹介がありました。ドイツでは法律により室温が17℃以下となる住宅は造ってはいけないという規定があるそうで、そのため高性能の断熱材の採用や三重窓による高断熱化が進み、既存建物のリニューアルも盛んに実施されているようです。

2つ目は、「コージェネレーション等による熱利用効率化」です。コージェネレーションは、主にガス系の内燃機関の排熱を利用して、動力や温・冷熱、さらには再度発電を行うことで総合的なエネルギー効率を高めるシステムのことを言います。バイオマス発電とそれに伴う熱供給で地域冷暖房を実現する事例等の紹介がありました。“エネルギー利用効率向上”という分野であり、発電や熱利用も含めて効率的なエネルギーの活用を目指します。同じ量の燃料を使っても、利用効率を高めることでより多くのエネルギーを得よう、という発想です。

3つ目は、再生可能エネルギーの有効活用です。太陽光発電、風力発電、地熱発電など、再生可能エネルギーを活用して電力を得る、という“再生可能エネルギー発電”の分野となります。

この3つを総合的に推進するのが「エネルギーシフト」。こうしてみていくと、エネルギーシフトは、火力発電や原子力発電から再生可能エネルギーによる発電へ切り替える、という電源構成の転換ではなく、発電はその一部であることが分かります。発電は、エネルギー量の面では大きなウェイトをしめるかもしれませんが、それも含めて、もっと大きな転換を指していることが分かります。

2.エネルギーシフトと中小企業~どうやってビジネスにつなげていくのか~

エネルギーシフトによって、中小企業にどのような影響がもたらされるのか。そこにどのようなビジネスチャンスがあるのか、経営者の視点はそこに向けられます。前述の3本柱それぞれにについて考えてみます。

1つ目の“断熱性向上”は、ドイツの場合、住宅の断熱性能の確保を法律で規定することで、新しい市場を生み出しているといえます。そして、それは中小企業の振興施策に通じることを前提に実施している訳です。国が政策面で中小企業重視の姿勢を打ち出している点が大いに注目されるところです。2つ目のコージェネレーションも、大がかりなプラントになれば大手メーカーの出番となるでしょうが、最適なシステム検討を担うエンジニアリング部門においては、地域社会に精通した中小企業にも出番があります。さらに地域冷暖房など裾野の広いシステム(熱供給施設から個々の住宅までが施工範囲)の施工においても活躍の場が多々あると考えられます。3つ目の再生可能エネルギー活用は、言うまでもなく、各発電設備の設置や施工において中小企業の活躍の場がたくさんあると考えられます。

前述のとおり、エネルギーシフトはドイツの国策です。国として、既存の社会構造を転換させ、新たな市場や雇用を造り、国力を高めていこうとするもので、国としての思想、戦略です。わが国も、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の導入等、再生可能エネルギーの復旧に向けた施策に力を入れていますが、まだ緒に就いたばかりです。それが今後とも強力に推進されていくのかどうか、この分野において事業を伸ばそうとする経営者は注視しておかなければなりません。

一つ印象に残っているのは、化石燃料のコストは上昇していく可能性が高いのに対し、普及により再生可能エネルギーのコストはどんどん下がってくると予想される、という話です。今後とも原発は残るかもしれないし、当分の間は化石燃料も使い続けなければならないでしょう。それでも、省エネ、エネルギー効率化、再生可能エネルギー、の分野はさらに技術革新やコストダウンが進み、それに伴い市場が拡大する分野であることは間違いありません。いち早くシェアを確保し、ノウハウと実績を積んだ中小企業に大いなるチャンスが巡ってくる可能性があります。当社としても、そのチャンスに大いに挑んで行きたいと考えています。

3.エネルギーシフトのもたらすもの~エネルギーを媒体に地域でお金を回す~

「エネルギーシフト」とは、単なる省エネではなく、再生可能エネルギーの固定価格買取制度のことでもない。社会構造全体の転換、都市計画、建築、教育、地域社会を構成する様々な要素を含んだ大きな、社会構造そのものの転換だとされます。そう言われても中々理解することができません。しかし、理解するためのキーワードが補足報告の中にありました。それは、「エネルギーは国がつくるもの、と思っていたが、これからは地域がつくるものになる。」という説明です。

長い間、電気は電力会社から買うものでした。それが、今は太陽光パネルで自ら発電することが珍しくなくなっています。自分で使う電気は自分で発電した電気で賄っている家庭も増えています。そうなると、従前は電力会社に支払われていた電気代は、太陽光パネルやその設置工事費となって地元の工務店等に支払われており、今まで存在していなかった新しい価値が生まれたことになります。これは、地域のお金が、より身近な地域で回ることを意味します。今まで大資本へ流れていたお金が、より身近な地域で回る。お金が回ればそこに雇用が生まれ、生活がはじまり、消費が発生し、また新たな市場を生む。エネルギーをきっかけに地域でお金を回す仕組みを作る、或いは、地域にお金を回す選択肢を増やし、地域全体の経済活力を高めていく。それが地域の持続的発展につながる、ということだと理解しています。

なお、ドイツにおけるエネルギーシフトは、原発の撤廃が前提です。加えて、化石燃料を減らし、再生可能エネルギー中心の社会へ転換していくことを目指しています。そのことについて長い議論の末に国民の合意が出来ています。一方、わが国では、いわゆる“脱原発”に関する議論の結論は出ていません。今後、原発依存度が低くなっていくことは間違いないところかと思いますが、我が国においてどのような方向性が定まるのか、国民的な議論の決定には今しばらく時間がかかりそうです。今回の分科会でも、脱原発、原発廃止について多くの意見が出たようです。しかし、原発に賛成か反対か、という議論に入り込んでしまうと普及が進まない、という印象も強く受けました。

今回の報告のまとめでも、「エネルギー問題の中から地域の中小企業の強みを活かせる新しい仕事が出てくるだろう。それにいかに対応していくかが課題。」という総括がありました。その点については同感ですし、経営者としてはそこに注力して今後のかじ取りを考えたいと思います。

グループ討議の様子

この「エネルギーシフト」に関する分科会、一つ気になることがありました。現在、中同協ではエネルギーシフトの推進に向け「中小企業家エネルギー宣言」なるものを取りまとめ、政策提言していく準備を進めているようです。その原案を読んで気になるのは、「脱原発」を前提とした内容であるということです。この原案のまま方針決定されれば、同友会活動を“原発に賛成か反対か”、という議論に巻き込むことになりはしないかと懸念します。私は原発肯定派です。反対派の方がその立場で意見を主張し、活動されるのは結構なことですが、中小企業家同友会という組織が、組織として、脱原発・原発反対を前面に掲げる政策に舵を切るのはいかがなものかという気がします。会員の中にも賛成派・反対派が分かれるでしょう。省エネ、エネルギー効率化、再生可能エネルギー活用、というエネルギーシフトの3方策は大きな可能性を秘めています。当社も、地中熱をはじめ、再生可能エネルギーへの取り組みに大きく軸足を置いています。同友会がその分野の取り組みを推奨することも大いに歓迎です。だからこそ、それは、原発の是非を問う活動とは切り離し、あくまでも中小企業のビジネスチャンスの拡大という観点で推進されることを期待したいと思います。

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