地中熱活用

新規事業に向けて 地中熱ヒートポンプ空調システム完成~井水活用型熱交換井の可能性~

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2012年8月1日、かねてより導入を進めていた本社屋への地中熱ヒートポンプ空調システムが完成し、運転を開始しました。

思い起こせば、平成23年10月の「地中熱利用促進地域交流2011」への参加、そして同10月の経営指針の策定を契機に地中熱活用への事業参入を決意し、2012年2月の地中熱シンポジウムで地下水活用型の地中熱技術に着目、と地中熱への関わりを深めてきました。そうした中で、「島根で地中熱に取り組むにはまず自らやってみるしかない」と考えるに至り、本社屋への地中熱ヒートポンプ空調システムの導入に着手しました。国の補助金を活用したこともあり、それから半年をかけて遂に完成までこぎつけました。

今回、完成したシステムのPRも兼ね、このブログでその特徴や今後の可能性、自社に施工する中で見えてきた当社の立ち位置といったことについても整理しておきます。

制御盤に示されるシステム運転状況

1.ピーク時運転を継続しても従前の7割の消費電力~最大で約半分まで低減~

地中熱ヒートポンプを活用したシステム導入の魅力は、言うまでもなく「節電・省エネ」への貢献です。わざわざ地中に井戸を掘り、熱交換する設備を導入しても、それがエネルギーコストの縮減につながらなければ意味がありません。この点、地中熱ヒートポンプ空調は、明らかに節電・省エネに貢献します。

運転開始したばかりのデータではありますが、猛暑が続く中で最大限の運転を行った際の消費電力をみると、ピーク時運転を1カ月間連続で続けたとしても、昨年同時期の電力消費量と比較して、7割程度に留まる見通しです。このため、通常の運転になれば半分ぐらいまでは電力消費量が縮減されるのではないかと想定しています。稼働したばかりの速報値ですので、あまり大きな事は言えませんが、今後継続してデータを蓄積して把握し、検証していきたいと考えています。

一方で、導入に向けてはコスト縮減だけでなく、「費用対効果」が求められます。いくら電気代が安くなるとは言え、導入コストが回収不能では意味がありません。現状、地中熱活用のための設備にはそれなりのコストがかかります。その意味では、導入に適した施設や用途があると言えます。病院や福祉施設など、空調が必ず必要で、なおかつ年間を通じて常に運転が求められるような施設において導入効果が高く、費用回収も早くなると言えます。この点については、一般論ではなく、データを用いて素早く検証、提案できるような体制を早期に整えたいと考えています。

機械室の様子(手前がヒートポンプ)

2.予想以上の成果をもたらす井水活用型熱交換井~従来型タイプの10倍の能力~

地中熱ヒートポンプの空調システムは、大きく、熱源側(1次側)と設備側(2次側)に分かれます。当社が関与するのは主に1次側の熱源確保の部分になります。具体的には、ボーリングで地中を掘削し、熱交換のために不凍液を循環させるUチューブを埋設します。今回のシステムでは、一般的なUチューブ埋設型(ボーリング孔にUチューブを埋設して埋め戻す)と、井水活用型(井戸として仕上げてUチューブを挿入※井戸の中にチューブが浸かっているような形)を併設(100m×2本)しています。埋め戻すタイプが土を介して熱交換するのに対し、井戸式は水を介して熱交換します。どちらが効率が良いかは言うまでもありません。今回のシステムの大きな特徴の一つです。

これも速報値で恐縮ですが、井水活用型の熱交換井は、(あくまで当社システムの場合ですが、)一般的なUチューブタイプの熱交換井に比べて約10倍の能力を発揮していると推定されます。これが意味することは、「一般的な熱交換井10本分を1本の熱交換井で賄える」ということであり、1次側の熱源確保の施工費を大幅に削減し、より低コストで高効率の地中熱ヒートポンプシステムを構築できる可能性があるということです。今後データの計測を進め、その能力について精査したいと考えています。

ただし、この井水活用型の熱交換井は、どんな場所でも同じような性能を発揮できるとは限りません。そもそも水が出ないところもあるでしょうし、水量が足りないと場合もあるでしょう。また、出来るだけ深度の深いところで採水できるような条件が整わないと、高い能力は出にくい(井戸の中を地下水が循環しにくい)ということがあります。さらに、一般的なUチューブ埋設型の熱交換井よりも施工費が割高なため、掘削地の地質特性を踏まえて採水深度と掘削深度を揃えるなど、効率的な熱交換井に仕上げる工夫が求められます。そこに、地質の会社であり、さく井工事会社でもある当社の技術とノウハウ、データ蓄積が活きてきます。そのことをよく認識し、地中熱活用における当社の立ち位置を明確にしていきたいと考えています。

井水活用型熱交換井のピット

3.冷温水配管による空調がもたらす優しい風~費用面では改修よりも新築が有利~

地中熱ヒートポンプシステムによる空調の特徴として、熱交換のための触媒に水(不凍液)が使われるということがあります。一般的なエアコンの冷媒はガス(代替フロン等)であり、そのガスによって熱交換をします。ここに大きな違いがあります。

地中熱空調システムの冷風を体感すると、(現在は冷房ですので)一般のエアコンで感じられる、強烈に乾燥した肌に刺さるような冷風ではなく、適度に湿度を持った感覚を得られます。柔らかい風、優しい風、と言うこともできます。前述の地中熱システムが有効と考えられる病院や福祉施設などを利用する方のことを考えると、同じ冷房、暖房でも、適度に湿度を保った空気を供給することで、より過ごしやすい、体に優しい空間をつくっていくことにつながるのではないかと、その適性を感じています。

一方、設備的にみると、このことにより、施設内に「冷温水配管」を敷設することが必要になります。一般的なガス冷媒を循環させるための配管とは異なるため、既存の空調設備が一般の空気熱源エアコンで、その改修を行う場合、(当社もそうですが)屋内の配管ごと全てを交換することが必要となります。例えば、“空気熱源エアコンを省エネタイプのものに交換する”と言ったケースと比較すると、少なくとも屋内の配管工事については余計に費用がかかることになり、割高感が否めない結果となります。新築時の導入であれば顕在化しない問題ですが、改修ではコスト面で不利になることについて、認識が必要と感じたところです。

いずれにしても、このあたりはシステムとして2次側の話となり、当社の守備範囲からは少し離れてしまいます。しかし、地中熱を普及していこうとすれば、空調という分野は大きなウェイトを占めると考えられますので、専門ではないからと言って避けて通れません。基本的な知識やお客さまに対してお知らせしておくべき事項として、最低限の理解と知識を持った上で、様々な問題解決の場面に立ち会って行くことが必要と考えています。

屋内のファンコイル(既存エアコンから置き換え)…見た目は変わらない

最後に、導入にあたりシステム提案から設計、施工管理までトータルで支援して頂いた㈱アグリクラスターのみなさん、短い工期で屋内配管や機械室施工等を丁寧に仕上げて頂いた島根電工㈱シンセイ技研㈱のみなさん、熱交換井の掘削において泥水処理に苦労しながらも良好な井戸に仕上げて頂いた(有)サーマル設備商会のみなさん、改めてお礼申し上げます。また、社員のみなさんには忙しい中、熱交換井の掘削に際して色々と手伝って頂きました。また、7月後半からは酷暑の中、エアコン無しでの執務生活を2週間も耐えて頂きました。本当に苦労をおかけしました。重ねてお礼申し上げます。

様々な苦労を重ねたからこそ、いいシステムが出来上がり、当社の未来に向けて大きな一方を踏み出せたと考えています。しかし、これからがスタートです。このシステムを一つの広告塔として活用し、地中熱エネルギーのすばらしさ、有効性を、メリット・デメリットを世に伝え、その普及を通じて社会に貢献していく。そんな企業を目指し、日々取り組んでいきたいと考えています。

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