島根県中小企業家同友会

島根同友会雲南地区会3月例会~自分自身のハードルを上げる、奥出雲を守るために~

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2014年3月26日(金)、島根県中小企業家同友会 雲南地区会3月例会が開催されました。この日は、『俺は奥出雲町が大好きだ、だから自分と会社をでっかくする』と題して、有限会社吉川工務店 専務取締役 吉川朋実くんから報告を頂きました。同社は、島根県奥出雲町の建設会社であり、吉川くんは後継者として現在専務取締役のポジションにいます。私が島根にUターンし、経営者としての勉強をはじめるに際して、最初に親しくなった経営者(の後継者)です。見た目からして変わり者臭全開。話をすればさらにその認識が強くなりますが、人懐っこく憎めない。頼まれたことは断らず、約束は必ず守る。そんな彼とは、島根同友会をはじめ様々な会で顔を合わせ、常に刺激を受けながら5年の付き合いとなりました。今回、吉川くんの生い立ちから、現在までの半生について経緯をたどりながら聴くことで、今まで十分に理解できていなかった「吉川朋実」という人間の持つ魅力を理解するいい機会になったと思います。今回の報告の中で、私が特によかったと思う3つのキーワードを整理しておきます。

報告する吉川専務(Tシャツで報告した人は初めて見た)

1.自分自身のハードルを上げていく~“経営者”としての立ち位置を知る~

吉川くんが、最初に語ったキーワードです。広い世界を知り、色々な人と知り合う。特に、自分よりもレベルの高い人と付き合う、ということを重要視しています。彼は、自分自身でも“人間好き”だと語りますが、常に色々なところで人と話しています。デスクに座って仕事をしている姿はイメージできません。なぜ、そこまでたくさんの人と話をするのか。その答えの一つが「自分自身のハードルを上げる」ということです。

出身地である奥出雲町を愛する彼は、「吉川朋実が生まれた奥出雲町です」と話ができるぐらい、大きな人物になることを目指しています。そのためには、自分自身を常に高めていかねばならない。だからレベルの高い人と常に話をしている。大事なのは話を聴くだけではなく、自分の想いをぶつけているところです。簡単そうで、中々出来ないことです。私も、あまりに格上に感じる経営者の方や著名な先生などと会うと、思っていることの半分も話せません。話を聴くだけになりがちです。しかし、彼は臆することなく、自分の考えをぶつけていきます。時には真っ向から否定されることもあります。しかし、それでもあきらめずに自分の考えを述べていく。そういう場面を何度も見てきました。最初は“懲りずに同じ話ばかりよくするな”と思っていましたが、実は、このことが大変重要な意味を持っていると考えています。

同友会の学びの中で、よく「自社の立ち位置を知る」と言います。自社がどのようなレベルにあって、どこが足らないのか、どこに優れた点があるのか、たくさんの企業の中に出て行くから、その比較の中で自社の位置が分かる。これは、“経営者”という一人の人間に置き換えても同じことだと言えます。吉川朋実という経営者の立ち位置はどこにあるのか。自分よりレベルの高い人、あるいは経験豊富な人に、自分自身の考え方をぶつけることで初めてそれが分かる。彼がそこまで意識しているかどうかは分かりませんが、今回の報告を聴き、彼が日頃様々な人たちと議論を交わす姿を思い出し、改めて気が付いたことです。私自身、最近は“自分自身のハードルを上げる”ことに及び腰になっていた気がします。それでは、この先の成長が無いし、私の成長がなければ会社の成長もありません。そうなれば社員とその家族の幸せも訪れない。今回の気づきをしっかりと自分のものとし、私自身のハードルを上げるべく、取り組んで行きたいと考えています。

2.挑戦したことによって仲間が増えていく

吉川工務店は、3年前に新規事業として飲食事業(ラーメン事業)へ進出しました。1号店「中華蕎麦奨」を松江市内に開業。現在は、松江市内に2店舗、東京都内に1店舗、の3店舗体制となっています。単なるラーメン店ではなく、島根県ではあまり馴染みが無かった“つけ麺”という分野にチャレンジし、かつ高品質で高めの価格設定を定着させるという挑戦でした。その挑戦は、成功を収めつつあると思います。そんな、これまでの飲食業への挑戦を総括して吉川くんが語ったのは「仲間が増えた」ということ。銭金のことではなく、挑戦したことによって仲間が増え、さらに事業の広がりが見えてきた、と言います。

現在、仲間となった経営者と連携して新たな事業展開を模索しています。商工団体などで元々知り合いだった経営者もいますが、実際に事業を手掛け、具体的な取り引きなどが発生してから、そのつながりは強くなったように見受けられます。挑戦し、共に汗をかくからこそ、つながり合ってくる仲間がいる。そして、それは単なる仲良しグループではなく、実際に新しいビジネスを動かしていく仲間になっていく。今回の報告に際しても、その仲間がたくさん集っていました。あらためて「挑戦」することの大切さを教えてもらったと感じています。

もちろん、挑戦は本業である建設業においてもたくさんあります。新しい仕事をひるまず受注する気持ち。社員さんは大変でしょうが、それが風土になっているように感じます。それは域外へ出て仕事をするというスタイルにも見られます。従来、奥出雲町内のさらに限られたエリアで仕事をしていた吉川工務店は、現在では行政区域を越え、県内のさまざまなエリアで仕事をしています。元請けでは無く下請での仕事ですが、それでも貪欲に仕事に向っていく姿勢は、同じ公共事業を中心に仕事をしている私も、大いに見習いたい部分です。また、島根県内の建設業で初めて電子納品に取り組んだり、最先端の測量技術を導入したりするなど、奥出雲町のさらに奥に立地する会社とは思えない、多くの取り組み実績があります。

そして、今後、吉川くんが視野に入れているのは、飲食で学んだ「モノを売ることのむずかしさ」を建設業にフィードバックしていくことです。飲食業での学びを建設業に活かす。一見、関係がなさそうに見えますが、大変大きな示唆だと考えています。長年、公共事業に携わって来た者には、大きな勘違いが生まれます。それは、民間企業にとって、本来、「市場」とは自ら造り出していくものです。しかし、地方の公共事業の世界では、市場とは、国、県、市が“予算”という形で準備してくれるものであり、自分で創る、という感覚はありません。だから、その予算が減って来た時、なす術がなく、予算増を陳情するしかないのが公共事業の世界。その世界から抜け出さなくてはならないが、既にゆでガエル化して抜け出せない。これが現実だと理解しています。

前置きが長くなりましたが、吉川くんは、飲食業へのチャレンジを、そこから抜け出すきっかけにも使おうとしている訳です。後は、従来の建設業に従事する社員にそれがどこまで伝わるか。状況は私も一緒です。共に抜け出し、新たな世界を切り開くべく、今後の取り組みを注視していきたいと考えています。

3.奥出雲を愛し、奥出雲を守る~本社移転の裏に秘められたもの~

吉川工務店は、昨年度、本社の移転を実施しました。元々の地盤であった奥出雲町の馬木という地域から、横田という町の中心部への移転です。地方の建設業者にとっては大きな決断であり、投資だったと思います。なぜ、この時期、そのような投資が必要だったのか。同じ町内での移転は、公共事業の入札に関しては、特段有利に働く条件変更ではありません。それでも実行する真意は、「奥出雲を守る」、そして奥出雲で働く社員の生活を守る、という経営者としての意思表示です。

前述のとおり、吉川くんは建設業者としての吉川工務店の実力を高める一方、ラーメン店を開業するという飲食業への道を切り開きます。そのことは、それまで吉川工務店を守ってきた古株の社員にとって必ずしも歓迎される取り組みではないでしょう。吉川くんは建設業の後継者です。その後継者がラーメン屋に必死になっている。建設業をどうするつもりなのか。建設業を投げ出して外に出て行ってしまうのではないか。そう心配になるのが自然です。だから、「そうじゃない」という明確な意思表示が要る。そのひとつが、本社の移転と言う訳です。いかにも彼らしいやり方です。

その真意、直ぐに社員のみなさんに伝わるかどうかは分かりませんが、こういった大きな経営判断は、経営者の本気度を示すことには間違いありません。奥出雲の中心部に本社を移し、そこで建設業を続ける。それは、彼がライフワークとして示す「奥出雲を愛し、奥出雲を守る」ということのメッセージの形だということです。事業の維持存続を持って、そのことを是非体現してもらいたいと願っています。

そして、もう一つは採用。同じ奥出雲町内でも、中心部に近いエリアと、そこからは離れたエリアとでは就業環境も異なります。会社や地域をよく知らない若者が就職を選択するためには、町の中心部に立地する会社はアピール度が違うと言う訳です。事実、本社移転をきっかけに、社員を大幅に増やし、前述の地域外へのチャレンジに増員した社員を投入しています。一見やみくもに見えるチャレンジの裏に、緻密ではないが、したたかな計算もある。その勘所は、前述のとおり、多くの人と出会い、自分自身のハードルを上げて行く中で、一つ一つ身に付けていったものだと感じます。経営のベースはテクニックではなく、経営者の心の中にあります。経営者としの心をどう高めるのか。彼は、彼なりのやり方で一つの成功例を見せてくれているのだと理解しています。

報告にたくさんの仲間が集う

彼との出会いは、私の経営者としての学びのスタートラインとなった、島根経営品質研究会の講習会でした。そんなご縁から、当社の経営指針発表会には過去3回すべて出席してもらっています。その一方で、私は、彼のラーメン店「中華蕎麦奨」に週1回は必ず訪れ、店の様子や商品やサービスの品質など、チェックして時折報告しています。この3年間で、中華蕎麦奨はサービスも品質も大きく進化したと思います。まさに継続は力。また、私自身と彼は全く異なるタイプですし、私には彼の真似はできません。しかし、後継経営者であり、同じ公共事業の世界で仕事をしている仲間です。また、先代である父親との関わり方、会社に古くからいる社員との関わり方、多くの共通する課題も抱えています。だからこそ、様々な形でつながりを持ちながら、お互いにいい影響を与えながら、これからも一緒に成長できる仲間でありつづけたいと考えています。共に頑張りましょう!

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