島根県が主催する平成23年度「人財塾」に参加することになりました。
島根県商工労働部が企画されているもので、地域産業の振興を牽引する次世代リーダーの育成を目指し、自社の成長と地域内連携等に取り組む志がある経営者、後継者等を対象とした塾ということです。平成22年度から開催され、今年度が2カ年目です。
この塾は、1年間で計6回のセミナー、講演、視察などから構成され、参加者が5年後・10年後のビジョンを描くことがアウトプットになっています。また、県内の意欲ある経営者の方々とのネットワークを築けることも大きなメリットとされています。さらに、「日本で一番大切にしたい会社」の著者、法政大学大学院の坂本光司教授の講演、指導を受けることが出来るというのが一番のふれこみです。私も、たまたま案内を目にしたのですが、中々無い機会だと思い早速申し込みました。
第1回目は、2011年6月1日に開催され、開塾式に続き、株式会社オオゼキの本郷郷管理本部長を講師に迎え、「経営者の使命と責任は何かを考える」というテーマで講演・ディスカッションを行いました。同社は、東京都を中心としたスーパーマーケットを運営されている会社です。当然島根ではなじみがないですが、スーパーマーケット業界の常識と異なる独自の経営スタイルで、22年間増収を続けているというすごい会社のようです。その経営のエッセンスを伺い、業種は違えど経営者の果たすべき役割について様々な示唆を与えて頂きました。その一部を整理します。
1.オオゼキism(1)・・・個店主義
「個店主義」というのが、オオゼキを代表する特徴の一つだそうです。その店が立地する地域のお客さんの要望、特徴に応じた品ぞろえを各店がそれぞれで実施する。そのために、市場への買い付けはオオゼキの各33店舗のバイヤーがそれぞれ行うそうです。大規模なスーパーになるほど、一括仕入れによって仕入れ価格の低減や仕入れ業務の効率化を図るのだそうですが、そういった手法とは全く正反対のやり方と言うことになります。仕入れは自由に各店で行う分、各店のバイヤーが自分で買って来たものは自分で売らなければならない。だから本当にその店で売れる商品を仕入れるし、何としても売りたいという気持ちが売上につながると言う訳です。そのために、商品の配列や値段の設定まで、販売のためのほとんどすべての権限が現場に委ねられている。自分で考え、判断し、行動する従業員が育っているからこそ成り立っている仕組みだと思います。
2.オオゼキism2・・・正社員比率70%と権限委譲
一般に、スーパーマーケットというのは正社員3割、非正規(パート等)7割といわれ、その構成で人件費を抑制して利益を出すものだそうですが、オオゼキでは逆で、正社員が7割という構成になっているそうです。その分人件費は増える訳ですが、正社員とすることで販売に対する責任感を高めていると言う訳です。当然ながら正社員率の高さと、前述の個店主義は一体のもので、さらに各店への「権限委譲」が加わって、独自の店づくりと自分の判断で人材行動できる人材育成を実現しているという訳です。一方で、そんなオオゼキでも、人を辞めさせないようにするのも大変な仕事だというお話がありました。正社員だけでも1000人以上いる会社ですので、中には色々な人がいるでしょう。面倒をみていくための努力も大変なものだと思います。しかし、その努力を惜しまないのは、そのことが様々な結果につながるということを承知されているからなのだろうと感じました。
3.オオゼキism(3)・・・お客様第一主義~お客さんが来た時間が開店時間~
お客様第一主義、とはあらゆる商売を行っている会社が掲げているキャッチフレーズですが、具体的にどう体現化するのかは難しい課題です。オオゼキでは、(一応決まっている)開店時間の前でもお客さんが店の前に来れば、そこで開店するそうです。店内の準備が出来ていなくても取りあえず中に入ってもらって商品を見てもらう。中々できないことです。また、ポイントカードならぬ“キャッシュバックカード”の導入。一般にスーパーマーケットのポイントカードは、溜まったポイントをその店の商品を購入するためにだけ使えるのですが、オオゼキでは、現金でキャッシュバックしてしまうそうです。この現金還元は利用者にとっては大変魅力的ですし、実際大好評だそうですが、現金を返してしまうとそれだけ正味の店の身入りが減る訳ですから、お客様第一主義とは言え、実際にやってしまうというのはすごいことです。お客様第一と言うことに対する企業としての本気度が伺える取り組みだと思います。
以上は、オオゼキ流のスーパーマーケット運営の一端ですが、その根底にあるのは「人材育成」ということでした。第1回のテーマである「経営者の指名と責任」の答えの一つが、人材育成だというのは間違いないでしょう。ところで、講演の冒頭、「社長室はやめた方がいい」という話がありました。従業員と同じ職場、同じ机、同じイスで仕事をする。従業員と同じ目線で相談する。何かあったら声をかける。そのことで人が育つ。どんな企業、どんな業種であれ、“やるのは人”。その心をつかんでいれば良い企業になる。ならないとすれば経営者の真剣さが足りないからだと。どの企業であっても通用する、そして経営者が常に頭に置いていなければならない心構えを改めて気づかせてもらいました。
この「人財塾」ですが、今年の参加者36名のうち、昨年度からの継続組の方が19名と、半分以上いらっしゃいます。企画としては1年間で完結する内容で立案されているのだろうと思いますが、これだけ多くの方がもう一度(もう一年)受講したいと考えるというのはすごいことです。それだけ得るものがあったと感じた方が多かったのでしょう。私も期待したいところです。また、行政が計画・立案する企画で、これだけの盛況な状況になるというのもいい意味で意外性があります。島根県の行政も捨てたもんじゃない、というと失礼ですが、我々のような地方部では、行政だから、民間だからという隔てなく、やる気のある者が一緒になって色々なことに取り組んでいくということが大事なんだと、改めて感じたところです。