島根県中小企業家同友会

島根同友会新春合同例会 「地域経済循環の現状と戦略~人口と所得の1%を取り戻す」

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2015年1月18日(水)、島大毎熊研究室・島根同友会合同新春講演会が開催されました。「地域経済循環の現状と戦略~人口と所得の1%を取り戻す」と題し、島根県中山間地域研究センターの藤山浩 研究統括監を講師にお招きしました。藤山浩さんは、島根県益田市生まれで、現在も益田市に在住し、田園生活を営まれています。国土交通省、農林水産省をはじめ各省庁の各種委員を歴任される中山間地域研究の第一人者であり、地元島根の中山間地域の実情、そして今後どうしていくべきなのかについて最も知見の深い方です。今回の講演も、まさに目からうろこ、そして、島根に住む我々自身が認識を新たに持つべき話をたくさん伺うことができました。その一部をまとめておきます。

講演する藤山さん

1.「市町村消滅論」への疑問~一番の例外は海士町~

冒頭の話は、いわゆる「市町村消滅論」に対する問題点の指摘でした。日本創世会議によって発表された、「全国の地方のうち896自治体で消滅の可能性がある」という報告。島根県のみならず全国的に大きな衝撃を持って受け止められました。藤山さんは、危機意識を喚起するための刺激的な問題提起であり、全国的にも地域的にも持続可能な人口動態ではないという指摘は重要、としながらもいくつかの疑問点を提示されました。具体的には、データ時期が2010年の国勢調査までで2011年以降のUIターンの増加が反映されていない、東京圏への一極集中が収束しない前提、データ単位が広域合併後の市町村単位で小地区単位での定住状況差を反映していない、などというものです。

その一番の例外が「島根県の海士町である」と指摘されます。海士町の取り組みは市町村消滅論が話題になって以降、とくにメディアでの露出が増えたようにも感じます。高校の入学定員が1クラス増えた、保育所に待機児童が発生した、などUIターンの成功によって町に活気が生まれている様子が取り上げられ、全国的にも注目されています。その海士町の人口推計ですが、2010年の国勢調査で2374人であったものが、日本創世会議の予測値では2040年に1,294人にまで減少するのに対し、島根県中山間地域研究センターの予測では2039年に2,434人と人口増に転じています。この違いは、20~39歳の女性の人口数、前者が町全体で53人にまで減少するのに対し、後者では223人となっていることによるものです。海士町は、既に人口増加基調に転じており、子どもが増えていく島になっている、と説明されます。

そして、実は、海士町はトップランナーではあるが、特別な事例ということではなく、島根県全体でも同じような傾向が起こりつつある、ということです。今回の講演で最も驚かされる点でした。

2.人口の1%を取り戻す~田舎の田舎は人口が増えている~

“田舎の田舎”は人口が増えている、という現実があるということです。島根県内の中山間地域を小学校区単位で見ていくと、人口が増加基調に転じている地区が多数あるそうです。そのこと自体驚きですが、そのポイントはやはり若い女性の数と子どもの数。30代の女性の増減をみると、県内の中山間地域(小学校区単位)227地区のうち、96エリアで増加しているそうです。地域一体としてUIターンに取り組み、成功しつつある地区ということです。それらの地区でも人口総数であれば減少しています。しかしそれは、昭和1ケタ世代の自然減によるもので、社会増に転じている地区が多数あるというのが藤山さんの説明です。

この成果は、ひとえに地域の存続をかけて新たな転入者の受け入れに地域を上げて取り組まれている住民のみなさんの取り組みの結果であるとともに、東日本大震災以降の、日本国民の価値観の変容もあると指摘されます。その例え話が秀逸でした。これまでの日本をすごろくに例えると、ゴールが東京であった。すなわち、東京すごろく。しかし、それがゴールと思わない人が増えてきた。田舎に住んでいることが自体悪くないと考える人が、増えてきた、と言う訳です。

藤山さんは、今後の中山間地域のとるべき戦略として、「1%戦略」を示されました。毎年、外部からの移住により人口の1%を増やしていく、というものです。そのことで人口が安定し、30年後にも今の人口がほぼ減らない、高齢化率が上がらない、子どもの数が減らない地域ができる、と話されます。それを実際に試算と各地域の実績により実証されています。1%でいい、しかし、継続していく。100人であれば1人。1000人であれば10人ですから、毎年と思えば大変ではありますが、出来ない数ではない、という印象を持ちます。海士町や、島根県内の中山間地期で起こっている事実を共有し、島根県全体で取り組んでいくことで、島根県の中でも中山間地域の将来に明るいものがある、と理解していくことにつながる、とても希望の持てる話を頂きました。

3.所得の1%を取り戻す~地域内循環の再構築~

人口の1%にあわせて、「所得の1%を取り戻す」、というお話も伺いました。「地域内経済循環の強化が必要」という考え方です。地域内でお金を循環させるという指摘。今回、長年にわたる家計支出調査の結果を踏まえて、具体的に聞かせて頂きました。

まず、現状を単純に言うと、「住民所得に等しい金額が域外流出している」ということです。これは、ある一定の規模の地域の中での出来事として集計されていますが、島根県全体でみても、総県民所得と同じぐらいの金額を、県外から調達しているということです。当然、これをすべて域内で調達することは現代社会の生活ではできません。しかし、1%を域内に取り戻せば、それが新規定住を実現するための原資になりうる(事例として、高津川流域(約7万人)の場合、1%で303組の新規定住に相当)、と試算されています。

その具体例ですが、例えば食費。近年では特に外食費が相当な割合で域外に流出している。これを地域で賄えるようにするだけで多くのお金が地域に回り、雇用を創出できる。そしてクルマ。購入費及び維持費でかなりの支出を取られているようです。今後は電気自動車など、エネルギーを域外市場に頼らない方法が導入可能な手段の普及に取り組むべきとのこと。そして、大きな課題は学費だそうです。特に大学の学費。これが原因でUIターンに踏み切れない移住希望者も多いとのこと。それが無ければ田舎に住んでも家計収支上は大きく変わらない。子どもの学費を貯めるために都会で働いている、という実態が調査から浮かび上がると言います。しかし、その原因が分かれば、その部分を何らかの支援でカバーすることによって、地域への定住を促進するという施策の方向性を探ることもできます。

エネルギーも当然のその中に入ります。エネルギーコストとして地域外に流出している金額は大きなウェイトを占めています。よく言われるように、地産地消の再生可能エネルギーによってエネルギーコスト、代表的に言えば電気代、地域内に還流していく。電力小売自由化の流れの中で地域電力会社の設立を通じて資金の地域内循環を実現しようとされている事業者が全国にたくさんいます。そういった大きな流れを逃さず、中小企業として地域を維持存続させていく中で生き延びる術を探っていくことが必要だと、実感するお話だったと感じています。

講演する藤山さん

藤山さんの最後のメッセージは「急いではいけない」というものでした。1%ずつ進めていく。それとて大変な事ではありますが、手間をかけて増やしていくことこそ、伝わっていくのではないか、という説明を受けました。私も中山間地に住む者の一人ではありますが、自分の地域をどうしていくべきか、また、どう動いていくべきなのかを考えるきっかけを頂きました。一方で、先行する地域のようにUIターンなどの移住者を受け入れ続けることが出来る地域を創るためには、手間暇を惜しまずかけていくことが何よりも大事になるということを、強く感じたところです。私は、私にできることを一つ一つやっていくしかありませんが、今回の講演を聴き、子ども達の世代においても地域を維持存続できることができることを前提に、物事を考えていけると考えています。今回まとめることが出来たのは、講演のごく一部だけですが、本当に素晴らしい、島根の未来に期待の持てる講演でした。中山間地域の様々なところ、中山間地域に住む様々な方に、この講演を聴いて頂きたいと思います。

 

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