島根経営品質研究会の活動の一環として、「株式会社さんびる」さん(以下、「さんびる」と記載させて頂きます。)の第39期経営方針発表会及び創業祭(2015年2月28日開催)に参加させて頂きました。昨年度は都合がつかず参加できませんでしたので、1年ぶりの参加となりました。さんびるは、山陰を中心にビルメンテナンスや指定管理、教室運営などを中心に、多様な事業を展開され、近年では九州、関東など中国地方外のエリアにも事業を拡大されています。今回の経営方針発表会でも、この数年来の会社の成長を実感させて頂きました。(過去の発表会の様子 第36期発表会、第35期発表会)
さんびるでは、役職員全員をフルネームで呼び合います。「社長」とか「部長」といった呼び方はしません。このため、さんびるの代表取締役社長は田中さんですが、以下、“田中社長”ではなく、“田中正彦さん”とフルネームで記載しています。 今回は、田中正彦さんの発表会での発言の中から私の気づきをまとめておきます。
1.発表会は魂を入れる場所
発表会の冒頭、田中正彦さんは「発表会は方針に魂を入れる場所、目と耳と魂を清めてしっかり納得理解して下さい」と語られました。言い換えて、企業価値、あるいは存在価値を入魂する、とも話されました。企業は方針に沿って事業運営を進めていきます。しかし、その前提にある企業の価値、存在意義、を社員一人一人が理解した上でなければ、本当の意味での企業価値の実現には至らない、という基本認識があると理解しています。
私の理解では、魂を入れるとは、頭で理解している理念であったり企業の存在意義であったりするものを、トップからの直接のメッセージを通じ、その場所と時間を共有することで社員一人一人が腹に落とすことだと考えています。そのため、さんびるの経営方針発表会では、全ての説明は田中正彦さんが行います。部署長が説明したりする時間はありません。全てトップが話をすることで、トップの想い、トップが進める方向性を明確なものにする意図があるのだと、以前聞いたことがあります。言うまでもなく、経営の責任は全て経営者にあります。だからこそ、発表会で伝える方針とその魂は全てトップが語る。それを徹底されているのが、さんびるのやり方ということでしょう。
そして社員にどう伝えるのか。田中正彦さんは、冒頭、「本気でやっていけない人は、どうぞゆっくり辞めて下さい」、「能力があっても覚悟が出来ない人は、どうぞ他社で能力を発揮して下さい」、と明言されます。このことは、さんびるの経営方針書に書いてあります。だから、明確に発言して構わない。その一方で、社長自身が先頭に立ってやりつづけることもまた明言する。それが毎年行われます。全マネジメント社員とたくさんの来賓の前で繰り返し明言するからこそ、社員にもその本気度が伝わり、社員に田中正彦さんの魂の言葉が注入されるのだと実感しています。
2.鉄砲は売らない、玉を売る
田中正彦さんが発表会を通じて強調されていたことの一つが、さんびるのビジネスモデルについてです。すなわち、「鉄砲は売らない、タマを売る」ということ。要するに「繰り返し発生するお客様の需要に答える」ということです。さんびるの主力であるビルメンテナンス、指定管理業務、教室運営、といった領域はまさにそれに該当します。また、新しい事業領域として、空調設備の領域にも進出されていますが、これもエアコンなどの設備工事の受注をねらっているものではなく、その受注後の設備メンテナンスを定期的な仕事にしていくことを目指しています。
この、繰り返し発生する需要に答えるという観点、建設業や建設関連業に従事する者にとっては、非常に頭を悩ませる大きな課題です。建設業は、基本的に一品ものであり、一度きりの商売です。もちろん補修や修繕もありますが、繰り返し定期的に(もっと言えば毎年)発生する需要ではありません。このため、常に新しい需要を開拓し、毎年ゼロからその積み上げをしていかなければなりません。そこから(一部であっても)脱却して行かなければ、今後の事業継続は難しくなってくるという認識は業界共通だと思います。
建設分野においても構造物等の維持管理が叫ばれるようになり、新設から点検・補修の領域に転換しつつあります。当社でも、温泉や水源井戸のメンテナンスの領域で実績を増やしつつあります。これとて同じお客様から毎年発生する仕事ではありませんが、市場で一定のシェアを確保することで、平準化してみると年間一定程度の仕事を確保する、といったことが可能ではないかと考えています。後は、その転換を加速化させなければなりません。何をしなければならないか、何が急ぐのか。大きな示唆を頂きました。
3.目標はそのとおり行かないからこそ必要
今回、印象に残った田中正彦さんの言葉があります。「目標はそのとおりに行かないからこそ必要」というものです。目標と実績の差との意味するものを読み取って方向性を見出す。さんびるの第38期は、目標を大きく上回る売上を確保し、今回の第39期の計画につなげています。いい時はもちろんそれでいい。しかし、目標が達成できなかった時にこそ、この言葉の持つ意味が重要になってくると感じます。
当社は、今期は業績的に大変苦戦しました。目標に対しては大幅に未達です。当社における目標と実績との差が意味するものは何なのか。それを見出すのは経営者の仕事です。答えの一つは“営業力”です。当社の技術やサービスを地域の市場において周知することが十分に出来ていない。また、そのための努力が足りていない。そのことが今期の業績に直結していると認識しています。また、自らの市場を広げていくこと、新しい市場を自ら創出していくこと。その取り組みがスピード感に欠け、従来市場の変化(縮小)に追いついていないことも要因です。
当社も、2015年3月14日に経営指針発表会を開催します。現在その準備中ですが、目標と実績とのかい離をどう捉え、どう次に活かすのか。その問題意識をどうやって社員全員で共有していくのか。発表会を前に貴重な気づきを頂いたと考えています。
さんびるの社員のみなさんとは、島根経営品質研究会での活動を通じて仲良くさせて頂いており、顔見知りの方もたくさんいます。発表会の後は創業祭(懇親会)が開催され、そちらにも出席させて頂いています。発表会及び創業祭の司会は、新入社員(採用予定社員)が担当するのが通例で、毎年新しい方がたくさん入社されています。どんどん知らない顔が増えています。一方で、馴染みの方はどんどん役職が上がり、若くても営業所を任されるなど、その活躍のステージをあげています。新しい人財を獲得し続けることと、領域を拡大して活躍のステージを創っていく。その2つが上手く出来て来ているのだと感じます。当社も人財の獲得と市場の創出、その両輪を回し続けることで成長していきたいと考えています。最後になりますが、田中正彦さん、さんびるのみなさん、今年もお招き頂いてありがとうございました。引き続き学ばせて頂きたいと思います。