島根県中小企業家同友会

島根同友会出雲支部記念講演~3Sの徹底から新しい企業風土の創造へ 「経営者の本氣」とは何か~

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2013年6月18日(火)、島根県中小企業家同友会 出雲支部総会記念講演が開催されました。この日は、『一生懸命だけで社員がついてくるかい!とことん本氣でやらなアカン!!~経営者の覚悟と徹底実践が会社を変える~』と題して、株式会社山田製作所 代表取締役 山田茂さんから報告を頂きました。同社は、徹底した3Sの実践で知られ、工場には年間200社以上が見学に訪れるということです。山田さんは大阪府中業企業家同友会の副代表理事も務められるなど、同友会活動にも精力的に取り組まれています。今回、元々は営業目的で始めた3Sが企業風土の変革にまで昇華した経緯、その途中での経営者としての様々な苦難と葛藤、それを乗り越えた先にあるもの、等多岐にわたるお話を頂きました。山田製作所の経営の神髄を理解するには私では役不足でしたが、私なりの気づきを整理しておきます。

講演される㈱山田製作所 山田社長

1.経営者の経営姿勢とは?~経営者の言葉にウソがあってはならない~

今回の講演の中で考えさせられたことの一つに、「労使の信頼関係」があります。信頼関係とは何なのか。私と社員との間に信頼関係はあるのか。大いに考えさせられるお話を頂きました。経営者の「経営姿勢」が信頼関係を結ぶためのベースにあることは間違いありません。では、経営姿勢とは何なのか。同友会的には、明文化された経営理念をはじめとした「経営指針」がそれにあたるのでしょう。しかし、当然ながらそれだけでは足りません。経営指針で示したことが実際に実践されていなければならない。社長が自分で決めたことを自分でしていなければ、社員が信頼するはずもありません。山田さんは「経営者の言葉に嘘があってはいけない」とおっしゃいます。当たり前のことのように感じますが、何かあれば都合の良い“いい訳”を考えて実践を怠っていることが多いのではないか。改めて身につまされます。

「『儲かったらハワイ旅行に行こう!』などと言っていませんか?」と山田さんはおっしゃいます。それも経営者の言葉のウソだと。社長としては冗談のつもりであっても、社員からすれば“もしかしたら?”という思いもあるでしょう。良く言われることですが、社員は社長の一挙手一投足を注視しています。だからこそ、社長の発言や行動のブレにはとても敏感です。社長が決めたことをやらない、実行しない、ということでは、社長と社員の間に信頼関係が生まれるはずもないし、日頃実践していても、一つの失敗でもそれが失われてしまう可能性もある。それだけ、経営者は一日一日を、一つ一つの行動を自覚し、取り組んでいかなければならないということだと、つくづく感じます。

当社のことになりますが、実は、この6月に、私が社長就任以来では最大の昇給(といっても大した増額ではありませんが)を実施することにしました。社長に就任して4期が過ぎ、過去3期は様々方のおかげでまずますの業績を確保することができました。特に前期はあらゆる方面の受注が順調に伸び、会社としても大きな転機を迎えた、ということを理由にしています。しかし、本当の理由は、自分自身の言葉にウソがあったと気が付いたからです。私は、これまで、社員には「業績がよくなれば昇給もする。賞与も増やす。」と言ってきました。賞与については、過去3期、当初の予定よりも多く(これも額はわずかですが)支払っています。しかし、月例賃金はあまり大きく変化していません。財務的に脆弱な状況であるなど理由は色々ありますが、経営サイドからすれば月例賃金よりも賞与でバランスを取りたい思いがどうしてもあります。ですが、社員からすれば、それは経営側の都合に過ぎません。だから、過去3期の好業績は社員に我慢を強いて得た成果とも言えます。

いずれにしても、「業績がよくなったら給料を増やす」という私の言葉は、過去3期はウソになっていたと思っています。そのウソは改めなければならない。もちろん、昇給するには勇気が要ります。また、社長の気分で昇給していてもいけません。現在の給与規程に則って昇給します。しかし、基本的な認識として、一昨年、経営指針を策定して新しい方向を目指し、少しずつ成果がでている。それなのに社員の給料を据え置いていた(もちろん、全く昇給していない訳ではありませんが)のでは、いい方向に動くはずもありません。むしろ、そのタイミングだからこそ、勇気を持って社員との約束を果たし、会社全体を前向きに切り替えていく。その決断を行う勇気を頂いたのは、今回の講演でした。とてもいいタイミングで話を伺えたことに感謝し、社員とともにさらなる会社の成長を達成することで、お返ししたいと考えています。

2.人間尊重の経営とは?~社員の可能性を見つけることに全力をかけているか?~

同友会では「人間尊重の経営」という考え方を重視し、経営の柱に据えています。この言葉、何となく意味は分かりますが、具体的にはどういうことなのか。先日松江で開催された、中同協(中小企業家同友会全国協議会)の役員研修会でも同じテーマで話があり、間をおかずに今回の話を聴くことで、更に理解が深まったように感じています。

山田製作所の事例として、弟さんである専務がある社員の可能性を見出し、仕事の合間を縫って4カ月間休みなしで一緒に勉強を重ねた結果、現在ではバリバリの営業技術者に育った、という事例を丁寧に話して頂きました。それこそが、人間尊重の経営だと語られます。社員を甘い意味で育てるのではない。経営者が真剣に社員と向き合って一緒に育っていく。社員が育つという結果、それは、社員の得意分野が明確になり、会社にとってなくてはならない存在になること。或いは、お客さまから信頼され、社員自身も自信を持って仕事ができるようになること。そんな社員を育てることこそ、人間尊重の経営なのだと。このお話でも、ともすれば社員の顔色を伺ってしまっている自分自身に気がつくとともに、本氣の経営、本氣で社員と向き合う、といった要素に欠けていることを痛切に感じます。

社員は潜在能力を持って入社してくる。無限の可能性を持っている。確かにそのとおりではあるが、本に書いてある話しとしてではなく、経営者が本氣でそう思っているのか。そういうつもりで社員に接しているのか。それを問いかけられているのだと理解しています。だから、最も大事なことは、経営者自身が「社員の可能性を見つけることに全力をかけているか?」ということ。山田さんは、その状況を「100%の力で社員を引き上げる。社員も100%の力でついてくる。」と語られます。今、当社の中にそんな本氣のやりとりがどれだけあるのか。私自身が、どれだけそのやり取りに加われているのか。一昨年、経営指針は創った。その内容に基づいて取り組んでいる。しかし、社員と経営者との係わりがどれだけ変化したのか。社員は本当についてきているのか。今一度考えることのできる、いい機会を頂きました。

3.社員教育力のある会社とは?~先輩がそっと横に立っていてくれる会社~

山田さんは、現在の山田製作所について、「正直、業績的には厳しい。しかし、雰囲気はすごくいい。いつからそうなって来たのか。振り返えると、9年前、新卒採用を始めてからだ。」と語られます。

新卒採用には大きな意義がある。その一つは先輩が伸びる、ということ。人が子を持って初めて親になるように、社員も、後輩が入って来て初めて先輩になり、部下を持って初めて上司になる。その役割が、新しい気づきをもたらし、その人を伸ばすきっかけになる。当社も新卒採用をはじめて2年になります。新卒の新しいメンバーが加わることにより雰囲気が変わるのはもちろん、先輩たちの意識や姿勢が変わってくるのが分かります。私自身も変わります。いや、変わらざるを得ない、と言った方がいいかもしれません。「育てなければならない」という使命感。「成長して欲しい。」という応援する気持ち。即戦力の中途採用とはまた異なる、新卒採用が持つ力を感じるところです。そしてその次のステップとしては、会社としての教育能力、ということになります。

今回、「社員教育力のある会社」とはどんな会社なのかというお話がありました。それは、「後輩が、もっと勉強したい、もっと技術をつけたい、と感じた時、そばにそっと先輩が立っていて一緒に取り組んでくれる会社、そんな雰囲気のある会社」ではないか、と話されます。別のいい方をすれば、お互いがお互いに関心を持ち、その上で、それぞれが求めていることに気づき、さらには、そこにきちんと手を差し伸べることができる社員が集まる会社、ということではないでしょうか。この関係をつくり上げていくのに重要な役割を果たすものの一つが「新卒採用」。手を差し伸べる後輩がいなければ教えようもありません。

そして、もう一つ大事なこととして、「人手」から「人財」への転換、という話をされました。仕事が忙しくなると「“人手”が足りない」とよく口にします。この段階の認識は、仕事量をこなすための“頭数”でしかない、という指摘です。“人手”ではなく、“人財”として雇用する。当たり前のようだけど、そうなっていない場合も多い。“人財”だから、新卒で採用して育成する。経営者が、社員をそういう観点で見ているのか。私も過去2年、新卒採用に取り組んできましたが、なぜ新卒採用するのか、なぜ新卒採用しなければならないのか、その本当の意義が初めて理解できたような気がしています。当社は、これからも新卒採用に取り組み続けます。

100名を超える聴講者

最後の結びに、山田製作所を大きく変貌させたきっかけである3Sについて、「誰でもできることを、誰でも出来ないぐらいやる。」とおっしゃいました。たかが3S、されど3S。3Sが徹底していれば仕事が来るんじゃないか?という発想からスタートした3Sが、誰にも真似の出来ない素晴らしい企業文化として確立し、社員が生き生きと働き、共に育ち、共に学び合う会社になった。その原動力が、山田製作所では3Sだった。他の会社では他のやり方があるかもしれません。しかし、その根底にある「守ることを決めて、決めたことを守る」企業文化をつくっていくこと、は共通の価値観として持ち、当社も当社に合った方法で新しい企業文化を作っていき、社員の活躍によって伸びていく会社を実現したいと考えています。また、実際に山田製作所にお伺いし、いきいきと働き、自信をもって自分の会社を説明する社員さんを、ぜひ自分の目で見て、肌で感じてみたい。そして、いずれは当社がそういう会社になる。そんな前向きな目標を持たせて頂ける、素晴らしい講演でした。

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