地中熱活用

新規事業に向けて 地中熱利用シンポジウムで地中熱の新しい方向を垣間見る

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2012年2月29日、地中熱利用促進協会主催の「平成23年度第2回地中熱利用シンポジウム~地下水利用型地中熱システム~」(於 東京大学 駒場キャンパス 理想の教育棟)が開催され、参加してきました。地中熱利用促進協会では、年2回程度の地中熱に関するシンポジウムを開催しています。再生可能エネルギーへの注目が増す中、参加者は年々増え続けているようです。

今回のテーマは、「地下水利用型地中熱システム」です。現在普及している地中熱のシステムは、地中にUチューブと呼ばれるパイプを埋設し、その中で水又は不凍液を循環させ、地中の熱との熱交換を行うタイプが主流ですが、地下水利用型システムは自噴している地下水、又はくみ上げた地下水から直接熱交換を行うものです。Uチューブを使うタイプに比べて熱交換の効率が高く、高い主力のヒートポンプを動かすことができる一方、地下水資源の枯渇につながるという問題や、地下水放流や還元に伴う環境への影響等の課題もあります。

今回のシンポジウムでは、地下水利用型の地中熱システムことのみならず、地中熱活用に関する様々な先進事例、今後の方向性について学ぶことが出来ました。その概要を整理しておきます。

開会前の様子(東京大学 駒場キャンパス 理想の教育棟)

1.ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の中核に地中熱システム

シンポジウムの特別講演で、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)という聞き慣れない言葉が出てきました。しかし、これは地中熱システムの将来性や今後の展開を期待させる大きなキーワードの一つです。

ZEBの定義は、「建築物における一次エネルギー消費量を、建築物・設備の省エネ性能の向上、エネルギーの面的利用、オンサイトでの再生可能エネルギーの活用等により削減し、年間の一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロ又は概ねゼロとなる建築物。」というものだそうですが、簡単に言えば、省エネの徹底や再生可能エネルギーの多面的な利用などを組み合わせ、建物の運営・維持に係るエネルギーを建物の中でつくるエネルギーで±0にする、ということになります。平成21年11月には、経済産業省(資源エネルギー庁)が、我が国の建築物のZEB化に向けた報告書を取りまとめており、建築物のZEB化に向けたビジョンとして、「2030年までに新築建築物全体での実現」ということを掲げています。要するに、2030年においては、新築の建築物はすべてZEBにしようという話で、かなり踏み込んだ提案になっているようです。

そして、このZEBの実現に向け、“中核的な技術の一つとして地中熱がある”、という訳です。すでに米国や英国では国策としてZEBの推進が図られているようで、我が国においても推進の流れは出来つつあり、その中で地中熱がさらに注目されてくることは間違いありません。非常に夢のある、そして現実として対応していかなければならないと認識させられる話を聞くことができました。

2.地下水利用地中熱システムからみる、地中熱の可能性と課題

今回のシンポジウムのテーマである地下水利用地中熱については、全国各地の事例紹介がありました。

石川県金沢市の福祉施設への導入事例では、RC造4F、7,000㎡、150床の病院施設への地下水利用地中熱システムの導入について報告があり、施設全体で約20%のエネルギー利用料の削減が実現されたとの説明がありました。重油使用のボイラーで給湯、暖房していたものを、冷房もまとめて水冷式のヒートポンプでカバーしたという事例です。全体のエネルギー削減量という観点もさることながら、現在重油を使用している給湯や暖房は、原油の高騰などに代表されるようにランニングコストの長期的なコストアップが懸念されます。さらにはCO2の問題なども含めると、この“重油ボイラーから地中熱への切り替え”が、非常に有効性や将来性のある分野ではないかと、認識を新たにしました。

森ビルにおける都心部の再開発事業における地中熱導入では、“検討の結果採用を見送った”という事例紹介がありました。都心部の高層ビルの場合、限りある敷地を高層利用するため、熱交換井のボーリング工事が制約を受けることや、そもそも敷地が限りあるため熱交換井の掘削本数が限られ、ヒートポンプの容量が限定されてしまう。その結果、地中熱導入の施工費を省エネ化による削減費用で回収できにくい、という課題があるようです。地中熱も万能ではなく、対象とする建物や敷地の状況によって他の再生可能エネルギーを使い分ける必要があると感じたところです。

3.地方部の会社こそ注目すべき地中熱への取組み

今回、地下水利用地中熱について3件の事例発表がありましたが、長野県、石川県、山梨県、という地方部における取組みの発表でした。そして、その取組みの中心になっているのが、地方の中小企業です。特に、我々のような地質調査やさく井工事などを手掛けている会社が積極的に地中熱に取り組んでいます。

私は、地中熱への取組みは、これまでボーリング技術を用いて地質調査やさく井工事に携わってきた技術者、技能者の新しい活躍の場の創出につながり、かつ、再生可能エネルギーの活用という喫緊の課題にも対応できる分野との認識から、必ず取り組まなければならない領域と考えています。今回のシンポジウムでの発表、懇親会での交流などを経て、全国各地、特に地方部で地中熱に取り組まれている企業の方々も同じような認識でいらっしゃるのだということを実感しました。

ふだん、島根県に居て、従来からの仕事に追われていると中々見えてこないことがあります。こういった全国大で開催され、各地から地中熱に先駆的に取り組む企業が集まる場に出向くことで、やるべきことが見えてくるのだと改めて感じたところです。

地中熱は、日本中どこでも活用できる熱エネルギーであり、だからこそ、地方の企業が中心になって取り組む必要があると考えています。その一方、地中の“熱特性”は全国どこでも全く一緒ではない、という話も伺いました。今回のシンポジウムのテーマとなる地下水利用という観点も含めれば、地域毎に大きく環境は異なりますし、同じ地域でも敷地が異なれば違う場合もあります。だからこそ、地域に根差し、地域に精通した企業が取り組むべき領域だと考えています。

懇親会の様子

これまで我々は、地中の地質特性に着目した仕事をしてきましたが、このノウハウに、地中の“熱特性”という観点を加え、それを分析・提案する能力が、この地中熱活用には求められます。その地域に即した熱利用のあり方を、地中の熱特性に合わせて最適な提案を行う能力、これが今後の地中熱活用を活性化させるキーポイントになると考えています。その提案ができる会社を目指し、新しい技術の研鑽、ノウハウの蓄積に取り組んでいきたいと考えています。

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