2012年6月6日、平成24年度地中熱利用促進協会の総会が開催され、私も参加してきました。特定非営利活動法人 地中熱利用促進協会は、設立から8年という新しい団体ですが、平成24年6月1日現在の会員数は団体会員176社、個人会員56名、特別会員64名。特に団体会員はこの1年で53社が入社し、前年比143%という増加率で、この協会の活動に対する関心の高さを伺わせます。
当社も今年度上期中の完成に向け、本社屋への地中熱ヒートポンプ冷暖房システムの導入に着手しており、地中熱活用事業への本格的参入に向けたタイミングでの総会でした。地中熱を取り巻く情勢や今後の新しい方向性など、新しい姿を垣間見ることができました。総会、特別講演、懇親会、それぞれでの気づきを簡単にまとめておきます。
1.「節電」という観点で見直される再生可能エネルギー
改めて言うまでもありませんが、現在、「再生可能エネルギー」に注目が集まっています。特に、“節電”という観点からです。もう一つ“省エネ”という言葉があります。同じように使われることが多いですが、似て非なるものです。この点について、開会にあたり挨拶された協会理事長の笹田政克さんからお話がありました。
省エネとは、電気や熱エネルギーの年間での消費量全体を削減するもので、総コストそして、CO2の削減などの効果が現れます。一方、節電とは、ピーク時の電気使用量を削減するというものです。原子力発電所が停止して発電能力が下がっているので、夏場の昼間など電気を最も使う時間帯に電気が足りなくなる。これを回避しようというものです。ですので、夜間のエアコンを我慢するというのは、(電気代の節約にはなるが)節電上の意味はない、ということになります。
地中熱は、もちろん省エネであり、節電にも効果を発揮します。地中熱という温度差エネルギーは、夏場に一般の空冷式エアコンを使うよりも大幅に効率が高まるため、我慢して暑い思いをしなくてもピークカットに大きな効果を発揮します。このため、地中熱の売りの一つとして、特に都市部を中心に、節電、そして省エネ、ということを協会としても大きく謳っており、アピール材料にしています。当社でも、本社屋に導入する地中熱の冷暖房システムの効果をしっかりと計測し、節電そして省エネに対する効果をしっかりとアピールしていく必要があると考えています。
もう一点、再生可能エネルギーについて、現在、世の中は「固定価格買取制度」のことで持ちきりです。地中熱に代表される“熱利用”からはフォーカスが外れているようにも映ります。地中熱は「発電」ではないため、“運べない”(送電できない)という特性があります。しかし、それは生産した場所で消費する、地産地消のエネルギーと言うことでもあります。だから、その地域地域できちんとした仕事ができる企業が必要になる。これも地中熱という事業の特性で、まさに地域に根差した中小企業との親和性の高い事業領域であると、認識を新たにしたいところです。
2.イノベーションで未来を拓く~やってみなければわからないからやってみる~
今回の総会では特別講演として『創発的破壊:日本のパラダイムチェンジ』と題し、一橋大学イノベーション研究センター教授 米倉誠一郎氏から講演がありました。一見、地中熱とは関係なさそうなテーマでしたが、“地中熱”活用によって引き起こされるイノベーションについて、大きな時代の流れに着目しながら大変興味深い講演をして頂きました。
「イノベーション」とは、社会経済に新しい価値を生み出すこと。大きく、新しい製品、新しい生産方法、新しい市場、新しい材料、新しい組織、の5つに分けられる。地中熱による再生可能エネルギーの活用も、大きなイノベーションの可能性を有しているという訳で、今回の講演をお願いされたという経緯のようです。
なぜ、地中熱なのか。その答えは、大きな時代観と決断力、ということになるようです。戦後復興のプロセスをみると、戦後、大量生産・大量消費の時代が来ると確信し、そのための投資を決断した企業や事業家が成功した。それになぞらえば、これからは3.11以降の日本がどこに行くのかを読み切った者の勝ちだと言われます。米倉先生の答えは「脱原発・脱炭素社会のリーダー」。今までの半分のエネルギーで生き、そのエネルギーソリューションを世界に売っていく。だから地中熱を活用する。そのための技術を高め、市場を開拓し、材料を開発し、組織をつくるのだと。大きな夢、将来への展望を感じさせて頂ける話しでした。
そして、演題にもなっている「創発」という言葉。言葉の意味は、「部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れること」。1つ1つは小さくてもまとめることで大きく爆発的に広がっていく。創発こそ、イノベーション。イノベーションは誰かがすることではなく、一人一人がすること。事実、地中熱に取り組んでいるのは中小企業で、大企業ではありません。それは地産地消のエネルギーで地域それぞれの特性に応じた対応が必要だからということもあります。だから、地方の一つ一つの中小企業が積極的に取り組むことで、1社の力は小さくても地中熱全体が爆発的に広がっていく。そういう将来の姿を見据えて、このようなお話をされたのだと理解しています。
最後に、今回記憶に残った言葉があります。「悲観主義は気分の領域、楽観主義は意思の領域」、そして、「やってみないとわからないからやってみる」のだと。とかく、リスク分析だ、ケーススタディだ、というご時世に、非常に痛快な言葉でした。もちろん我々中小企業がやることですから際限なく出来る訳ではありません。しかし、“まずやってみる”というその気持ち、意思、それが未来を切り開くのだと大きな勇気を頂いた講演でした。
3.設備施工を担う企業の役割と方向~設計から施工までのトータル提案~
総会の後は懇親会が開催され、全国で地中熱に先進的に取り組まれる様々な企業の方と情報交換させて頂く機会がありました。その中で気が付いたこと、現在の当社の取組みの方向性を改めて確認したことがあります。
前述のとおり、当社では今年度上期中の完成に向け、本社屋への地中熱ヒートポンプ冷暖房システムの導入に着手していますが、各社とも当社の自社でまず導入してから推進するという進め方については、島根県内での実績がほとんど無い状況では、非常によいアプローとのではないかという感想を伺いました。その一方、価格についてはきちんと交渉した上で安く導入できるようにするべき、ヒートポンプをはじめ設備側のメンテナンスにしっかり対応できる体制がある企業と連携しながら進めるべき、などのご意見も頂きました。いずれも考慮に入れて進めてはいますが、特に価格に関する部分は、単に交渉で安くするというアプローチだけでなく、システムそのものの簡素化や効率化、必要な熱量に見合ったシステム、設備の導入といった対応が大事ではないかと考えています。
その意味で、当社が目指すべき姿は、単なる地中熱交換井の掘削工事業者ではなく、設計段階から地中熱システムに関与し、お客さまに対してトータルで提案できる企業となっていくことが重要、との認識を新たにしました。本社屋システムの導入をきっかけに地中熱のPRを図るだけでなく、社内の教育・訓練体制を充実させることも並行して実施していきたいと考えています。お客さまが求めているのは設備やシステムではなく“問題解決”、お客さまはそのための「提案を待っている」、このことを常に頭に置きながら今後の取組みを展開していきます。
地中熱利用促進協会の総会、そして懇親会に参加して一番感じるのは、「勢いがある、今後に向けた展望がある」、ということ。当社もいくつかの業界団体に所属し、その総会に出席します。基本的に公共事業を主体とした団体ですので、総じて雰囲気が暗いのが実情です。しかし、ここにはそういった総会とは全く異なる雰囲気があります。ただ、展望があるということは競争も厳しいでしょうから浮かれてはなりません。しかし、協会をつくって活動をするのであれば、将来が展望できる、こういった局面だからこそ一致団結できるのだろう、そう感じます。地中熱分野が当社にとって重要な方向性の一つであることを改めて確信し、具体化に向け大きなエネルギーを頂いた総会でした。