地中熱活用

「地中熱」普及期到来に向けた課題~地域のトータルエンジニアリング会社の必要性~

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

地中熱利用促進協会の主催する平成26年度地中熱関連補助金説明会、並びに、同協会の普及促進部会に参加してきました。国のエネルギー基本計画(政府案)にも、再生可能エネルギーとして「地中熱」というキーワードが明確に示され、そのことも踏まえて次年度に向けてさらに充実した補助制度が準備されています。国レベルで地中熱の認知度が高まり、普及期を迎えつつあることが実感できます。その一方、世界的にみれば欧米だけでなく、中国・韓国、等と比べても我が国における設備容量は2ケタ、3ケタ少ない状況で、今後の飛躍的な普及を実現するためには、様々な課題が山積していることも事実です。今回、そういった大きな転換期において、当社がどのように取り組んでいくべきかたくさんの示唆を得ることができました。

今後の展望について語る笹田会長

1.「地中熱」の課題は地域のプレイヤー育成~トータルエンジニアリングの実現~

補助金説明会の中で経済産業省の担当者が一番に指摘されたのは、「地中熱のプレイヤーが少ない」という課題です。

これまで、地中熱は再生可能エネルギーの中でもマイナーな存在であり、その仕事はいわば“すきま産業”的な側面を持っていました。例えば、現在、太陽光発電を扱う企業は全国どこの地域に行ってもたくさんありますが、“地中熱”(ヒートポンプを使うタイプ)を掲げている企業に出会う事はあまりありません。市場が限られるので大手企業の参入もほとんどなく、中小企業を中心として業界が構成されています。しかし、今後、本格的な普及期に入ってくるとすれば、それだけではプレイヤーが足らなくなります。もっと大手の企業の参入もあるかもしれませんし、各地域で活躍するプレイヤーもたくさん必要になります。その環境づくりに向けて、地中熱利用促進協会は大きな役割を果たすものと期待しています。

さらに、もう一つ大きな課題があります。それは、「トータルでのエンジニアリング、企画提案のできる企業の存在が必要」という指摘です。地中熱は、いわゆる1次側と呼ばれる地下での熱交換(ボーリングやUチューブの敷設等)とヒートポンプまでの部分と、2次側と呼ばれる屋内の設備(ファンコイルや配管等)から構成されます。この1次側と2次側がトータルに分かる企業というのは、極めて限られるのが実態です。地下部分と地上部分を総合的にみて企画提案することが出来る企業。それが、今後求められる企業像であるという訳です。

当社の目指すべき姿もまさにそこにあると理解しています。単なる施工業者ではなく、お客さまへの提案段階から一緒に有るべき姿を探り、地中熱という地産地消の熱エネルギーを最も効率的に活用できる企業。そのためにやらなければならないことはまだまだたくさんあります。しかし、やるべきことが分かっていれば、そこに向う方法を探すだけです。次年度以降の具体的展開に向けて、より明確な方向付けを示したいと考えています。

2.コスト削減だけでない、“地中熱”ならではの価値創造へ

地中熱利用促進協会の普及促進部会として認識する普及促進に向けた最も大きな課題は「コストの削減」です。いわゆるボアホール方式による地中熱活用は、ボーリングによる掘削費が大きなコストを占めるとともに、ヒートポンプや屋内側の設備もまだまだ割高な状況にある点は否めません。

現在、“補助金制度が無くても10年以内で元が取れる”コストを目指し、コストダウンの実現に向けた各種の取り組みが進められようとしています。もちろん、このコストダウンが普及に向けた大きなハードルであるし、それに向けた努力を続けることは大事だという認識は変わりませんが、そのコストダウンが不毛な価格競争によって実現されては事業者が疲弊するだけだと懸念します。前述のとおり、地中熱に係るプレイヤーを増やしていくことが重要なのであれば、適切な付加価値を持ったものとして普及していくことが大事ではないかと、改めて感じています。

そこで注目されるのは、当社の地中熱ヒートポンプ空調システムでも採用している「ヒートクラスター方式」(特許第5067956号)です。㈱アグリクラスターが開発したこの方式は、mあたりの採熱量が通常のUチューブ方式の10倍に達するため、1本あたりのコストは高くても、トータルでは従来よりも大幅に少ないボーリングコストで、同じだけの能力を有する地中熱システムを構築することができます。いち早く採用して運用している当社としても、このシステムの優位性を明らかにし、地中熱普及の一翼を担うべく、取り組んで行きたいと考えています。

そして、以前のブログでも書いた、地中熱活用に伴う「幸せ」の創出がもう一つのポイントではないかと考えています。その後、新たな発見が無いままですが、“地中熱”であることが利用者の方にもたらす“ちょっとした幸せ”。普及に向けた重要な課題の一つとして、引き続き追及していきたいと考えています。

3.地域における理解促進への取り組み ~同じ目的に向って夢のある未来を~

今回、次年度以降も地中熱の活用が加速化していくであろうという実感を得る一方、残念だったこともあります。地中熱利用促進協会が調査した「全国の地方自治体における地中熱に活用できる補助金・融資制度」において、中国地方の都道府県・地方自治体には、地中熱を活用できる制度がほとんど存在しなかった、という点です。地中熱の普及が進む北海道、東北の自治体に様々なメニューが存在する状況とは大きく異なります。

もちろん、国の補助金は活用できますので、それを使えばいいのですが、先進的に導入が進んでいる自治体では、国の補助金が補助対象外としている部分(例えば、一般的に国補助金は2次側を対象外としている)を自治体がカバーし、さらに導入しやすくする、という対応が図られています。補助金頼みの時代がいつまでも続く訳ではありませんが、普及啓発期においては支援施策にもまだまだ期待したいところです。この点は、地元の事業者である我々が自治体などに対してもっと要望していくことが必要なのだろうと感じたところです。また、一社だけでなく、地域で地中熱を活用していこうと目的を同じに取り組む会社をもっと集めることが必要だとも感じます。

業種業界に捉われず、目的を同じくする企業と一緒に取り組む。そして、新しい領域だからこそ、その先にある明るい未来が展望できなければなりません。地中熱利用促進協会の掲げる地中熱設備容量の中長期目標は、2013年度の推定が85MWt(メガワットサーマル、熱量でのメガワット数)であるのに対し、2020年で400MWt弱(約5倍)、2025年には1000MWt(約12倍)を掲げています。これを実現するためには前述のプレイヤー育成やコスト削減だけでなく、政策的誘導策など多様な手立てが必要になります。しかし、それでもこれだけ伸びる市場として夢を持てるということは、素晴らしいことだと理解していますし、頑張ろうという気持にさせてもらえます。

経済産業省資源エネルギー庁からの施策説明

今回の説明会及び部会を通じて、次年度以降も地中熱に関する動きが大きく広がることは間違いないという期待感を得る一方、当社の現在の体制ではそれに対応してく事が難しいのではないかという不安感があります。平成25年度、当社において地中熱に関する新しい仕事の受注を獲得することはできませんでした。問合せは頂きますが、具体的な事案には至っていません。それは、「地中熱をやる」と言いながら私自身の実践が不十分であったからに他なりません。“いつか、いつかと思うなら今”、と言われるように、今、新たな領域に向けた取組みに向けて、思い切った決断をしなければ、いつするのか。今、一生懸命、必死に動かなかったらいつやるのか。ある意味、心地よい焦燥感を得ることができましたし、次年度に向けた決意を新たにするいい機会となりました。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す

*