島根県中小企業家同友会

島根同友会会計セミナー「会計を経営に活かす」~経営を伸ばすベースとして会計がある~

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2013年2月5日(火)、島根県中小企業家同友会の会計セミナー「会計を経営に生かす」が開催されました。講師は、山陰経済経営研究所の常務取締役地域振興部長 遠藤励司さんです。遠藤さんには、毎年、新春経済セミナーで山陰地域、さらには日本、世界の経済動向について講演を頂いています。今回、「会計を経営に活かす」と銘打って会計の基礎知識を中心に、さらには企業経営の在り方についての指摘も踏まえながら講演を頂きました。そして、中小企業の実態に即してつくられた新たな会計ルールである「中小会計要領」の説明も含め、限られた時間ではありましたが、広範なお話を頂きました。

今回、初めて耳にした「中小会計要領」。中小企業は、この要領に基づいて会計処理を行うことが推奨されているとのこと。細かい実務的内容の確認は資料等に譲るとして、今回、その要領を使うことの意義として、“中小会計要領のお役立ち”という3つの視点から説明がありました。その内容を実際の経営にどう役立てていくのか、私なりの整理をしてみます。

講演する遠藤さん

1.財務の把握~利益を出し、正しく会計する~

“中小会計要領のお役立ち”、一つ目は、「財務の把握」という観点です。

中小会計要領のリーフレットによると『「中小会計要領」に準拠した会計処理で日々の取引を記録(記帳)し、その記録を取りまとめた決算書を通じて、自社の経営成績や財政状態を知ることができます。』とあります。さらに、『決算書は事業年度(1年)単位に作成されるのが一般的ですが、月次や四半期毎など定期的に管理することで、常に最近の経営状況を把握することができます。』と続きます。

言うまでもないことのような気がしますし、そもそもそれが出来ていなくて、会社が存続するのかと不思議なくらいです。しかし、実態として中小企業、零細企業の中には、経理処理に割ける要員の制約などの事情もあり、日々の経理処理が後回しになっている場合もあるでしょう。月次での収支管理ともなれば、全ての会社で実施されていないだろうとは思います。これらが出来ていない会社があるとして、きちんと実施することのメリットは、「決算書の信頼性の向上」です。取引先に対して、信頼性の高い決算書を提示できる体制があれば、取引の継続性、確実性を高めてくれるでしょう。

しかし、注意しなければならないのは、正しく正確に記載された決算書でも、収支状況や財務状態が著しく悪ければ、それは取引に値しないと判断される場合もあるということ。毎期利益を積み上げて財務体質を強くしていく。その努力と実践が前提であればこそ、信頼性の高い決算を行う意味も増してくると言えるでしょう。もっと言えば、中小企業においても、いわゆる財務会計に加え、その企業・業種の実情に応じた管理会計により、収益性や利益確保の目安を常に把握できるようしておくことが重要ではないかと感じます。小規模な会社だから容易に把握できるデータもある。それを、次の一手に活かしていくことが必要でしょう。その話はまた次のステップなのかもしれません。

セミナーの中で記憶に残っているのは、『豊かになるため、利益をあげるためには「道具」が要る。それをどう調達(貸借対照表)して、どう活用(損益計算書)したかの結果報告が決算書である』、という説明です。そして、『道具と借金を正しく後継者に伝えることが、事業継承に際しても非常に重要になる』という指摘は、大変腑に落ちるものでした。何が本当か分からないような決算書は、それによって一時的に苦境をしのいだとしても、いずれその会社に災いをもたらすことになるでしょう。ましてや、そんな決算を後継者に引き継いではならない。私自身が肝に銘じて、今後の経営に活かしたいと感じる言葉でした。

2.経営改善等~同業他社との比較分析~

“中小会計要領のお役立ち”、二つ目は、「経営改善」という観点です。

財務的観点からの“経営改善”をどう考えるか。リーフレットには『経営者が自社の財務の数値を用いて、自社の過去と現在の状況や、同業他社の状況と比較・分析することで、会社の課題や問題点などがわかり、将来の事業計画に活用することができます。』とあります。これも当たり前のような気がしますが、同業他社との比較・分析を通じて、自社の課題や問題点を把握することの重要性は、言うまでもありません。

講演では、特に、『“粗利益率”について他社と比較することが大事』との説明がありました。確かに、同業他社の粗利益率との比較が出来れば色々なことが見えてくるでしょう。さらに突っ込んで言えば、売りが弱いか、仕入れが弱いか、といったことが分かれば、自社をどう改善すればよいかが見えてきます。加えて、講師からは「問題なのは、問題が何か分からないこと」との指摘がありましたが、的を得ています。

当社は、建設業として登録しています。大半の建設業者は、「経営審査事項審査」を受けており、専門とする登録業種における実力が数値的に評価されています。この経営審査事項の結果はインターネットでだれでも閲覧することが出来ます。そして、結果の中に財務諸表の概要が開示されています。これを見ることで、建設業の同業他社の財務状態が概ねどのような状況にあるのか把握することが出来ます。そして、同業他社の財務状態を経年的に把握することで、見えてくることがあります。自分の立ち位置を把握するとともに、他社においてどのような改善策が実施されているのかを推察することもできます。業種によって様々かと思いますが、こういった情報収集とその分析、それを踏まえた経営改善は非常に重要な取り組みだと認識しています。

3.金融機関との信頼関係~実績と発展がベース~

“中小会計要領のお役立ち”、三つ目は、「金融機関との信頼関係」という効果です。

リーフレットでは『自社の財務について、金融機関など外部の利害関係者への報告・説明が正確なものとなり、利害関係者との信頼関係の構築に繋がります。』とあります。昔のことは良く分かりませんが、今日では、金融機関からの資金調達が必要な会社において、金融機関に報告する財務をごまかしたところで、メリットはほとんどありません。むしろ、財務が悪いのであれば、勇気を持ってその実情を開示し、その上でどのように対応していくべきか金融機関と話し合っていく、という姿勢が大事だし評価されるでしょう。

しかし、ここでも忘れてはならないのは、自社の財務を、正直に、正確に報告したからといって、事業継続が期待出来ない状況では結局支援は受けられない(場合もある)ということです。正しい財務は金融機関との信頼関係を構築するベースではあるが、金融機関から融資等の支援を受けられることを確約するものではない訳です。正しい財務を報告することが金融機関との信頼関係構築につながるのではなく、将来に向けた事業の発展を展望し、その実現に向けて着実に毎期の実績(利益)を計上していくことが、信頼関係構築の基本に他なりません。そこを勘違いしないことがとても重要だと感じます。

そのために役立つのが同友会の経営指針です。経営指針(経営理念、経営方針、経営計画)を定め、それを着実に実行に移し、結果を出していく。そのことが、金融機関からとても評価を受けることは、当社が実際に取り組んだ経験からも実感します。同友会で無くても構いません。将来を展望し、計画を立て、着実に実行する。そして、その結果は正しい財務処理によっていなければならない。そのことを改めて感じたところです。

配布されたリーフレット類

今回紹介して頂いた「中小会計要領」。会計事務所に確認したところ、実務的な処理については当社の会計でも一部そぐわないところがあるようでした。いずれも今後是正していくべき事項であり、出来るだけ早い時期に、当社の会計処理もこの中小会計要領に沿ったものにしたいと考えています。ただ、この中小会計要領が求めているのは極めて基本的なことであり、誠実に真摯に経営に取り組む姿勢そのもの、とも言えます。会計を正しく行った上で、経営を伸ばしていく。その一言に尽きるような気がします。

リーフレットの表紙に書かれた「新規投資をしたいけど、財務は大丈夫…?」、「もっと資金調達をスムーズに行いたい…」、「頑張っているのに、経営が良くならない…」。といった課題。『これらの問題の解決に中小会計要領が役立つ』とPRされています。繰り返しになりますが、中小会計要領に沿って会計をするだけで、これらの問題が解決する訳ではありません。正しい会計は、課題解決に向けて正しい解決策を導くためのベースであり、適切な会計を前提に経営を伸ばしていくとこそが本質、との理解を再度確認したいところです。

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