島根県中小企業家同友会

島根同友会出雲支部2月例会~「お金のことは心配するな!」と表明する意志決定~

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2014年2月7日(金)、島根県中小企業家同友会 出雲支部2月例会が開催されました。この日は、「『できない理由は考えない!どん底から1年で奇跡の会社再建 ~債務超過・社員の笑顔が無い会社を、入社4年目の経営者が変えた~』と題して、協栄金属工業株式会社 代表取締役 小山久紀さんから報告を頂きました。同社は、昭和47年に設立され、島根県雲南市掛合町で金属製品製造業を営む会社です。代表取締役の小山さんは、この会社に中途入社してわずか4年で社長を引き継がれました。同社は、地元の雇用確保を大きな目的として設立されたものの、厳しい経営環境の中で借入金が膨らみ債務超過に陥り、切羽詰まった状況の中で大規模なリストラも実施せざるを得ませんでした。そんな中、社長に就任され、崩壊しそうな会社で奮闘されました。その結果、社長就任後、会社はV字回復を果たし、県内外からも注目を集めています。今回、小山さんの経営者としての覚悟、心がまえ、強い意志を伺い、取り組みの経緯についてお話を頂きました。

報告する小山さん

1.投資の決断と資金調達が経営の生命線

今回の報告では、小山さんが入社4年目で経営者になるときの覚悟、入社早々にリストラを担わされた後悔や、さらには前職のゴルフ場が倒産に至ったことの反省、やはり中小企業は経営者の覚悟で一気に会社を変えるという実例を紹介頂いたと思います。

その一方、多くは語られませんでした、業績を改善させるための手法として大きな役割果たしたのは、現場の生産体制の改善だと感じました。その肝は、「少量多品種の受注形態になっていたのにも関わらず、大量生産型の体制を取っていた」工場の体制転換にあると理解しています。協栄金属工業は、広大な敷地に様々な生産設備を有すると強みの一方、「造るより運搬している時間の方が長い工場だった」と表現されるように、生産効率に大きな問題を抱えていた工場だったようです。おそらく、そのことに小山さんは早くから気づいていたものの、経営の意思決定体制が整わない中で後送りになり、その間に業績がさらに悪化し、益々改善できなくなる、という悪循環にはまっていたものと考えられます。

だから、小山さんは社長就任早々、大がかりな生産体制の改善を指示し、あわせて「お金のことは心配するな」というメッセージを打ち出します。これは、中小企業が投資を決断するタイミングについて大きな示唆を与えて頂きました。企業存続の生命線の一つになりうる投資の意思決定。やればいいと分かっているが、「もし上手く行かなかったら」と思うと決断できない。小山さんの場合は、「そうするしかなかった」と話されますが、改善のための投資を行うしか前向きな選択肢がなかったのも確かでしょう。しかし、それでも意思決定出来ない経営者もいるだろうし、そもそも投資のための資金調達が出来ない企業もあると思います。協栄金属工業の場合は、小山さんが本気で策定された経営再建計画に加え、金融機関やオーナー企業など様々な支援が合った中で、そのような選択肢を選べたのだろうと推測しています。

生産形態の転換が図られれば改善の余地がある、という経営者としての目論見、やるしかないという経営・財務環境、厳しい中でも資金調達ができた支援体制、これらの要素が整った事が、協栄金属工業のV字復活につながったのではないかという印象を持ちました。そこから感じられるのは、未来に向けた投資を意思決定ができる環境にあるのであれば、勇気を持って決断することの重要性です。

私も、社長就任当時は恐ろしくて投資が出来ませんでした。経営状態が良くなかったこともあり、経費を減らすことばかり考えていましたし、“投資などもってのほか”と考えていました。今振り返れば、その時期に徹底した経費節減を行ったから次のステップで回復基調に乗れたのだと思いますが、ずっと経費節減だけにこだわっていたら業績の回復は無かったと思います。では、何が転機になったのか。それは、やはり「経営指針」です。小山さんも、縁あって大坂同友会での学びを通じて経営指針を策定され、転機につながっています。経営指針が、経営者の未来に向けた投資の意思決定を後押しする。大きな役目を担っていることを再認識させられました。

2.決算書に乗らない資産~“社員”という財産の価値を高める~

「社員は費用ではなく資産です。」という言葉が印象に残っています。

業績が急激に回復した要因の一つに、「社員を信じて思うようにやらせたから」という理由を上げられました。一方で、「出来ない理由は考えない」という報告のテーマにもあるように、改善を進めようとすれば社内から様々な“できない理由”が出てきます。社員を信じて思うようにやらせる前に、社員が思うようにやろうという気持にさせなければなりません。そこで大きな力を発揮したのが、出来ない理由を封じ込めるキーワード。「お金のことは心配するな」です。特に製造業の場合、業績の拡大と生産設備の投資は表裏一体です。製造業を続ける限り、設備投資が必要な場面が出てくる。そこにお金という問題が絡むと、それが出来ない理由になる。しかし、それを封じれば、もう思い切ってやるしかなくなります。製造現場の経験の無い小山さんにとっては「任せるしかない」ことになりますし、それが、「社員を信じる」ということにつながると考えられます。

この点については、「社員を信じて任せることによっていい成果を出してくれる可能性」にかけたと言う事でしょう。いちいち口出しするのか、信じて全て任せるのか、時と場合によって選択は分かれるでしょう。「本当は社員にできる力があった。引き出せていなかっただけだ。」とも語られます。同友会には「人間の可能性を信じる」という考え方があります。人間の無限の可能性。環境が変われば、意識が変われば、何かのきっかけで思いもよらない力を発揮するのが人間。そのスイッチの一つに「信じて任せる」という選択肢があることを、経営者が知らなければならない。私自身も改めて認識させて頂きました。

現在、小山さんは社内に向って「リストラは絶対しない」と宣言されています。だから成果を上げ続けなければならない。言うのは簡単ですが、外部環境に大きな影響を受けやすい業種では大変なことです。しかし、退路を断って決断すればできることもあります。その意志が社員のみなさんに伝わるから、後述のとおり多くの社員のみなさんの協力を得られ、改革が進んでいるのだと実感します。

3.一つ一つの実践を通じた成功のスパイラル

小山さんが語るV字回復の秘訣は、「一つ一つ出来ることから実践していった」というものです。

その前提として、経営者がやるべきことを大きく2つ示されました。一つは、「正しい経営方針を定めること」、もう一つは「好ましい企業風土をつくること」です。前者は、言うまでもなく経営指針の確立です。いくら環境が厳しくとも会社を維持発展させるため、内部・外部の経営環境を把握し、進むべき方向を定めなければなりません。一つ一つの実践の第一歩はやはり経営指針により経営の方向性を定めることだと改めて認識させられます。では、その方向性はどうやって定めるのか。そこに、同友会の仲間の存在があると思います。特に小山さんが学んだ大阪同友会は中小製造業の集積地でもあります。そこで切磋琢磨する経営者の方々にはたくさんの学びの蓄積と実践事例があります。そこに自社の経営環境を当てはめ、真剣に考えていくことで、一人で考えていては決して生まれることのない、目指すべき方向性が生まれるのだと思います。

もう一つは、成功のスパイラルが循環するように根付かせること、と話されます。前述の、社員を信じ、任せて行う一つ一つの改善活動。一つ成功すれば自信になる。良いと思ったことはまずやってみる。上手く行かなかったら直ぐに見直す。これを繰り返していくうちに、社員の中に成功体験が積み重なり、その成功体験が次の新たな提案を誘発する。そういう循環が出来るまで、一つ一つ地道に続ける、ということでしょう。現在、協栄金属工業は、会社回復の成功事例として地方誌や全国誌に取り上げられたり、また、経営改善の秘訣を知ろうと多くの視察者が訪れたりするようになったそうです。その対応をしていくことで社員のモチベーションがまた上がっていく。これも成功のスパイラルの一つでしょう。

「ほとんどの社員は協力してくれた」と話されます。誰しも、自分の会社が良くなった方がいいと考えているはずです。当初は、小山さんの方針や考え方を信用できない社員もいたかもしれません。しかし、小山さんがおっしゃるように一つ一つ実践し、成果を出していくことで、少しずつ理解が深まり、社内の気持ちがまとまってくるのではないかと感じます。だからこそ、成果を出し続けなければならない。そのプレッシャーも大きいでしょう。しかし、講演される小山さんからは、今後とも必ず良くなると信じている、その確信を感じます。社員を信じ、自分地指針を信じる。経営者自身が信じることの大切さ、あたらためて感じたところです。

120名を超える大例会

小山さんは、同友会での学びを通じて、自分自身を変え、会社を立ち直らせました。同じ同友会で学ぶ経営者として大変うれしく思います。しかし、小山さんが学ばれたのは、島根同友会ではなく、大阪同友会です。先に大阪の同友会を知り、そこに飛び込まれ、経営指針の成文化をはじめとした学びを実践された訳です。なんとなく残念な気もしますが、会社を良くするために同友会で学ぶ訳ですから、どこの同友会でも成果が出ればいい訳で、そのこと自体はあまり気になりません。しかし、それだけ島根同友会の存在感というものは島根県内においてまだまだ薄いものだということは認識しなければならない(小山さんが社長に就任された4年前とはだいぶ違ってきていると思いますが)と考えています。すなわち、経営に悩まれ、何とかしたいと考えている経営者が居ても、その手助けになるかもしれない同友会の存在を知り得ない。同友会の学びがその方やその会社に合う、合わないがあるにしても、存在を知る機会がないというのは、その会社、引いては島根の地域経済にとって損失です。そんなことを、改めて感じる機会にもなりました。私も昨年から島根同友会の理事を仰せつかっており、その一員として、少なくとも、島根にも中小企業家同友会という学びの場がある、という事だけは、広く県内の経営者に知って頂けるよう、引き続き取り組んで行きたいと考えています。

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