2015年2月25日(水)、島根同友会主催の「中小企業会計啓発・普及セミナー」が開催されました。テーマは、「企業の継続的成長を目指す経営」と題し、PSE研究所の中林孝氏を講師に迎え、会計(決算書、キャッシュフロー等)の観点からみた経営のあり方について講演を頂きました。このセミナーは、独立行政法人中小企業基盤整備機構の支援により「中小会計要領」に関する普及啓発も含めて実施されるものです。セミナーでは、中小会計要領についての説明も頂きましたが、中林さんからは、要領の説明に留まらず、会計を経営にどう活かすか、様々な示唆を頂きました。その一部をまとめておきます。
1.現金を第一に考えた経営をしていく
中林さんが最も力を入れて説明されたのは、「現金を第一に考えた経営をしていく」ということです。
冒頭に興味深いシミュレーションを見せて頂きました。「減価償却によるキャッシュフローでは長期借入金を返済できない」、ということを分かりやすく示したものです。設備投資に伴う減価償却費では、借入金の返済が間に合わず、途中で運転資金の借り入れが必要になる。そして、すぐにその運転資金の借り入れの返済も間に合わなくなり、さらなる運転資金の借り入れが必要になる。その自転車操業が続けられるうちはいいが、いずれお金が借りられなくなった時に資金的にショートして経営が破たんする、というものです。分かりやすく数字でみせて頂きました。
これは、いわゆる“勘定合って銭足らず”の一例でもある訳ですが、損益を重視して利益を出すことばかりに捉われ、資金調達を安易に行い続けると、仮に利益が出ていても現金が足りなくなる可能性がある。一般的にはよく言われる指摘で、経営者であれば一応わかっているはずの話ですが、シミュレーションで見せつけられると、強く印象づけられます。
他でもなく、当社も“お金に忙しい会社”であり、運転資金を長期資金で賄うこともあります。一度そういう流れにはまると中々長期借入の残高は減らず、返済が続きます。経営者として、できるだけ長期資金の残高を減らしたい気持ちはありますが、かといって日々の資金繰りに窮しては本も子もありません。長期資金の返済と毎年のキャッシュフローのバランスをいかに取るのか。まさに当社の長年の経営課題です。「現金を第一に考える」、決して忘れてはならない原則を改めて指摘して頂きました。
2.決算書は自社のために使う~管理会計が重要~
二つ目の大きな指摘は、「決算書を自社のために使うべき」ということです。
会計のセミナーでは、決算書の読み方などを聴くことが多いのですが、今回は、“読み方”ではなく、“使い方”について示唆を頂きました。一般に、決算書の使い方としては、公告用、税務申告用、金融機関説明用、役所提出用、などがありますが、これは全て他人のための使い方です。それはそれで必要な訳ですが、それだけではもったいない、というのが中林さんの指摘です。他人のためだけでなく、自社で利用する。自社で使うことで、せっかく作成する決算書の効果が広がっていく、という訳です。
自社での活用の代表例は、経営方針発表会などでの活用です。自社の経営数値がどのようになっているのか、社員と共有することが重要なのは異論のないところです。もう一つは、自己管理用に用いることです。いわゆる“管理会計”としての活用です。そのためには自社用に決算数値を加工することが必要な場合もありますが、そのことで、自社の数字をより客観的に捉えることが可能となり、また経年的に比較することで、外部環境又は内部環境の変化との関係を把握し、次の一手を素早く判断することが可能になります。
具体的な活用例として、固定費管理日報による限界利益把握、対前年比売上伸び率推移による業績管理、など、実際にこの地域の中小企業が工夫されている事例を紹介して頂きました。業種・業態によって求められる管理会計も異なってくるでしょう。当社では、限界利益に着目し、実行予算と連動した利益管理を実施していますが、そういった各社なりの管理方法をお互いに勉強し、いいところを相互に取り入れていくという取り組みも、今後の同友会活動の一つとして有意義ではないかと感じたところです。
3.金融機関からお金を借りるのは「時間をお金で買う」という発想で
中林さんからの最後のメッセージは、「金融機関からお金を借りるのは時間をお金で買うという発想で」というものでした。
まずその前提として、資金計画はキャッシュフロー計算書をベースに作成し、シミュレーションしていかなければなりません。資金計画は、自社のキャッシュフローを考慮して作成する。あたりまえだけど、意外に出来ていない会社も多いという指摘もありました。そして大事なのは、シミュレーションは黒字を前提に行うが、実際には赤字の年もありうる、ということです。その場合にも許容できるバッファを持った資金計画を立てておくことが必要だということです。
「それができれば苦労しない」という経営者も多いでしょう。資金計画が苦労している経営者ほどそう感じると思います。私もそう思います。しかし、自社のキャッシュフローに見合った設備投資の実施、又は運転資金の調達を前提として経営を考えていかなえれば、大きな荒波が訪れた時に立ちゆかなくなる可能性があります。自社のキャッシュフローと必要資金とのバランス、単年度だけでなく、長期にわたって確認しておくことの重要性を改めて感じたところです。
その上で、金融機関からの借り入れはお金で時間を買うべきタイミングで決断する、と指摘されます。私も、運転資金ばかりでなく設備に関する資金調達も行ってきました。多くの場合は先行投資として実施しており、その市場における先行者利益の獲得を狙っていますが、直ぐに結果が出ていないものもあります。しかし、その結果が出ることを信じ、またそれを出していくために必死で経営する。その想いを新たにさせてもらった気がします。今後の資金調達に関しても、お金に困って借りるという後手の姿勢に回ることをできるだけ回避し、“攻めるために借りる”という基本方針は持ちながら、その上で自社のキャッシュフローを見据えた適切な判断をしていきたいと考えています。
一般に、中小企業の資金繰りは大変と言われますが、私の周りでも無借金経営やそれに準じる財務状態で、資金繰りに困っていない会社も結構あります。資金繰りにために頭を悩ましたり、そのための資料作成や手続き、交渉事に時間がかかったり、負荷は少なくありません。資金についてあまり心配しなくていい経営者を見ると、羨ましく感じる訳ですが、他人をうらやんでも自社が変わる訳ではありません。そういう財務体質に持っていった経営者の手腕こそ学ぶべきです。金に忙しい私のような会社は、むしろ、資金調達が必要だから金融機関と関係ができる、金融機関からの支援や助言、ネットワークの活用により経営の領域が広がる、そういった前向きな姿勢で資金調達を捉えていくことが大事だと感じます。そして、今回のテーマである「企業の継続的成長」を資金の観点からもしっかり見据えておくことが大切だと、今回のセミナーで改めて感じたところです。