2011年10月27日、特定非営利活動法人 地中熱利用促進協会の主催する「地中熱利用促進地域交流2011群馬」に参加してきました。このイベントは、地中熱利用に関する講演会と、地中熱の技術・製品・施工・計画等にかかわる企業や団体などの展示会、さらには見学会(私は不参加)から構成されるイベントです。現在、当社の新しい事業展開の一つとして、ぜひとも取り組みたい分野と考えており、情報収集や勉強をしているところですが、非常にタイミング良く開催されたイベントということもあって、群馬県前橋市という、あまり馴染みのない都市での開催でしたが、参加してきました。以下、参加して感じたこと、今後の可能性などについて整理しておきます。
1.地中熱とは~無限かつ安定した地域を選ばないクリーンエネルギー~
地中熱とは、その名のとおり地中の熱のことですが、比較的浅い部分(200mぐらいまでとされる)にある、比較的低温の熱のことを指します。場所にもよりますが、地中10~15mぐらいを過ぎると、地中の熱は地上の外気温にかかわらず年間を通して一定になります。夏冷たく、冬温かい、ということになる訳ですが、この温度差のエネルギーを利用しようというものです。よく似た言葉に「地熱」というのがありますが、これはいわゆる火山に由来する熱など、地球の深部から出ている熱のことを指し、地中熱とは区別されています。
この地中熱、海外では以前から取り組みが進んでいる自然エネルギーの一つだそうですが、日本ではまだほとんど普及していないといってもいい状況のようです。しかし、現在では、政府のエネルギー基本計画の中でも、いわゆる「再生可能エネルギー」の一つとして太陽光、風力、バイオマスなどに加えて取り上げられています。原発事故を契機にエネルギー政策の見直しが必至となった現在、非常に注目され、活用が期待される新エネルギーの一つだと認識しています。
特徴は、「無限かつ安定したクリーンエネルギー」という点でしょうか。太陽光も風力も“無限”ではあるのでしょうが、太陽光は夜使えませんし、風力は“風任せ”です。その一方、地中熱は一年間、朝から晩まで継続して供給される、安定した自然エネルギーです。また、他の再生可能エネルギーと少し違うのは、太陽光も風力もそのエネルギーを直接電気に変える「発電」を目的としていますが、地中熱は、その熱を直接用いる(例えば道路の融雪)ものもありますが、ヒートポンプを用いて冷却や加熱を“補助”し、省エネルギー化を図る目的で活用されることが多くなっています。このため、太陽光か地中熱か、といった二者択一ではなく、太陽光と地中熱のハイブリッドなど、他の再生可能エネルギーと組み合わせて使うこともできる点が特徴と言えます。繰り返しになりますが、まさに、今後注目の再生可能エネルギーではないかと感じています。
2.地中熱活用は東高西低か~島根県では道路融雪で先行事例あり~
今回、講演会において、地中熱に先行して取り組む各県における研究・活用状況について報告がありました。報告があったのは、群馬県、茨城県、長野県、青森県、山梨県、といった地域です。西日本の府県による発表はなく、いずれも東日本の県における取組みが発表されました。実は、この5つの県は総務省が推進する「緑の分権改革」による調査事業に応募、採択された地域で、いずれも地中熱活用をテーマに様々な調査や検証を行われています。地中熱をテーマに応募された地域が東日本に集中したのはたまたまかもしれませんが、各県での取り組み成果の発表などを聞くにつけ、地中熱は「東高西低」の状況ではないのかと感じずにはいられませんでした。
その理由として、東日本でも、特に寒冷地では地中熱による融雪や、ヒートポンプと組み合わせた暖房への活用などのニーズが高いため、活用もより進みやすい傾向にあるのは間違いないと思います。今回発表のあった青森県の事例でも、道路や駐車場などの融雪について研究成果の発表がありました。しかし、地中熱は「全国どこでも同じように得ることができるエネルギー」という点も特徴です。ヒートポンプを使った冷却・加温は、程度の差はあれ、全国どこでも必要となるわけであり、西日本でもその適応性は十分と言えます。しかし、西日本では地中熱活用を前面に押し出した企業は少ない(広島県にミサワ環境技術という先進企業があります)ようで、だからこそ取り組む意義もあるし、ビジネスチャンスでもあると考えています。
なお、島根県内では、国道261号の融雪設備(無散水式融雪工)として整備されている事例があります。これは島根県による公共事業として実施されているもので、冬季の道路融雪を目的に地中熱を直接利用するタイプのものです。現在は、一部整備済となっていますが、整備済区間ではよい成果を上げているようです。島根県内の中国山地沿いの主要幹線道路では、冬季の除雪や凍結防止が必要な路線が多数あります。こういった箇所に維持管理・メンテナンスコストに優れる地中熱を活用した融雪設備を備えることは、初期投資費はかかるものの、今後の公共事業のあり方の一つとして意義あるものだと感じます。地中熱活用の普及促進のためにも、さらなる整備の推進を期待したいところです。
3.当社にとっての地中熱~ボーリング調査・さく井工事に携わる技術者・技能者の新しい活躍の場~
当社では、この地中熱に関する事業を新しい事業領域として取り組み、出来るだけ早期に参入したいと考えています。新しい事業領域といっても、全くの新規分野だとは思っていません。地中熱を利用するためには、地中との熱交換を行うための井戸(熱交換井)を掘り、その中に不凍液を通すパイプを設置し、不凍液の循環を通じて地中との熱交換を行う仕組みが一般的です。この熱交換井を掘る技術は、まさにボーリング調査やさく井(さくせい)工事をするための技術そのものです。地中熱にかかわる事業とは、ボーリング調査やさく井工事に携わる技術者、技能者の新しい活躍の場と言え、その活躍の場を創出するのは、経営者の仕事だと考えています。
もっとも、そんなに簡単なことではありません。現在、地中熱活用が進まないのは、熱交換井のボーリング工事のコストが高く、イニシャルコスト全体を押し上げている(長期間のライフサイクルコストでは安くなりますが)ことが原因の一つと言われています。ボーリング機械の高度化による掘削スピードのアップなどによるコスト縮減も必要になってくるでしょう。そのための投資も必要になるかもしれません。しかし、地中熱への取り組みは、我が国のエネルギー政策が見直しを迫られる中で、我々、地質調査やさく井工事に携わってきたものが進むべき当然の道だとも確信できますし、それは、間違いなく正しいことだと考えています。
地中熱、それは注目される再生可能エネルギーの一つではありますが、それに取り組むからといって、とんとん拍子に上手くいく訳もありません。しかし、今後地域のために役に立つエネルギー・技術であることは間違いなく、さらに、我々の技術・ノウハウの延長線上にあります。そして将来に向けて、何かわくわくする、夢をみれる、そういった事業分野だと思っています。もっと早く取り組むべきだったとの思いもありますが、だからこそ、今年度中に取り組みの方針を定め、早期の事業化、実績獲得に向かって行きたいと考えています。また、実現に向けては、自社だけで取り組むのではなく、同業者や関連する様々な業界の方々と連携・協力し、島根県における地中熱活用そのものを、大きな動き・うねりとしていくことが必要だと考えています。