2013年5月23日(木)、中同協(中小企業家同友会全国協議会)の役員研修会が松江東急インで開催され、私も出席しました。今年度より、島根同友会の理事を仰せつかることになり、参加したものです。研修会は2日間にわたって開催されましたが、私は初日のみの参加となりました。初日は、中同協相談役幹事 赤石 義博氏による講義とグループ討議でした。赤石さんは、同友会歴50年のまさに同友会の“生き字引”とも言える方で、50年を超える同友会活動の歴史と理念について話をして頂きました。同友会の歴史から何を学び、今後にどう生かして行くべきなのか、また、そもそもなぜ我々は同友会に入会したのか、何の目的だったのか、原点に立ち戻らせて頂くための様々な示唆を頂きました。私なりの気づきをまとめておきます。
1.望ましい結果がでるような原因をつくり込むこと
今回の講義は、同友会の歴史から学ぶことがねらいの一つです。では、何のために同友会の歴史を学ぶのか、という根本について講義冒頭で指摘がありました。当初、私はそれほど意味がある事のように感じていませんでしたが、次の2つの指摘を受け、同友会の歴史を学ぶことの意義を改めて認識させて頂いたところです。
一つは、我々は何のために同友会に入ったのか、何のために勉強しているのか、を改めて考えてみる、ということです。そして赤石さんは、同友会を作った先輩方が、何のために同友会運動を実施してきたのか、ということも同じことだと説明されます。同友会が出来た頃の時代背景と現在の状況は異なる面も多々あるでしょうが、同友会が掲げる「人間尊重の経営」「国民や地域と共に歩む中小企業」といった理念は、今まさに注目され、見直されている考え方でもあります。それが意味することは、すなわち、経営を良くするための根本は時代を問わず不変であり、同友会の歴史からなぜそれが重要だったのかを学ぶことは、未来に向かって経営する我々にとっても大変意義深いことだと考えられる訳です。
もう一つは、「今見ているものは全て結果だ」という指摘です。結果が悪いのであれば、それは自分に原因がある。今すぐに、望ましい結果が出るような原因を作り込むことが必要だということです。その作り込みこそ、様々な実践活動ということになるでしょう。何もせずに結果だけを待っていてはいけない。改めて考えれば当然のことですが、日々の仕事に追われるうちに、今までどおりのことを今までどおりにやってしまうことがいかに多いか、身につまされます。同友会の歴史を学ぶというのは、同友会の先輩は、何を考えて新しい原因をつくろうとしたのか、すなわち、どういう結果が望ましいと考えたのか、を理解していくことに他なりません。このことも、今後、自社に置き換えて考えていく時に、大変重要になってくると感じたところです。
2.人間には可能性がある~題名の付いていないしぼんだ袋~
講演の中で、同友会活動の大きな柱でもある「人間尊重の経営」について時間を割いて話がありました。この考え方について、“この厳しい時代にどうなのか?という意見があるのも事実”と前置きされた上で、それでも、社員一人一人は自分の人生を会社に預けている、と指摘されます。そうであるならば、会社と社員とは、人間的な信頼関係に立って、“当てにし、当てにされる関係”でなければならない、と語られます。その関係性をいかにつくるのか。時間をかけて一つ一つ積み上げていく以外の近道はないでしょう。しかし、その前提として、経営者(会社)と労働者(社員)は利害が対立(相反)する関係であることは認めつつ、その職場・会社で最も深い関係を作らなければ、会社も社員もいい環境をつくれるはずがない。そういった相互理解がまずもって必要なのだと改めて感じるところです。
そしてもう一つは、“人間の可能性”ということ。人間には無限の可能性があると良く言われます。赤石さんはそれを例えて、「社員は“題名のついていないしぼんだ袋”。一人一人に最も得意なこと(題名)をさせる。そして、袋を膨らませていくのだ。」と話されます。そのことの気づきを持たせるのが、経営者の仕事であり、人間尊重の経営の実践の姿なのだろうと感じます。しかし、これは中々難しい事でもあります。私もそうですが、知らず知らずのうちに人を決めつけて型にはめてしまいます。“あの人はああいう人だ”、“あいつには言ってもだめだ”、“あの人は変わらない”、等々です。それは現時点では、一面の事実かもしれないが、今後ともずっとそうとは限らない。様々な出会い、結婚や子供の誕生などの人生の転機、昇進や昇給、仕事の変化など、これから起こる出来事によって、これまで見えてこなかったその人の可能性が花開くかもしれません。あきらめず、辛抱強く、探していくのが経営者の仕事なのでしょう。そしてその前提として、前述の“人間的な信頼関係”がある。それがあるから、経営者も可能性を探る努力を継続することができる。そう考えて経営に取り組むことが必要だと理解させて頂きました。
3.同友会に入ってから社員が育っているのか?
今回研修、グループ討議では、講師の赤石さんと同じテーブルで話をさせて頂きました。その中で、記憶に残る議論があります。赤石さんから、同友会に入ってからその効果が出ているかどうかを見るには、「同友会に入ってから社員が育っているのか?」を考えればいい、との指摘がありました。もし、社員が育っていないのであれば、それは経営者の勉強が出来ていないということ。同友会に入会した成果は、「社員の成長」という回答で分かる。非常に明快な指摘であり、また、売上や利益では無く、社員の成長という視点で評価するという考え方も、まさに同友会らしいと感じます。その時、思い起こされたのは、ある経営者の「業績とは影。社員が成長したという実態の影に過ぎない。」という言葉です。社員が成長するから業績が伸びる。業績は社員が成長した結果もたらされるもの。経営の根底にそのことを置きながら、事業を運営していくことの重要性を改めて感じるところです。
私は、会社を良くしたいと考えて同友会に入りました。それは、会社の状態がよくなかったからこそ、そう思いました。そして同友会活動を通じて、少しずつ会社は変わって来ているように感じています。今までは、“こういうことをすればいい”、“いい会社はこういうことをしている”という取り組みを真似て会社に取り入れてきました。今後とも、いいことは真似ていけばいいと考えています。それに加えて、なぜそのような取り組みが行われるのか、必要とされるのか、その背景を理解した上で実践することで、その浸透が早まり、より効果が高まる、それこそが、歴史を学ぶことの意義ではないかと考えています。そして、それに加えて、社員が成長しているのかどうかを肌で感じられるような職場づくりが求められると考えています。具体的には、仕事の中身や実態を把握する様々な仕組みもあるでしょうし、常に若い人材を登用し、教える側・教わる側、双方のレベルアップを通じて全員を成長させていく、という方向づけもあるでしょう。これについては、当社においてはまだまだこれからの課題です。しかし、その必要性に関する認識を新たにし、今後の経営に取り組みたいと考えています。
今回の研修会を通じて感じるのは、“社員と会社との関係性”ということです。社員との関係をいかにつくるのか。社員を大事にする経営とはどういうものなのか。社員の成長をうながし、持てる力を発揮させるためにはどうすればいいのか。その根本について、改めて学ばせて頂きました。そして、赤石さんは、最後に「全ての経営資源をフルに活用するのが経営であり、その資源のうち、最も高いものは「人間力」である」、と断言されました。そのために社員の暮らしを保証する。社員に高い志気を持たせ、そのもとに自主性が発揮できる職場をつくる。会社の向う方向を定め、それぞれの人生を預かりながら、何を獲得するのかを示す。そして、その志、目的を共有するところまで持って行く。同友会で学ぶ経営者が目指すところを的確に表しています。私もそういった経営の実現を目指し、また明日から気持を新たに取り組んでいきたいと考えています。