島根経営品質研究会

島根経営品質研究会 経営品質特別講演会 驚嘆する中小企業!!~企業の目的は人を幸せにすること~

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2013年6月27日、島根経営品質研究会 特別講演会が開催されました。

今回のタイトルは、『第3回「日本でいちばん大切にした会社大賞」審査委員会特別賞 受賞記念講演会』と銘打っています。島根経営品質研究会の代表幹事でもある田中正彦さんが代表取締役を務める「株式会社さんびる」さんが、この栄誉ある賞を受賞されました。島根経営品質研究会としてもそのことを広く周知し、共有したいと考え、企画したものです。基調講演には、同賞の審査委員長である、法政大学大学院の坂本光司教授を迎え、「驚嘆する中小企業!」と題して講演を頂きました。

坂本先生からは、「日本でいちばん大切にした会社大賞」の創設趣旨と、我が国に残すべき驚嘆すべき中小企業について、また、田中社長からは、㈱さんびるの経営、取り組みについて報告を頂きました。今回の気づきの一部を整理しておきます。

講演する坂本光司先生

1.企業の目的は人を幸せにすること~大賞創設の目的と目指すところ~

講演会の冒頭、坂本先生は、今回の講演のきっかけとなった「日本でいちばん大切にした会社大賞」の目的について話をされました。創設の目的を「お金優先、効率優先、成長優先ではない、人を大切にする会社、少しずつであっても着実に成長していく会社、正しいことをしている会社を表彰し、世に知らしめることが私の使命だからだ。」と説明されます。

坂本先生がいつも断言されるのは、「企業の目的は人を幸せにすること」。そして、正しい経営とは、「人を大切にする経営」。技術もお金も人を幸せにするための道具であり、手段である。真に人を大切にしている会社は業績も伸びている。それは、7000社以上の会社を実際に訪問して取材した中で見出した真実だと。毎回伺う話ではありますが、とても説得力があり、迫力があります。(なお、ここで言う「人」とは、1)従業員とその家族、2)外注先・仕入先、3)顧客、4)地域社会、5)株主の5者を指します。)

そして、この賞は「応募資格」に高いハードルを設定していることが特徴だと説明されます。具体的には、過去5年以上にわたって、人員整理、会社都合による解雇をしていないこと、下請・仕入先企業へのコストダウンを強制していないこと、障害者雇用率は法定雇用率以上であること、黒字経営(経常利益)であること、重大な労働災害がないこと、となります。この要件であれば、日本を代表する大企業は応募も出来ません。当社はもちろん応募できませんが、今回受賞された「さんびる」さんが、この要件を満たしているという時点で驚きを隠せません。

どんな状況でも、リストラやコストダウンの強要を行わず、社員の幸せと生活を守る会社。それは素晴らしい会社である一方、想像もつかないような大変な努力が必要でしょう。しかし、現にそういった会社が多数、我が国には存在している。坂本先生は、そのことを「誇らしい、日本も捨てたもんじゃない」とおっしゃいます。まさにそのとおり。そんな会社で働く社員は間違いなくいきいきとしているでしょうし、自分自身の会社を誇りに思っていることでしょう。現在の当社にとっては全く届かない高いハードルですが、だからこそ、その高みを目指す価値もある。少なくとも10年は必要かと思いますが、10年後、その高みに到達することを目指し、また明日から頑張っていきたいと考えています。

2.我々ができないことをしている会社を支援するのは我々の使命

坂本先生は、今回の講演の中で、障害者雇用とその事例についてかなり時間を割いて話をされました。後半はほとんどその話だったので、初めて坂本先生の講演を聴かれた方にとっては、少し違和感があったかもしれません。しかし、坂本先生の伝えたかったことは、講演の最後の言葉に凝縮されていると感じます。「我々の出来ない正しいことをしている会社があれば、それを支援するのが我々の使命。卑怯なのは傍観者であること。」

先生の言われる、“正しいこと”とは、前述のとおり「人を大切にする」ことであり、働く場を求めている障害者に雇用の場を提供することも正しいことです。その正しいことをしている企業が認められなければならないし、そういった企業を発見し、世に知らしめ、共感を得て、そういった正しい企業が継続することで、この世の中が、日本がいい方向に変わっていくと考えていらっしゃるからでしょう。だから、研究者である先生は、自分自身の役目である、“正しい企業を世に知らしめること”に全力を尽くされる。

我々経営者は、常に気持を律していないと、いつの間にか、正しいことと、そうでないこととが分からなくなってしまうように思います。正しいことと分かっていても、利己的な自分が顕在化し、出来ない理由を考えてそれを実行しないように納得させてしまう。先行きが不透明だから、財務体質が悪い、人財がいない、等などいい訳となりうる経営の不安要素を挙げればきりがありません。だから、理念が要るのでしょう。人を大切にする経営、地域にと共に歩む経営、その理念を掲げてその実践を約束し、逃げることのできない環境をつくって実践していく。だが、それでも中々できない訳です。

しかし、こうやって坂本先生のような方が、「正しい経営」を実践して成果を上げている会社にスポットを当て、我々の前に示してくれる。その姿を見せつけられる我々は、いい訳ができず言葉を失う。そこで、一部の経営者は自分自身を反省し、進むべき方向に気づき舵を切る。そういうことの繰り返しが、この日本を、自分達の地域を良くしていくことにつながるのでしょう。先生の言われる傍観者とは、「人を大切にすることで素晴らしい経営を実現している企業が実際に存在する」という現実から目をそらすこと。我々中小企業経営者に求められるのは、傍観者とならず、人を大切にする経営に舵を切る実践者となること。そのことを強烈なメッセージとして届けて頂いたのだと理解しています。

3.「社名を名乗れない会社」からの脱却~自分の子供を働かせたい会社へ~

講演会の後半では、田中社長からさんびるの取り組みについて紹介頂きました。

さんびるが大きく変わる転機となった出来事として、「社員が会社の名前を名乗れなかった」という事件があるそうです。それは、ある病院で清掃業務に従事していたさんびるの社員が、自分の子供を預けた保育園に対し、勤務先をその病院(本当はさんびる)であると申告していた、という事件です。経営者としては、とてもショックな話です。自分の会社を自信を持って名乗れない社員がいる。もちろん全員では無いにしても、そういう社員がお客様に対して、いいサービス、いい成果を提供できるはずがありません。それは、その人のためにもならないし、もちろん会社の為にもならない。だから会社を変えようと決意された訳です。

そして、さんびるが目指すべき会社の姿として「自分の子供を働かせたい会社」という目標像を掲げられます。もちろん、子供の人生は子供のものであり、どんな人生を歩むかは子供が決めるべきものでしょう。それでも、子供の幸せを願う親として、「この会社で働ければとても幸せだ」と思える会社をつくるという姿勢は、素晴らしい考え方です。今、自分の会社で自分の子供を働かせたいと考えている人が、この日本にどれだけいるでしょうか。当社には居るのだろうか。そう自問自答するとき、このさんびるの目指す“高み”を尊敬の念で見ずにはいられません。

そして、さんびるという会社に流れる大きな考え方の一つに「社員どおしお客様」ということがあります。社員お互いが、お客様に対応するときのように誠意持って真摯に接する。働く仲間がお互いに尊敬し、認め合う。感謝の気持ちを持ちあう組織。お題目として掲げるだけでなく、それを実現するための様々な仕組みを導入していく。それを当たり前のこととしていくための努力に敬服します。

さんびるの取り組みについては、経営品質研究会の仲間としてこれまでも色々と伺う機会がありましたが、注目すべきは、今でこそ元気で特色ある企業として取り上げられるこの会社も、最初からこのような状態ではなかったということです。「やるべきことを皆で追いかける」という姿勢を徹底していったことが、現在の姿を形作ったということを改めて感じさせて頂きました。その期間は10年以上。会社を良くしていくための取り組みは、あせらず、しかし、あきらめず、愚直に続けていくことが肝であると改めて理解したところです。

受賞報告する田中正彦社長

今回の特別講演会、150名近い参加者を得て、盛大に開催することができました。「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズの大ヒットにより、日本全国から注目される坂本先生ですが、初めて話を聴かれた方も多かったと思います。坂本先生の講演も、さんびるの田中社長の報告も限られた時間であり、意を尽くせなかった部分もあろうかと思います。このブログが、講演会の理解の一助になれば幸いです。最後になりますが、改めて、坂本先生にお礼を、そして田中社長にお祝いを申し上げます。

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