2014年1月15日、島根県技術士会青年部会と島根県立大学(浜田キャンパス)との交流企画が開催されました。交流企画は昨年度初めて開催し、今回が2回目です。就職活動中の3年生を対象にしたキャリア支援の連続講座(計15回)の1コマを頂きました。技術士会メンバーと学生との対談形式で開催され、テーマは「仕事のつらさとその乗り越え方」。技術士会メンバーが7名、学生が13名という構成で、6テーブルに分かれてグループワークを行いました。技術士会のメンバーとして、就職を控えた学生との対談は、経営者としての観点からとても参考になります。今回も、学生のみなさんとの話し合いから、貴重な学びと気づきを頂きましたので、整理しておきます。
1.早期離職はなぜ起こる?~学生に原因があると言う前に経営者が最善を尽くす~
今回のテーマは、端的に言えば“壁の乗り越え方”。設定のきっかけは、県立大学においても就職後の早期離職者が多いという背景があるとのこと。一般に早期離職とは就職後三年以内の退職を意味しますが、1年以内で離職するケースも多いそうです。ですので、就職後にぶつかるであろう、仕事の壁、人間関係の壁、といったハードルに直面した時どうすべきか、先輩社会人の経験を聴き、自分なりに消化した上で就職に望めば、少しは支援になるのではないか、ということが趣旨のようです。その意味では、話を聴く相手は技術士会の技術士でなくても良い訳ですが、昨年からのご縁もあり、“一社会人”の立場で臨ませて頂きました。
大学側とすれば、せっかくの就職先から早々に離職して欲しくないでしょうし、採用した企業側としてもそうです。もちろん、早期離職が絶対的に悪い訳でもないでしょう。しかし、学生としても、貴重な時間を使って取り組んだ就職活動の成果である就職なのに、就職活動にかけた期間も在籍せず辞めてしまっては、何をしていたのか分かりません。
そこで、今回のテーマに至る訳ですが、私自身はなんとなく違和感がありました。最近の若い人は就職して壁にあたると直ぐにやめてしまう、的な見方が本当に真実なのか。実際に早期離職者が多いのは事実ですから、そういう人もいるかもしれない。しかし、私自身が新卒採用に取り組み始め、また、インターンシップ受け入れなどの活動を通じて学生など若い人たちと接して感じるのは、少なし、私自身が就職活動していた時よりも、今の学生の方がよほどしっかりしている、という事です。たまたまいい人にばかり巡り合っているのかもしれません。それはそれで、いいご縁を頂いていることに感謝です。とにかく、もっと別のところに原因があるのではないかという気がする訳です。
そんな時、興味深い話を聴きました。県立大学に限りませんが、「第1志望に就職できない」という実態が大きく影響している、という説です。結果的に、第3志望、第4志望という就職先にしか就職できない学生が、早期離職につながっているとのこと。確かに、紆余曲折あって「まあいいか、仕方ない」と思って就職する学生もいるでしょう。それも社会の現実。だから、ちょっとしたことをきっかけに離職を決断する。一つの真実かもしれません。しかし、気になるのは、そういうケースに限って、その相手先の企業も「まあ、こいつでいいか」と思って採用しているのではないか、という事です。ある経営者の方から聴いた「こいつが辞めてもまあいいか、って思って採用すると相手に伝わるよ。」という言葉が思い起こされます。
学生側に問題があると言う前に、採用する側が、経緯はどうあれ、その学生の人生を預かるという覚悟があって採用を決定したのか。期待しているんだ、一緒にやっていこう、という気持を伝えきれているのか。未来を展望できる将来像を示せているのか。経営者が、まずそこを一生懸命やり、最善を尽くした上で、それでも早期離職されたのであれば、そこで初めて学生側に理由があるのかと考える。そのぐらいの気持ちがなければ、少なくとも中小企業の新卒採用というのは、成功しないのではないでしょうか。新卒採用を始めてまだ3年目ですので、偉そうなことを言える言う立場ではありませんが、そのぐらいの気持ちで、今後とも採用に取り組んで行きたいと考えています。
2.人の数だけ歴史がある~自分の想いを表現できる仕事へ~
今回、私がグループワークで担当したのは2名の学生。1時間、2人とじっくり話ができました。言い換えれば、1時間話しただけに過ぎません。その二人のことが全て分かった訳でもありません。しかし、よく聴いていると、最初は漠然と希望しているだけかと思っていた彼らの就職希望先も、彼らの人生経験の中での気づきや転機となった事柄がきっかけになっている事が分かってきました。
男子学生Aくんは、四国の出身です。就職希望先は卸売業。医療機器や文具、家具などの分野に興味があり、企業説明会でも集中して回っているとのこと。なぜ、卸売業なのか。彼のバイト先での経験から「深い信頼関係を気づける業種に就きたい」という気持が芽生えたのだそうです。そのバイト先はボウリング場。地方のボウリング場というのは狭い世界で、その店員は顔なじみのお客さんと非常に親しくなるそうです。そのうち、Aくん自身もボウリングの競技をはじめ、そのことで道具や設備環境等に詳しくなり、レベルアップを目指すお客さんに対して様々なアドバイスやサポートができるようになったそうです。そのことで最初は得意でなかった接客も楽しくなり、さらにお客さんとの距離が近づいた。そこから、お客さまと密接に付き合い信頼関係を結べる仕事、という就職先に興味を持ち、卸売業という業種に行きついた。メーカーではなく卸売業なのは、多様な商品の中から、お客様のニーズに最もあった商品を提案できるのは卸売業の方ではないかと考えたからでしょう。Aくんから、卸売業という業種の魅力を教えてもらったような気がします。
女子学生Bさんは、島根県内出身。旅行業界を目指しているそうです。具体的な名称としては、大手旅行代理店が出てきました。地元の旅行代理店も調べたそうですが、来年は採用を予定されていないそうで、諦めたということです。大手代理店はハードルが高いのではないかと聞いたところ、やはりそのようです。ではなぜ、旅行代理店なのか。実は、Bさんは、ある時期、外に出れなくなった時期があったそうです。いわゆる引きこもりという状況でしょう。そんな時、そういった子どもを支援している方々が、海外旅行に連れて行ってくださったそうです。その旅行は、単に観光地を回るだけでなく、外国の一般家庭に短期ステイするなど、人と人とにふれあいを重視するような企画だったそうです。Bさんは、そこでの交流、ふれあいをきっかけに、また外に出れるようになったと話してくれました。その時、旅行の持つ力、旅先での人とのふれあいの素晴らしさを感じ、自分も同じような企画をしていきたいと考えるようになったそうです。旅行の本質は、旅先での人とのふれあい。ここでも、旅行業の魅力を教えてもらった気がします。そして、現在Bさんは、幼児を対象とした読み聞かせサークルに所属し、人をサポートする役割にまわっています。
2人ともとても魅力的な学生でした。今後、彼らが就職活動の実践の場に出て行くにあたり、こういった話をしっかり話をしてもらいたいと感じました。そもそも、こういった大学の講座に自ら顔を出す学生は、真面目だし、問題意識を持っている面々です。だからこそ、いい就職先、いい仕事に巡り合って欲しいと思います。そして、派手な経歴は必要ない、と改めて感じました。一人一人に歴史があり、想いがある。聴けば聴くだけ、知れば知るだけ人の魅力が出てくる。そう感じる貴重な時間を過ごさせて頂きました。
3.地の利を生かしてお互いを知る~地域に根差す中小企業ならではの就職・採用方法~
今回、2人の学生が合同就職説明会に参加してみた感想も聞くことができました。あくまで2人の感想ですが、参考になります。ブースを訪問して、あまりいい印象を持てなかった企業は「説明者が義務的に話している会社」だそうです。「自信を持って楽しそうに話をしてくれればいいのに、、、」という感想があり、ごもっともでした。また、大変な面、悪い面もあわせて説明してくれる会社は、信頼が出来そうな気がするそうです。「今はこうだけど、今後こうよくなるんだ」という話が聞きたい、とも話してくれました。
この話を聴いて思い出したのは、昨年の企業向け採用セミナーで聴いた「成長している企業は社長が採用に関わっている」という一言です。企業規模によっても異なるでしょうが、採用活動を単なる仕事と捉え、担当者だけに任せてしまうと、それは学生にも伝わるのでしょう。私は、採用活動を担当者に任せられるような身分ではありませんので、引き続き、採用活動の最前線に立って、新卒・中途あわせてその採用に携わっていきたいと考えています。
そして、今回改めて感じたのは、やはり地元の企業であるならば、地元の学校から(できれば地元の)学生を採用したいということです。地元の学生であれば会社の生の姿を見てもらうこともできますし、インターンシップとして働いてもらうこともできます。当社が、この4月に採用予定の新卒学生は、地元大学出身です。その地の利を生かし、1年間当社でアルバイトをしてもらっています。1年間のバイトの途中で採用試験を行い、内定を出しました。実際に働きながら、どんな会社なのかをよく知ってもらい、社内の行事にも参加して社員のみなさんとも交流を図ってもらう。そういうことが出来るのも、地元の企業と地元の学生ならではでしょう。
これからの地元中小企業の採用活動のやり方として、社長が自ら学生との交流或いは意見効果の場に出向くことが大事になってくると考えます。そして、意欲ある学生には実際に働きながら会社と仕事を知ってもらい、その上で改めて採用試験を実施する。もちろん、そのやり方だけにこだわるものでもないし、当社も職種によっては全国から広く人財を集めていきたいという気持があります。いずれにしても、知名度に劣る中小企業は、まず、その存在を知ってもらわなければならない。その情報発信の最前線には、やはり経営者が立つべきだと、改めて認識したところです。
今回の企画では、じっくりと2人の学生と話をすることができた一方、それ以外の11名の学生の方とは話をする機会がありませんでした。終了後の学生のアンケートでも、もっと色々な社会人の方と話をしたかった、という意見を頂きました。限られた時間ですので、どう活用するかは考え方次第です。たくさんの人と話をすれば、その分、密度が薄くなります。今回よかったのは、同じ学生と1時間みっちり話ができたことだと思います。以前参加したセミナーで学んだ「聴ききる、言わせきる」という言葉を思い出します。しっかり話をすることの大切さ、時間をかけることの意味、経営者の実践の場としても色々と得るものがありました。この連携企画、来年も何らかの形で継続していく予定です。島根で学ぶ学生の役に立ち、そして参加する我々も学べる場として、さらに発展することを期待しています。