2014年9月29日、島根経営品質研究会 2014経営品質特別講演会が開催されました。テーマは、『未来を創る、「強い人財」が育つ場づくり』と題し、㈱ビスタワークス研究所 代表取締役社長 大原光秦さんを講師に招いて開催しました。同社は、日本経営品質賞受賞企業でもある、ネッツトヨタ南国の人財開発を担当する企業です。大原さんは、島根経営品質研究会の特別講演会講師として、7年連続お向えしています。今回も、「組織の目的」、「一生懸命働くということ」、「考えることの大切さ」、など、とても貴重なお話を頂いたと思います。講演全体を網羅することはできませんが、その一部を整理し、紹介しておきます。
1.甲子園出場チームのような会社をつくりたい
今回の講演で、一番印象に残った言葉です。
誰ひとりとして手を抜かない、チームの目標に向って一丸となって取り組む、甲子園に出場するチームとはそんな組織ではないか。そんな会社になれば素晴らしい。だが、そんな会社は少ない。なぜ、会社組織はそんな風にならないのか。それが長年の大原さんの問題意識だったと言います。
ネッツトヨタ南国にも試行錯誤の時代があったそうです。車の販売に苦労した1996年頃、辞める人が増え始め、それに伴い、現場の不満・不平の声に耳を傾けたそうです。給料が割に合わない、休みが取りにくい、3K(きつい、きたない、きけん)、興味の無い仕事をさせられる、会社の方向・上司に共感できない、等など。これらは、いつの時代、どの業種・職種であっても同じようなものです。しかし、いくら傾聴を続けて対策を講じてみても、抜本的な解決が訪れない、ということに徐々に気がついたそうです。
そして、同じ待遇でも文句を言う人が居る一方、頑張ろうとしている人もいる。その人たちの声を聴くと、感謝される仕事をしている、自分の仕事には大義がある、自分で考えて働くことができる、仕事を通じて成長することができる、会社の方針に共感している、といったもので、実はそちらに耳を傾ける方が重要なのではないか、という気づきがあったそうです。
同じ条件でも文句を言う人と頑張る人の違い。それは、「事情」と「目的」です。お金、生活、他に就職口がない、などの“事情”で働くやらされ感を持って仕事をしている人と、自分自身の仕事に目的を持っている人との違い。先ほどの不平不満に耳を傾ける作業は、そもそも事情で働いている人を対象にしているので、対処療法的にその不満を改善しても、その先に次の不満が出てくる。永遠に解決しないスパイラルに巻き込まれてしまう可能性があります。それならば、仕事に目的を持って働く人たちの声に耳を傾け、その考え方にみんなを合わせていくべきではないのか。それがネッツトヨタ南国での一つの回答。その究極の姿を分かりやすく表現したのが「甲子園出場チームのような会社」なのではないかと理解したところです。
2.やらんといかん人が一所懸命やらんといかん
『「ワタシの仕事ではない」、「ボクの仕事ではない」、誰の仕事でもない仕事が放置されている組織はそこから腐敗していく』という言葉を紹介されました。
組織は共通の目的に向っているものであるはずです。強い組織とは“有機的結合体”。すなわち、“つながりに意味がある組織”だと話されます。ここで言う“意味”とは組織の目的。目的によってつながった組織は強い、ということになります。
目的が一番先にくれば、前述の「ワタシの仕事ではない」「ボクの仕事ではない」という発想は出てこなくなります。共通の目的を達成するために、やらなければならないことがあれば、気が付いた誰かがやればいい。ただそれだけの話だということになります。しかし、実際にはそうなっていない組織も多いし、簡単なことではないでしょう。しかし、自分の所属する組織は、このような発言が溢れる組織か、あまり耳にしない組織か、考えてみる余地は大いにあります。
そして、経営の質とは、「目的にかなっている度合い」だと説明されます。組織の目的を達成するために、出来る人が出来ることをする。それをさらに進めれば、「やらんといかん人が一生懸命やらんといかん」となります。大原さんは、8時30分始業の会社で、5分前に来るというのは違うのではないか、と話されます。これは、子育てや家庭の事情で早く来ることが出来ない人に対しての話ではありません。時にそういう環境に身を置かざるを得ない人もいる。そういった方をフォローするために、早く来れる人が早く来て仕事の準備をし、サポートしてあげるべきではないのか、と話されます。一生懸命仕事が出来る環境にある人は一生懸命やる。それが、共通の目的に向って進む組織の姿であり、後述する、「日本には、一生懸命やったら返してくれる人がいる」、ということに通じるものだと理解しています。
3.考えることで人間が強くなる
「考える」ことの重要性について今回深く掘り下げて話を聴くことができました。
「考えるとは、変化する行動を起こすための思考と定義する」という説明がありました。考えるということは脳内活動。考えないと脳がダメになってしまう、ということは脳科学上も証明されているそうです。そして、使わないと発達しないが、年をとっても成長する、という特性があるそうで、だからこそ、人間は考えつづけることで、生涯成長することが出来る訳です。
『変えられるものを変える勇気、変えられないものをあきらめる冷静さ』、その両方を併せ持つことが必要だとも話されました。“変えられるもの”とは自分自身です。自分のことなら自分が変わろうと思えば変えられます。変えられないものとは“過去と他人”です。外部環境などもそうでしょう。変えられないものを変えようと必死になり、変わらないことを悲観したり愚痴るのが人の常です。しかし、それは変わらないのだとあきらめることで、ではどうするのかを“考える”ことができます。
最後に話されたのは、「少しずつ、考えて行動することが未来を切り開く」ということです。行動することが、周囲に連鎖反応を起こしていく。だから、どうせやるなら一手間かける、ということが大事だとも話されます。「日本には、一生懸命やったら返してくれる人がいる。」、だから後は、どちらが先に与える(行動する)のか。どうせやるならこちらから先にやろう、というのが大原さんの最後のメッセージです。私の僅かな経営者としての経験からしても、自ら動いたことで上手く進んでいることが多いと実感します。こちらから先に動く。これからも一層心がけ、実践に移していきたいと考えています。
島根経営品質研究会の特別講演会は、大原さんにお越し頂く事が恒例となっています。今回の講演の少し前に、ネッツトヨタ南国を訪問して実際の現場での話しを聴くことができました。そこでの学びと関連付けて聴講することで、今まで以上に理解が深まったという実感があります。一方、今年も最終的に130名以上の参加があり、また、初めて大原さんの話を聴いた方がたくさんいらっしゃいました。そういう意味で、一回聴いただけでは、中々全てを理解しきれないかもしれません。しかし、一見難しくても、企業経営者はもちろん、組織で仕事をしている方であれば、全ての方にとって意味のある内容であると自信を持ってお勧めすることが出来ます。このブログが理解の一助となり、また、ネッツトヨタ南国における組織づくり、人財育成を通じた学びに触れる機会となることを願っています。