私はさほど風呂好き・温泉好きではありませんが、温泉開発を行う会社の社長として、温泉に詳しくなければ説得力がありません。そこで、仕事や私用で出かけた先で温泉を巡り、少しずつ記事にしていくことにしました。温泉ソムリエらしいコメントにも配慮したいと思います。
69箇所目は、鹿児島県鹿児島市の「霧島温泉」です。訪問日は、2014年11月8日です。前日まで研修で鹿児島を訪れる機会があり、この日は九州新幹線で帰途に就く行程でした。ところが、午前中に桜島の観光に出かけたものの、地元の方も“いい経験をされましたね”とおっしゃるぐらいの大量の火山灰を浴び、鹿児島を離れる前にぜひ一風呂浴びてから、という話になりました。そこで鹿児島中央駅周辺の温泉を探したところ、インターネットで発見し、立ち寄ったという経緯です。ちなみに、鹿児島県には霧島温泉郷という大きな温泉地があるそうですが、そこではありません。
霧島温泉は、鹿児島市内にある温泉施設ですが、いわゆる「銭湯」です。施設入口は男女別に別れ、真ん中に番台がありお金を支払って中に入ります。後述しますが、鹿児島市内にはこういった温泉銭湯がいくつかあるようです。外観は特別目立ったものはなく、比較的大きな道路沿いにありましたが、知らなければ温泉施設だと気が付かずに素通りしてしまいそうです。
浴室内は昭和の銭湯の雰囲気たっぷり、昔懐かしい気持ちにさせてくれます。中央に構える浴槽は、最大で10数人ぐらいは入れる長方形の形状、真ん中に仕切りがありますが水面よりは下にあり、風呂としてはつながっています。一部ジェットバスとなっている面があります。奥には源泉の注ぎ口があり、飲泉用の柄杓がおいてありました。奥の一角には水風呂があり、また入口わきにはサウナも備えてあります。シンプルで、まさに“銭湯”という趣満点です。なお、通常銭湯というと入口奥に浴槽があってその壁面に絵(富士山とか)が書いてあるようなレイアウトをイメージしますが、ここは中央に浴槽が座り、周りを洗い場が取り囲みます。コンパクトな施設なので、このレイアウトの方が合理的だなと感じます。また、となりの女湯とを仕切る壁の高さが低く、ちょっとよじ登れば簡単に隣を覗けそうなぐらい。これも昔ながらの雰囲気を高めています。浴室内の写真は撮影していませんが、インターネット上には他のブロガーの方がまとめられた記事を見ることができますので、興味をお持ちの方はそちらで是非ご確認下さい。
霧島温泉の泉質は、塩化物泉。成分総計2.904g/kgで、塩化物イオンが中心をとなります。加水はされていないということで、口に含むと塩気を感じます。塩化物イオンの“パック”効果で湯ざめしにくい温まりの湯、また、phは8.3と弱アルカリ性を示し適度な美肌効果が期待されます。前述のとおり一部ジェットバスがありますので、循環式を採用していると思われますが、湯の注ぎ口からは源泉が常に補給されており、入浴感からしても、お湯の鮮度はかなり高い印象です。塩素臭もありません。また、源泉は飲用可となっています。島根県内では飲泉可となる温泉はほとんどありません(保健所の運用の違いによる)が、他地域に行くとこういった飲泉可の温泉に巡りあえるのも楽しみの一つです。
洗い場は20箇所。浴槽を取り巻くように設置されています。もちろん仕切りなどはなく、シャンプー・リンス・せっけん等も設置されていません。そして、このカランとシャワーが昔ながらの風情があり、とても魅力的です。カランは、お湯と水との二つの蛇口があり、それぞれに前に押し込むタイプのレバーがあり、右・左両手で同時に押し込むと、お湯と水とが風呂桶に溜まり、ちょうど適温になります。左右の力加減で温度を微調整したりするのでしょう。ちなみに、お湯は温泉水がそのまま使われています。シャワーは、洗い場の上方に吹き出し口が固定されているタイプ。吹き出し下にレバーがあり、それを捻るとシャワーが出ます。こちらはさすがに適温に調整されていました。これもお湯は温泉水が使われていました。なんとも味があるカランとシャワー、現在は温度調整付のカランとホースの付いたシャワーヘッドが当たり前です。しかし、ここに来ると、そんなもの無くても実用的には差し支えない、むしろ、多少不自由だからこそ、人それぞれ工夫して使い方を学ぶのではないか、とさえ感じさせてもらえます。
ロッカーは鍵なし扉付のものが20箇所程度、さらに脱衣籠もありました。貴重品は貴重品ボックスに入れ、鍵を番台に預けるスタイルです。ドライヤーは1器備えてあり、30円で使用できます。更衣室もコンパクトですが清潔感があり、とても好印象です。
利用料金は、大人390円(だったと思う)。他の来訪者の方がまとめたブログ等を確認したところ、もう少し安い値段の記載もありましたが、消費増税に伴い値上げをされたのかもしれません。さて、この霧島温泉、スーツ姿で見るからに来訪者の私たちを気持ちよく迎えて下さいました。まず、タオルを持参していない我々は、フェイスタオルを購入しようと番台のおばさんに声をかけたのですが、「貸してあげますから、終わったら洗濯機に入れておいて下さい」とのこと。また、シャンプー、リンスー、ボディーシャンプーも、脱衣場に備え付けのものを貸しますから、戻しておけばいいですよ、とのこと。ここはいわゆる温泉銭湯ですから、こういったものは通常は持参が基本。持っていなければ、購入するのが一般的だと思います。しかし、快く前述のような対応をして頂きました。とてもすがすがしい気持ちで入浴できました。本当に感謝です。
鹿児島県は、日本でも有数の温泉数を誇る都道府県の一つです。日本温泉総合研究所のデータによると、泉源数で全国第二位(一位は大分県)、湧出量で第三位(一位は大分県)、となっています。鹿児島市内にもかなりの源泉数があるようで、よく調べるとこの霧島温泉のような温泉銭湯と思われる施設が市内各所にあります。大分市や別府市を訪れた際にも同様の風景に出会いますが、都市の日常生活に銭湯という形態で温泉が密接に係わっている姿はとても羨ましく感じます。我が山陰地方では、日帰り温泉は公的な温泉入浴施設を利用するのが一般的であり、地域性の違いを改めて感じます。こういった環境の違いも訪れてみればこそ分かること。銭湯一軒お邪魔しただけですが、せっかくの機会、一歩足を伸ばし、見聞を広めることの大事さを改めて感じたところです。