この度、2011年10月15日(土)~16日(日)にかけて、島根同友会の経営指針成文化セミナーに参加しました。同友会では、“経営指針の成文化”という取り組みに力を入れています。同友会では、経営理念、経営方針(経営戦略)、経営計画をあわせて「経営指針」と呼びます。このセミナーは、2日間でその素案を取りまとめるものです。講師には、東京同友会所属、コンサルタント朋友 代表取締役 奥長弘三氏をお迎えして開催しました。島根同友会の経営指針成文化セミナーは今回11回目ですが、初回からすべて指導を頂いている実績ある先生です。
私は、島根同友会に入会して間もなく、このセミナーを受講した経営者の方々の成果発表会に参加する機会がありました。一人ひとりの経営者が自社の経営をどう考えていくのか、真剣に考えた成果を発表し、さらに意見を取り込もうという姿勢には大変感銘しました。その時から、私も出来るだけ早く受けたいと思っていました。この度、受講することができましたので、その感想と気づきの一部をまとめておきます。
1.経営指針の成文化の意味~自社の存在意義の明確化~
今回のセミナーで私がもっとも重要だと感じたのは、「自社の存在意義の明確化」について考えた時です。自社の存在意義、それは我が社固有の役割とも言えます。少し前に流行った言葉で言えば“コアコンピタンス”、簡単に言いかえれば“自社の強み”ということもできるかもしれませんが、もっと上位に位置する概念のように感じます。他の会社ではなく、当社でなければならないもの、とは何なのか。そして自社が世の中にどう役立つのか。そもそも、当社にそんなものがあるのか。無ければどうつくっていくのか。このことを考え、明確化せずして、自社のあるべき姿や将来を明確にすることは出来ないと直感しました。
しかし、考えてみれば当たり前のことです。当社が、誰でも出来ることを、誰もと同じ値段・品質でやっているたくさんの会社のうちの一つであれば、それは、あってもいいけど、無くてもいい会社ということになります。とすれば、本来、こういったセミナーの機会を得なくても、常に考え続けていかなければならないことです。しかし、長年同じ仕事をし続けていくと気が付かなくなる。今までやって来た仕事を今までどおりこなして行くことが日常になってしまう。そのことに気づくことの重要性も感じることが出来ました。特に、公共事業に携わる地元企業というのは、そういう側面をより強く持っているのではないかと感じています。「自社の存在意義は何か」、この問いかけを常に頭に置き、ぶれない経営の方向性を見出したいと考えています。
2.同友会らしい経営指針の作成~人間的信頼関係、一貫性、グループ討議~
経営者が経営の勉強をする会・組織は、なにも同友会だけではありません。同友会に所属していなくても、素晴らしい経営理念や経営方針を持ち、立派な経営を続けていらっしゃる企業はたくさんあります。そういった中で、なぜ同友会のセミナーに参加して経営指針をつくるのか。これは私がセミナーを受ける際に、明確にしたい課題の一つでした。今回、講師の奥長先生から、同友会でつくる経営指針には3つの特徴があること説明して頂き、当社ならびに私の考え方にも合っていることを理解しました。
特徴の一つ目は、社員と経営者との関係の捉え方です。中小企業の経営者が、社員に対して、どう向き合って経営をしていくのかということですが、同友会の捉え方の本質は、「経営者と社員との人間的信頼関係の構築」にあるとの説明を受けました。そのために経営指針をつくるという訳です。“人間的信頼関係”とは、従業員が“会社”ではなく“社長”を信頼できるのか。社長が、“社員”という括りではなく、○○さん、××さん、という一人ひとりを信頼できるのか、ということです。大企業と異なり、経営者と従業員との距離が近く、日々直接的にかかわって仕事を進める中小企業だからこそ、最初に考えるべきことではないかと感じます。経営の前提とも言うべき、重要な要素であることは間違いないと理解しています。
二つ目は、“経営理念”を重要視し、経営理念~経営方針(戦略)~経営計画に一貫性がある、ということです。経営方針と経営計画に関連があっても、経営理念とは乖離している会社が多いという話も聞きました。確かに、経営理念がその時の会社の方針と直結していなくても業績が上がる場合もあるでしょう。しかし、これから先も継続して発展し続ける企業であり続けるためには、経営者自身の価値観・人生観、従業員や顧客・取引先への基本姿勢、地域社会に対する考え方など、事業活動の背景にあるものが明確で、かつ正しいものであり、関係する人々に理解されうるものでなければなりません。その意味で、大きな流れの一貫性というのは企業活動の説得力を高め、お客様そして取引先や従業員から指示される経営につながっていくのではないかと考えています。
三つ目は、グループ討論を経ている、ということです。島根同友会の経営指針セミナーは、今回6名限定で参加者を募集して開催されました。その6名が、セミナーの途中で演習として、自社の経営理念や経営方針などのたたき台を作成し、それを参加者に対して発表し、グループ討議の中でお互いに意見交換をしながら、つくり上げて行きました。お互いに異業種の経営者が、異業種の視点でお互いの経営指針について意見を述べあいます。特に、真剣に経営を見直そうとしている経営者どおしが交わす意見であったからこそ、なおさら大きな気づきにつながったと感じます。そして、社内に持ち帰った後もグループ討議を経て経営指針を精査することが推奨されています。経営者と従業員の顔が見える中小企業だからこそ、このようなプロセスが重要で、役に立つのだと理解しています。
3.フォローアップと成果のとりまとめ~発表会を通じて社内外に道筋を示す~
セミナーは2日間でしたが、この2日間で経営指針(経営理念、経営方針、経営計画)がすべてまとまる訳ではありません。今後、およそ3カ月間をかけ、内容をブラッシュアップしていくスケジュールとなっています。この間も、同じ島根同友会の会員で、すでにこのセミナーを受けた経験のある経営者がアドバイザーとなり、それぞれの受講者の検討作業をフォローアップして頂けるようになっています。自分一人だけで考えるのではなく、随所で“討議するプロセス”を盛り込んでいるのは、“同友会らしい”仕組みと言えます。
今後、2012年1月末に、今回のセミナー受講者が最終的に取りまとめた経営指針の発表会が開催されます。当社では、その発表後、社内向けの発表会を行うことにしています。発表会は、役職員だけでなく、金融機関、協力会社、その他関係先を招き、社外の会場を借りて開催したいと考えています。当社としては初めての試みです。これは、セレモニー的な要素も含め、新しい経営のよりどころを社内外に示し、その方向性に基づいた取組みを進めていくための経営者としてのコミットメントであり、共通認識を社内に浸透させていくためのきっかけにしたいと考えています。
色々なことを考えさせられるセミナーでした。演習において、「何のために経営をしているのか」を考えた時、これは、私のような後継社長こそ、しっかりと考えなければならないことだと思いました。もちろん、今まで考えたことが無いわけではなく、色々と想うところはありました。しかし、当社は50年以上の歴史があります。縁あって当社で働いて来られた、創業以来の諸先輩方が積み上げ、引き継がれてきた実績、技術、経験、ノウハウ、は様々なものがあります。これらを、今、三代目社長として預かる私の役割は何なのか。そして現在も一生懸命働いて頂いている役職員のみなさんがいます。そういったみなさんに対する私の基本姿勢とは何なのか。今、どう想っているかだけでなく、どう想わなければならないのか。そこで考えたことを、当社の新しい経営理念として、経営方針として明確化し、将来に向けた道筋を明らかにしなければらないと、改めて決意することができました。その決意を忘れず、鈍らせず、当社らしい経営指針の取りまとめと実践に向いたいと考えています。