2011年11月25日、2011年度島根経営品質研究会 特別講演会が開催されました。
テーマは、「人が輝く、笑顔が輝く、最幸の組織づくり」と題し、ネッツトヨタ南国ビスタワークス研究所所長 大原光秦さんを講師に招いて開催しました。大原さんは、島根経営品質研究会の特別講演会講師として4年連続お向えしており、島根における経営品質向上活動に対してご支援頂いています。
ネッツトヨタ南国のある高知県は、島根県と同様に若者の県外流出、少子高齢化、といった課題を全国に先がけて抱えている県です。その地域で若者の雇用の場の創出や教育といったことにこだわり、熱意を持って活動されている大原さんのお話は、中小企業を取り巻く実情がよく似ているだけに、説得力があります。さらに、4年間にわたる来訪の経験から島根の実情も踏まえた上で講演して頂ける内容は、都市部から講師を向えて話を聴くのとは異なって、腑に落ちることばかりです。講演内容全体を網羅することはできませんが、その一部を整理しておきます。
1.「お客様満足」と「仕事」との結びつき~“仕事”とはお客様の共感を得ること~
今回の講演の中で、「お客様満足」と「仕事とは何か」ということが、どう関連しているのかについて時間をかけて話をして頂きました。これは非常に分かりやすく、本質をついていると思うので、整理しておきます。まず、“お客様満足”と呼ばれる「満足」にも区別(レベル)があるということ。
ア)損得のレベル~どうせなら楽に、安く買いたい…相対的なお買い得力(ドラッグストア、ネットショップ)
イ)嗜好のレベル~どうしてもそれが欲しい…絶対的なブランド力(各種ブランド品)
ウ)共鳴のレベル~ぜひともあなたから買いたい…圧倒的な親切さ、想いやり、一生懸命さ など
そして、この損得や嗜好といった領域では、満足・不満足という評価が現れるが、共鳴という領域に達すれば、満足・不満足という範疇を超えた、「幸福」をお客様は感じている。我々のような地方の、中小企業が目指すべきはそこではないかという話です。一方、仕事をする側の意識、考え方も次のように整理されました。
ア)作業のレベル・・・決められたとおり正しくする(規則本位)
イ)趣味のレベル・・・自分のやりたいことを追求し、上手に上手くやる(自分本位)
ウ)仕事のレベル・・・今出来ることをやり、お客さまを笑顔に、そして幸福にする(お客様本位)
すなわち、仕事とは自分にできることを一生懸命やり、売り手(自分)よし、買い手(お客さま)よし、さらに世間よしという環境をつくる。それが実現できている状態が、“やりがい”を感じる状態だということです。このお客さまの満足と、仕事をする側の意識を関連付けると、次のようになります。
ア)損得(手軽に買いたい)⇔作業(手軽に稼ぎたい)
イ)嗜好(欲しいものが買いたい)⇔趣味(好きなことがしたい)
ウ)共鳴(あなたから買いたい)⇔仕事(幸せにしたい)
つまり、お客様に提供する商品、サービスについて、お客様から“共鳴”して頂けるということ。それができてはじめて仕事。それが出来ているのかを意識しながら仕事をすべきということです。私も、色々な場面で「仕事だから」という言葉を使います。しかし、その仕事は本当に“仕事”だったのか、常に問いかける姿勢が必要だと感じたところです。
2.「場」づくりの大切さ~人間は場に飲まれてしまう~
今回のセミナーの最後のまとめとして、“場”づくり、の大切さについて話がありました。
“場”という言葉の概念、企業にあてはめれば企業風土、組織風土、と言ってもいいのかもしれません。そして、人は場にのまれてしまう、ということ。確かに、いい意味でも悪い意味でも人は環境に順応してしまいます。厳しい職場で育てば厳しい社員が育つし、ダレた職場で育てばダレた社員が育つ。だから、いい職場では、いい社員が育つ。人が育つ場をつくるのは、経営そのもの。経営者の重要な仕事です。では、その場(職場)をどうやって作るのか。
例えば、今回の講演会は大変気づきが多く、有意義なお話をたくさん聞くことができました。受講した直後は、その影響を受ければ、“やらねばならない”、“変わらなければならない”と思うものです。私も良くそう思います。しかし、そういう感覚は持って3日、というお話もされました。それ以上経てば、よほどのことが無ければ元に戻ってしまう。そうならないためにも、“場”が大事だと言うことです。
その答えの一つが“鍛錬する仕組み”ということです。まず、“クセ”と“習慣”の違いについて話がありました。いずれも無意識のうちに出るものですが、習慣は有能でクセとは無能なもの。これを毎日の「鍛錬」によって意識的で有能なものに変えていく。そのための「仕組み」が必要だということです。概念的ではありますが、前述の“共鳴”、“仕事”ということについて常に意識し続けられるような鍛錬の場と、仕組みを整えることが必要です。それは経営者の仕事に他なりません。
3.人間関係の質を高める“ビジョナリー・スパイラル”へ
講演の最後に「ビジョナリー・スパイラル」という好循環を形成することの大切さについて話がありました。前述のとおり、“人が育つ場をつくる”ということは経営そのもの。そして人が育つ環境とは、「人間関係の質」が高い環境だということです。特に、同僚から育てられるという環境が重要だということ。よく「お客様に育てられた」という話がありますが、それはゼロでは無いにしても、実は、毎日顔を合わせて一緒に仕事をする同僚にから受ける刺激の方がよほど多く、同僚との人間関係の質が高いほど、良い社員が育つというのが実際のところだというお話です。
そして経営側のスタンスとしては、最初から結果を問うのではなく、まず、人間関係の質を高めるところからスタートする。その結果、思考が変わり、行動が変わり、結果が変わる。そのことにより人間関係の質がさらに高まり、さらに思考が変わる。この循環を「ビジョナリー・スパイラル」と呼ぶそうです。これに対して、結果ばかりを求めると、行動が抑制的になり、思考がマイナスになり、人間関係の質が低くなる。そして結果も悪くなる。この悪循環を「サバイバル・スパイラル」と呼ぶそうです。
伸びている会社というのは、このビジョナリー・スパイラルの循環が出来ている会社ということになります。私が社長に就任した時の当社は、間違いなくサバイバル・スパイラルにハマっていました。そして今、サバイバル・スパイラルの負の循環を止めるところぐらいまでは出来ているのではないかと思っています。これをビジョナリー・スパイラルに替えていくためにはどうすればいいのか。特効薬はないでしょうが、前述の“場づくり”と並行しながら、少しずつ変えていく、変わっていくしかないと考えています。
島根経営品質研究会の特別講演会、この数年、大原さんにお越しいただきお話を伺っていますが、毎回、たくさんの気づきを得られる大変貴重な機会となっています。経営者だけでなく、職員が受講しても大きな気づきを得る機会にもなります。それは仕事、そして人生を生きる、といったことの本質をベースにして常にお話をして頂けるからではないかと考えています。今回の学びを実践できる“場づくり”に向け、当社なりに一つ一つの取組みを進めたいと考えています。