2012年1月27日(金)、島根県中小企業家同友会 松江支部1例会が開催されました。
この日は、「田舎は日本未来の最先端!~“食べる花ビジネス”が中山間地域の雇用と、現金収入を得る手段につながり、地域を変える~」と題して、有限会社エヌー・イー・ワークス 代表取締役社長 三澤誠さんから報告を頂きました。同社は、島根県奥出雲町の会社で、タイトルのとおり、今回の報告では、同社の現時点の主要事業ある電子部品製造等ではなく、現在大変注目を集めている、「DEF(Dry Edible Flower)」と呼ばれる、食べる事の出来る食用の花を活用したビジネスが対象でした。具体的には、DEFを使って「押し花」をつくり、これを装飾に利用したお菓子を製造販売したり、また、最近ではDEFを単独で販売するというビジネスを展開されています。
今回、注目されているビジネスの実情というだけでなく、三澤さんの経営理念、よりどころとしている考え方等、地方で事業を行う者として、様々なことを学ばせて頂く機会となりました。私が特に感じたことを3点整理しておきます。
1.雇用の場の確保と現金収入を得る手段にこだわる
エヌ・イー・ワークスのホームページの冒頭に、『地域に根差す雇用の場の創出、現金収入を得る手段の創出にこだわり続けます!』というメッセージがあります。これは、同社のミッション、目的として事業運営の根本にある考え方です。ここで言う、“雇用の場”とは、言うまでもなく同社においてたくさんの地元の方を雇用するということ、“現金収入を得る手段”とは、今回のテーマであるDEFの製造に際して、地域の主婦や高齢者の方に在宅ワークとして押し花づくりを委託し、それが現金収入につながっていることを指します。
一般にビジネスを考える際は、ニーズ・ウォンツ、又は問題・課題の把握、といったことから始めるのでしょうが、三澤さんの場合は、「雇用と現金収入」からスタートしています。このアプローチが良かったのかどうかはともかく、その想いが強ければ、成功に導くことができるということを体現されています。一般に言う「ビジネスモデルの構築」といったスマートな話では無く、泥臭いけど強い気持ち、まずそれが経営には必要なのだということを学ばせて頂きました。
今回の報告の中で、「DEFを奥出雲の『葉っぱビジネス』にしたい」というお話がありました。「葉っぱビジネス」とは、ご存じの方も多いと思いますが、“つまもの”と呼ばれる、料理を彩る季節の葉や花、山菜などを販売する農業ビジネスのことです。徳島県の「株式会社いろどり」が有名ですが、DEFは、確かにこれに近いものがあります。地域の特性を活かした、地域の人が、地域で出来るビジネス、それが地域の人を元気にし、ひいては地域を元気にする。まさに、地方部における理想的なビジネスと映ります。
2.行動指針~速いこと、勇気を持つこと、継続して努力すること~
報告の中で印象に残ったことして、2011年度の「行動指針」として示された3つの指針があります。「速いこと」、「勇気を持つこと」、「継続して努力すること」、の3つなのですが、その意味を説明するために、早い、勇気、努力の対義語が示されています。しかし、それは単なる対義語ではなく、三澤さんのその指針にかける想いが伝わる表現が用いられ、考えさせられる示唆があります。
ア)速い⇔怠慢~速く出来ない原因を見つけようとしないのは「怠慢」
イ)勇気⇔無知~勇気が持てないのは無知だから。情報を収集して知恵として集結。
ウ)努力⇔無目標~継続して努力出来ないのは目標が無いから。目標が無いから苦痛。目標があれば努力は楽しい。
地域に雇用を確保する、現金収入の手段確保を追求、うたい文句としては美しいですが、その現実は極めて厳しいものだと思います。事実、三澤社長も昨年、人員整理に踏み切らざるを得ない状況に陥ったとの説明がありました。だからこそ、早く出来ないのは怠慢、勇気が無いのは無知、努力出来ないのは無目標、とまで言い切り、厳しさと優しさを持って社員と一緒になって新しい仕事に取り組んでいけるのだと感じます。
3.上善水如~求められる形になる~
報告の最後に、三澤さんの好きな言葉、「上善水如」について話がありました。
三澤さんがあるインタビューでこの言葉について述べられています。「水は高いところから低いところへ、丸い器に入れれば丸く見え、池の中の水は穏やかであり、台風の荒れ狂う海の水は猛々しい。我々のように歴史も無く、自分たちの技術だけで一生懸命頑張ってくれる社員しかいない会社にとって、その時その時代背景に合わせてたえず変化していくことにしか生き残る道は無い。」とあります。
現在の三澤さんの会社は、元々の事業である電子部品製造から、食品加工、人材派遣、など、様々な事業に取り組まれています。その根底には、地域における雇用の確保があります。それを実現するために、時代に合わせて変化していく。まさにそのとおりを実践されています。しかし、変化することとは、三澤さんの会社だけでなく、おそらくはほとんどの会社に必要なことです。各社は、自社の存在意義、資源をその時代背景に併せて活かし、新しい事業・市場・顧客を創造していく。会社は変わり続けなければならない。その重要性を改めて感じさせて頂きました。
最後の補足報告で、「地域がなければ会社もない、だから地域を残さなければならない。」、「高齢者をお荷物のように扱ってはならない。活躍できる場をつくらなければならない。」とのお話がありました。言葉だけではなく、それを実現するために、日々実践されているその姿には感服するしかありません。三澤さんは、元々、地元の社会福祉協議会で福祉の仕事に従事されており、その後、あるきっかけで現在の会社を起業されたという経歴をお持ちです。三澤さんの事業運営の考え方には、その時の福祉的な思想が色濃く反映されているように感じられます。そして、その姿勢は今後、中間山地で事業を営む経営者が持つべき必須の要件になるのではないかと感じたところです。