2013年10月18日、島根経営品質研究会 2013経営品質特別講演会が開催されました。
テーマは、「幸せが連鎖する日本流経営」と題し、ネッツトヨタ南国 ビスタワークス研究所 代表取締役社長 大原光秦さんを講師に招いて開催しました。同社は、日本経営品質賞受賞企業でもある、ネッツトヨタ南国の人財開発を担当する企業です。大原さんは、島根経営品質研究会の特別講演会講師として、6年連続お向えしており、島根における経営品質向上活動に対して絶大なご支援を頂いています。
一昨年の講演、そして昨年の講演でも大変示唆の多いお話をたくさん頂きましたが、今回は“経営品質”を説明する際によく用いられる「三方よしの精神」、そして、これからの「人財育成」を主テーマに、さらに内容を充実させた講演となりました。内容全体を網羅することはできませんが、その一部を整理しておきます。
1.諸文明の没落要因からみる会社の没落~人財育成の重要性~
今回、興味深かったのは「諸文明の没落」という話です。経営の講演会で“文明の没落”にまで言及するのは飛躍している感もありますが、今回の大きなテーマである人財育成に関しては、実は大きな係わりがあることが理解できました。過去の様々な研究等において指摘されているのは、「諸文明の没落は、外敵や天災によってではなく内部からの崩壊によって滅びる」という点です。そして、それは「道徳的逸脱」に起因する。要するに、道を踏み外した国が滅んでいる訳です。
そして大事なのは、これは“会社の没落(倒産)も同じ”だという指摘です。だから、道を外した企業は倒産する。具体的には、1975年に文芸春秋に掲載された「日本の自殺」という論文を引用して話をされました。そこに示された、歴史の教訓。没落する文明とは、1)幸福をモノや金だけではかる、2)エゴを自制できない、3)自分自身で解決するという精神と気概がない、4)若者におもねる年長者、5)大衆迎合主義、という5つの要素があるそうです。注目すべきは、全て“人”に関わることだという点です。
これを会社にあてはめるとどうなるか。没落する会社の傾向が見えてくるという訳です。
ア)金でしか動機づけされない人事施策や営業方針
イ)利己心を抑制できない社員
ウ)組織に付和雷同するぶら下がり社員
エ)若手社員に厳しくできない中堅社員
オ)権限移譲の名を借りた放任経営
会社にあてはめても、やはり“人”ということになります。自分の会社はどうなのか、前述されたような方向に向かいそうな気配はないのか。経営者が常に意識することが必要であり、だからこそ、人財育成を、知育(知識の習得によって知能を高めることを目的とする教育)だけでなく、徳育(道徳心のある、情操豊かな人間性を養うための教育)も合わせたものとして、実施してくことが大事になります。そのためには、まずもって経営者自らの徳を高める必要があるということを、痛感したところです。
2.人財育成の要諦は、何も教えないこと
講演会後半、ネッツトヨタ南国における人財育成の要諦について端的な説明がありました。それは、「何も教えないこと」。言葉どおりに受け止めて拙速に実践すると大変なことになりそうです。まず、なぜ何も教えないのか、という理由を理解する必要があります。一つは、「教えないから考えるようになる。」ということです。指導する側からすれば、“管理する”から“任せる”への転換、と言えます。だから、任せる以上は、任せる前に組織としてどうしたいのか・どうありたいのか、が示されていることが前提であり、任せられた社員も自分自身のありたい姿を想像できていることが必要となります。
講演会の冒頭でも、組織における人間教育の重要性について指摘がありました。人財育成、それはすなわち人間教育。要するに、「生きているだけでは人間にならない」ということ。昨今話題となって取り上げられる、モンスターカスタマー、モンスター社員、モンスターペアレント、といった人たちはなぜそうなってしまうのか、という問いかけです。一方で、多くの会社で新入社員に対して「将来どんな風になりたいか?」と(真剣に)聴くと、親孝行したい、人の役に立ちたい、後輩から一目おかれる尊敬される人間になりたい、などという、しっかりとした答えが返ってくるそうです。いずれも人間関係にかかわる部分です。みんな人間関係を上手く出来る人間になりたいと思っている。そのことは分かっている。しかし実際には中々出来ない訳です。
そこで重要なのは、「克己」ということ。人間だれしも、自分勝手な己と、それを反省して諌めようとする己を持っている。克己とは、後者が前者を超えること。成功者の共通点とは、「成功していない人が嫌がることを実行に移す習慣を身に付けていること」だそうです。どうして辛抱、我慢ができない人間になるのか。そこで、前述の「考えるようになる」という指摘にもう一度もどります。国全体でみれば、そもそも我々は何を目指していたのか、どのような国・国民になりたいと考えていたのか、企業であれば何を目的にしていたのか、どういう姿を目指そうとしていたのか。その目指す姿が不明確になればなるほど、自分勝手な己が強くなり、反省し諌める理由が見当たらなくなる、ということでしょう。
であるならば、組織が目指すところに共感し、自分自身が覚悟を決められるか、なりたい姿を目指して努力し続けることができるか、ということが人財育成において極めて重要になると理解しています。一朝一夕の話ではありませんが、そのような組織の姿を目指し、一歩一歩進みたいと考えています。
3.経営品質とは幸せの連鎖~三方よしの経営 売り手よし×買い手よし=やりがい~
今回の講演のテーマである「幸せの連鎖」。このことに対し、経営品質の考え方がどのように関わってくるのか、最後に分かりやすいまとめがありました。経営品質は、「三方よしの経営」だとよく言われます。これは、経営品質の4つの基本理念(社員重視、顧客本位、社会との調査、独自能力)にそれぞれ、次のように該当すると理解されています。社員重視は「売り手よし」、顧客本位は「買い手よし」、社会との調和は「世間よし」、となります。
これらを全て成立させる世界とはどのようなものなのか。少なくとも、その会社とその社員がどんな生き方、どんな未来を目指すのかが明確になっている。そしてその内容は当然我々が持つべき規範を踏まえている。だから、繰り返しになりますが「我々は何を目的にしているのか」。この問いかけを忘れてはならないし、その目的は善きことでなければならない。三方よしの観点に立ち、それを常に明確にし続けることが経営品質を学ぶ上での本質だと理解しています。
今回、CS(顧客満足)にとらわれすぎる現在の風潮についても指摘がありました。トヨタグループNO1のCSを誇るネッツトヨタ南国は、当初、お客さまに満足してもらうところ(CS)からスタートし、評価されています。しかし、CSだけを続けていく段々苦しくなってくる。顧客満足が行きすぎると、言われたことだけ、自分の為だけ、金の為だけ、となり、“CSは高いが社員はどうなのか”という疑問が沸いてくるそうです。そこに、経営の目的がなければ、自分達の存在意義さえも見失ってしまう。
そこでもう一度「幸せの連鎖する経営」について考えれば、その言葉自体にヒントがあります。満足ではなく幸せ(幸福)。幸福とは、売り手・買い手の両方が良くなるということ。そのためには、お客さまと従業員との心の交換、魂のつながりしかない。そういう関わりにおいてのみ感動の共鳴が生まれ、感謝の気持ちが芽生え、やる気につながる。もっと端的に言えば、「売り手よし×買い手よし=やりがい」です。そして、それを実現する人財とは、人の立場を考え、最善を尽くす人。人間力を持ち、自問自答(考えること)できる人。そのような人財が溢れる組織となるためには、一人一人が自分自身を磨いていくことが必要だという共通認識を持つことの必要性を感じます。どういう生き方をしたいのか、常に想いを馳せ、今のままでは駄目だという危機感を持ち、自分の中で志を上げていく。そういう自分自身にまずなりたい、ならねばならないと強く感じさせてもらうことが出来ました。
島根経営品質研究会の特別講演会は、大原さんにお越し頂く事が恒例となっていますが、今年も140名もの参加がありました。私が講演を伺うのは5回目。近年、強く意識して話されるのが「日本人」としてどう生きるか、どうしてくべきなのか、と言う点です。当初、経営の話から飛躍しているように感じていました。しかし、日本人がその歴史の中で培ってきた規範をベースに経営をしていくことが、これからの中小企業、特に島根や高知といった地方部の中小企業にこそ求められ、その実践が社員を幸福にし、地域を質的に豊かなものにしていくことにつながるのではないか、と漠然とながらも認識できるようになってきました。研究会メンバーで実施した懇親会の席ではさらに突っ込んだ話をさせて頂くことも出来ました。大原さんに、そして参加頂いたみなさんに改めて感謝申し上げます。このブログが、講演会の理解の一助になれば幸いです。