2013
07.25

2013年7月20日(土)~21(日)にかけて、島根同友会の第13回経営指針成文化セミナーが開催されました。同友会では、“経営指針(経営理念、経営方針、経営計画)の成文化”に力を入れていますが、このセミナーでは、2日間でその素案を取りまとめ、さらに3カ月をかけて精査していきます。講師には、東京同友会所属、コンサルタント朋友 代表取締役 奥長弘三氏をお迎えして開催しました。島根同友会の経営指針成文化セミナーの初回からすべて指導を頂いている実績ある先生です。

私も、2年前にこのセミナーに参加して経営指針を策定し、現在実践中です。今回は、島根同友会の経営労働委員会の委員長の立場で、これから経営指針を策定しようとされている会員みなさんのお世話をする役目で参加させてもらいました。運営側として参加し、受講生のみなさんと一緒に先生の講義や、受講生のみなさんが策定された経営指針の素案について意見交換させて頂くことで、改めて様々な気づきや刺激を頂くことができました。その一部をまとめておきます。

H25経営指針成文化セミナーの様子

1.何のために経営しているのか~利益をどうしていくのかに関わってくる~

「何のために経営しているのか?」。これは、セミナーの冒頭、受講生に対して問いかけられる質問です。様々な回答がありうるでしょう。世の中のために尽くしたい、人の役に立ちたい、ということもあるでしょうし、事業家として成功し、大金を得たい、という回答もあるかもしれません。また、特に後継経営者は、それが既定路線であるがゆえに明確な意味合いを持てずに苦労されている方もいます。いずれにしても、多くの経営者は、「お金は必要だが、お金だけではない」ということには気がついています。

この“経営とお金”という問題に関し、奥長先生は、「経営理念とは利益をどう考えるかに関わってくる」と説明されました。これは、利益、すなわちお金を儲けることは企業の目的の一つではあるが、「唯一の目的なのかどうか」、ということです。そこに、企業の目的は何なのか?何のために経営しているのか?という設問が生まれる背景があります。企業の目的が、地域社会への貢献、誰かの役に立つ、といったことならば、利益はそれを実現するための原資となり、利益確保は目的ではなく手段となります。この“利益をどう考えるか”という視点。単純な問いかけのようで、非常に奥深い、経営者の経営姿勢の本質を突く問いかけだと改めて感じました。

この質問、「何のために働いていますか?」とすれば、社員に対する問いかけにもなります。これに対して社員なんと答えるのか。「お金のため、生活のため」という回答も多く出るでしょう。それはそれで間違いではない。大事なのは、それが唯一の目的なのか?という点です。極端な話、働く目的がお金だけであれば、給料が下がれば社員は去っていくし、もっといい給料をもらえる会社があればそこに移ってしまう事になります。そういう価値観もあるでしょう。しかしそれでいいのか。そういう価値観だけで働き続けることがその社員の幸せにつながるのか。それを我々経営者が考え、社員に示さなければならないと考えています。お金だけではない働く目的。そして、きちんと判り易く説明する。それが経営指針の役割だと改めて感じています。

2.あらためて認識する「経営方針(戦略)」の重要性

今回のセミナー冒頭に、今日の中小企業を取り巻く情勢認識について奥長先生から話がありました。この中で、いわゆるリーマンショック以降の経営環境の厳しさから、「経営方針(戦略)の重要性が改めて認識されている。」という話がありました。リーマンショック以前の中小企業経営は、(経営方針(戦略)が不十分でも、)経営理念の社内共有がしっかりできていればそれで何とかやれていた、のだそうですが、リーマンショック以降は、経営方針(戦略)がしっかりしていないと環境変化に対処できないのだということです。そんなこともないだろうと思いますし、言葉尻だけ聴くといささか雑駁な話に聞こえますが、一昨年、実際に経営指針を策定した一人として、その言わんとすることは良く分かります。

経営理念とは事業を行うにあたっての経営の基本的あり方を示すものです。その内容はそれぞれの経営者なりの考えで定められるものですが、共通していることがあります。それは“善きこと”が前提だということです。世の中のためになる、人の幸せにつながる、そういった内容が記されます。“人を傷つける”とか、“社会を不安に陥れる”といった経営理念はあり得ません。ですので、経営理念に書かれている事柄は、社員の行動の規範となる性質を有している一方、事業そのものの具体的な方向までは明示しきれないのが通常です。

一方、経営方針(戦略)は、経営理念の徹底とその具体化、そして実現を目指して、あるべき姿と目標を示し、さらには、それに到達するための道筋を示すものです。また、3~5年程度の中期を想定して数値目標も含めて策定しますので、極めて具体的なものとなります。そして、その内容を定めるにあたっての考え方は多様であり、社内的にも様々な議論を戦わせる余地があり、だからこそ、具体性が高まりやすいと考えています。

私は、特に重要なのは「あるべき姿と目標」と考えています。3年後、会社がどんな姿になっているのか。社員が具体的にイメージできること、すなわち、自分がそこで活躍している様子がイメージできることが重要で、さらにそのためにこれからどんなことをしていくのかが示され、その取組みがあるべき姿の実現につながっていきそうだと予感させること。それが経営方針の最も重要な役割であり、それが出来れば、経営理念の徹底と相まって、組織が大きな力を発揮し、厳しい経営環境の中でも事業を維持発展させることにつながるのだと感じています。

3.10年かかる経営指針の定着~社員と一緒につくり上げる~

同友会においては、経営指針を策定後、それがその会社に定着するまでに10年はかかると言われているそうです。当社は、2011年に経営指針を策定しており、現在、策定してから2年目ということになります。一般的に言えば定着まであと8年はかかることになります。急ぎ過ぎず、しかし着実に、経営指針の実践を通じた定着に取り組んでいきたいと考えています。

この「定着」とは何か。言葉の定義について明確に確認はしていませんが、経営指針に示した会社の将来像や進むべき方向が現実のものとなり、それぞれの仕事において活躍する社員がたくさんいる、経営の数値的にも事業が伸びている、といったところでしょうか。大事になのは、経営指針を策定した後に結果を出すことでしょう。結果が出るから社員が信用する、そして信頼関係が少しずつ構築されていくのではないかと考えています。当社は幸いにも策定初年度にいい業績を上げることができました。お客さまと仕事に恵まれ、社員のみなさんが頑張ってくれた成果です。そして、「経営指針を策定した」という事実が、はっきりとは分からないけれど、見えない力で会社の地力を高め、次のステップに向えるように押し上げてもらったように感じています。

今回の講義で、定着に向けた具体的な取り組みについて、さまざまなアイデアを提示して頂きました。経営方針や経営計画を社員と共に創る、プロジェクトチームの編成やグループ討議などの採用、部門ごとの勉強会や定期的な検証会の開催、など、その組織の状況に応じた様々なやり方が考えられます。今までやって来なかったことを会社に導入するには労力がかかります。しかし、続けていくうちにそれが当たり前になる。そして成果が上がれば経営者と社員との信頼関係が高まり、また会社の力が増していく。そのいい循環が必ずやいい成果を社内に生み出してくれるものと信じ、これからも経営指針の実践に取り組んでいきたいと考えています。

コンサルタント朋友 奥長先生の指導

さて、ここからはお世話する立場での感想です。今回の経営指針成文化セミナー、いくつかの特徴がありました。一つは女性経営者の参加比率が高かった(6社中3名)こと。島根同友会ではこの度女性部会が新たに立ち上がりますが、そのタイミングで経営に真剣に取り組まれる女性経営者がたくさんいらっしゃることはとても心強いですし、ワークライフバランスなど、女性経営者だからより意識して目を向けることができる観点も熱心に議論されていました。また、1社から2名の経営者(代表取締役と常務取締役)が同時に受講するという試みも実施しました。経営のパートナーが最初の段階から経営指針を一緒に創る。それがどのような成果をもたらすのか、大変興味深いところです。島根同友会の経営指針成文化セミナー、少しずつ深化しながら毎年受講者を輩出しています。この取り組みの継続が必ずやこの地域の活性化につながるでしょうし、そういう意欲ある経営者のお世話をさせてもらうことで、“負けてはいられない”という意欲を奮い立たせてもらうことができます。様々な同友会活動の中で、この経営指針成文化を任せて頂いたことに感謝し、引き続き成果報告会まで受講生のみなさんと一緒に取り組んでいきたいと考えています。

2013
07.18

社長の温泉めぐり57 半べえ温泉(半べえ庭園内) 広島市南区

私はさほど風呂好き・温泉好きではありませんが、温泉開発を行う会社の社長として、温泉に詳しくなければ説得力がありません。そこで、仕事や私用で出かけた先で温泉を巡り、少しずつ記事にしていくことにしました。温泉ソムリエらしいコメントにも配慮したいと思います。

57箇所目は、広島市南区の「半べえ温泉」です。半べえ温泉は、広島市南区にある「半べえ庭園」内にある温泉施設です。半べえ庭園は、面積が1万坪を超える広島市内の代表的な庭園で、ツツジの名所としても知られます。婚礼での利用(挙式、披露宴)も多く、実は、私もこの半べえ庭園で結納を執り行いました。とてもご縁のある施設ですが、温泉は今回初めて利用しました。訪問日は、2013年7月15日です。

半べえ温泉入口

この半べえ温泉は、いわゆる「温泉付きスーパー銭湯」とでも言うべき施設で、広島市内にある温泉施設、宇品天然温泉ほの湯塩屋天然温泉ほの湯、などと同じようなタイプとなっています。半べえ庭園の場合、内湯部分は水道水を利用した銭湯であり、温泉は露天風呂にのみ使われています。“温泉”と銘打ちながら実質的にはスーパー銭湯の形態となっているのは、広島市内がスーパー銭湯激戦区で、競争が激しいことが背景の一つと思われます。単に“温泉”と言うだけでは集客が難しい面があったり、多様な風呂を用意しないと高い単価での利用料を設定することが出来なかったり、といった事情があるものと推察します。

半べえ温泉の泉質ですが、実は、この温泉には2つの泉源があります。主に使われている泉源は、「含弱放射能-ナトリウム・カルシウム‐塩化物泉」で、成分分析表によると、源泉温度19.8℃、湧出量26㍑/分、となっており、加温、循環式が採用されています。また、成分総計19.4g/kgとかなり濃い温泉で、特に、塩化物イオンの含有量が高く、口に含むとかなりの塩辛さです。この成分は、広島市内で瀬戸内海よりに立地する前述の温泉(宇品天然温泉ほの湯、塩屋天然温泉ほの湯)がほぼ同じような傾向をみせています。適応症としては、塩化物泉かつ高濃度であることにより、湯冷めしにくく殺菌効果を強く発揮することが期待されます。入浴後は、すぐに肌がつるつるしてくる感覚が得られます。これは、強い塩の成分が肌の成分と結びつくことによる被膜形成効果(塩のパック効果)と考えられます。アルカリ性温泉のヌメヌメ感とはまた違った、さっぱりした入浴感です。なお、これらの特性はいずれも温泉水が利用されている「露天風呂」で体感できるものです。また、かなり成分濃度が高いので、肌の弱い方をはじめとして、湯あたりには注意が必要です。

温泉が使われている露天風呂は、岩風呂風のつくりです。「阿の湯」「吽の湯」と名前が付いており、それぞれが風呂を形づくる“石”に特徴を出しています。私が訪問した日は、「吽の湯」が男湯でしたが、こちらは、高知産の赤石を使用しているそうで、赤みがかった石に囲まれ、一風変わった風呂の雰囲気を楽しむことが出来ました。一方、内湯の方は、天井も高く、明るく開放的でタイル張りの衛生的な造りとなっています。スーパー銭湯らしい、バラエティに富んだ風呂が楽しめます。腰かけ湯、寝湯、歩行湯・立湯、浮湯、座湯、などで、多様な風呂を楽しみたい方にはうってつけです。また、サウナが充実している点も特徴でしょう。

ところで、この温泉の2つ目の泉源は主泉源の補助用として開発されたそうですが、泉質は「単純弱放射能冷鉱泉」で、泉温18.5℃、湧出量75㍑/分、です。なお、成分総計は1.95g/kgとなっており、単純泉ではなく、“ナトリウム・カルシウム‐塩化物泉”といった名称が付いても良いと思いますが、不思議なところです。この泉源は、お風呂の利用状況によって主泉源の供給が不足なった時の補充用として用いるほか、夏場は水風呂にこの源泉をそのまま使用されているそうです。この話は、帰り際に施設の方から伺ったので、入浴中、水風呂は水道水と思いこんでおり、チェックしていませんでした。意外なところで温泉が活用されていることもあるので、良く注意していないといけませんね。

洗い場は、数えると38箇所ありました。うち、仕切り付が16箇所です。仕切りが無い方はやや狭めの印象です。シャンプー、コンディショナーとボディソープが備わっています。いずれも「炭」を使ったシリーズで、一般的なものと違って高級感があります。脱衣場も広くて清潔、ロッカーは136番まで番号がありました。風呂の大きさや洗い場の数等と比較してロッカーの数が多すぎるような気もしますが、余裕を持って入湯者を管理するには、このぐらい必要なのかも知れません。このうち、上着などを掛けれる縦長のロッカーが16用意されていました。洗面は、椅子と鏡が5つあり、ドライヤーも5つセットされていますが、蛇口が付いているのは2箇所のみで、あとはカウンターのみでした。民間施設では良く見られますが、合理的な造りと言えます。

施設内の様子(右手が温泉、左手がお食事処)

この施設ように水道水の風呂と温泉の浴槽が一体的になっているような施設を利用する場合、「温泉の効果を最大限に得る」という観点では、“入浴の順番”ということには留意する必要があります。簡単に言えば、温泉に入った後で普通の風呂に入らない、と言う事。風呂に入れればいい方にとってはどうでもいいことですが、せっかくの温泉成分を洗い流してしまうのはもったいない事です。ところで、今回、たまたまかもしれませんが、温泉を使っている露天風呂に入浴する人は少数でした。訪問したのは祝日の午前中で、浴室内は結構賑わっていたものの、この時はサウナの利用がかなり多く、露天風呂は人気薄でした。施設の利用目的は人それぞれですが、島根県内にある日帰り温泉施設の利用とは少し感覚が違うのかな、と思ったところです。

利用料金は、大人750円。最も近傍の類似施設である宇品天然温泉ほの湯も750円、少し離れた塩屋天然温泉ほの湯は800円です。なお、備えつけてあったパンフレットでは大人800円となっていました。近隣施設との競争で値下げしたのかもしれません。なので、価格的には広島地域の相場、というところのようです。ただ、750円と言えばそれなりの値段です。このため、回数券や併設するお食事処とのセット券、無料送迎バスの運行など、様々な工夫がされているようでした。

お食事処からの庭園の眺め

施設内は、高級な庭園の雰囲気に上手く溶け込ませた落ち着いた仕上がりです。広々としたロビーも風呂上がりにゆっくりできる雰囲気を醸し出します。そして、併設するお食事処では、半べえ庭園の美しい庭園の一部を観賞しながら食事を楽しむ事が出来ます。これもこの施設の楽しみの一つではないでしょうか。しかし、この庭園も十分美しいのですが、これはごく一部で、半べえ庭園の本体は別にあります。興味をお持ちの方は、温泉だけでなく、ぜひ庭園も見て、散策して頂きたいと思います。なお、庭園だけ見学は400円という設定です。特に季節の良い時期であれば、一見の価値はあろうかと思います。

2013
07.10

2013年7月9日(火)、島根県中小企業家同友会 松江支部7月例会が開催されました。この日は、「『理念の共有と行動実践で経営者が変わる、社員が変わる、会社が変わる。』~経営指針成分化によって始まる夢の追求~」と題して、山善商会有限会社(おつまみ研究所) 代表取締役 土江拓也さんから報告を頂きました。

同社は、昭和52年におつまみ製品専業の製造卸売業として創業し、山陰エリアの酒販店を主要顧客として事業を行っています。また、近年ではインターネット通販事業に参入し、卸売だけでなくエンドユーザーに向けたおつまみの提案を行い、徐々に業績を伸ばしています。代表取締役の土江さんは、先代の急病をきっかけに、東京で起業してやっと軌道に乗りかけていた事業を譲渡し、Uターンして家業の立て直しに奔走されました。そして、立て直しの間に起こった様々な苦労を経て、昨年度、同友会に入会されるとともに経営指針を策定されました。

今回、土江さんが経営者として歩んできた経緯と、その中で迎えた様々な転機についてお話頂くとともに、経営指針成文化セミナーを通じた経営指針の策定と実践を通じた自らの変化について語って頂きました。その概要を整理しておきます。

報告する山善商会(有) 代表取締役 土江拓也さん

1.一人の社員との出会いが変化への気づきをもたらす

土江さんは、大学卒業後入社した大手の広告代理店の営業マンとしてトップクラスの成績を残すなど、営業のプロとして東京時代を過ごされた経験をお持ちです。そこで、家業継承のため島根にUターンした当初、東京スタイルの営業システムを導入し、「数字がすべて」という売上至上主義のスタンスを貫かれていたそうです。しかし、当初は成果があがっていたものの、徐々に営業マンの入れ替わりが激しくなり、数字は上がるが工場現場は疲労困憊し、そして、最後には大手の取引先との取引で致命的なミスを犯す、という事件を発生させるに至りました。その結果、土江さん自身がやる気をなくし、現場の社員が落ち込み、営業マンも言うことを聞かなくなり結果的に退職する、という危機に追い込まれます。

せっかくの立て直しが無に帰すかもしれない。そんな状況の時に、一人の社員との出会いがあったのだと話されます。多くの営業マンが退職した後に入って来た新しい営業マン。土江さんは、過去の失敗を繰り返しまいと、その方には、営業ノルマを課さずに仕事をお願いします。その方は大変まじめな方で、営業ノルマはなくても、営業を自分の仕事として休日も残業も厭わず働いてくれた(もちろん今でも)そうです。その時の印象を「ノルマが無くてもちゃんとやってくれる人もいるんだ」と、スパルタ営業の風土で育った土江さんにとって、ある意味新鮮な驚きだったと回顧されます。そんな社員だから、なんとかよくしてやりたい、この会社でずっと働いてもらうにはどうしたらいいのか、と、初めて本気で思ったとも語られます。

社員によくしてやりたい、ずっと働いてもらうにはどうしたらいいか、という経営者の想い。それが、「社員目線」の経営、そして「従業員満足度」に通じるのではないでしょうか。私自身のことで言えば、やはり新卒採用を始めてから、「この子たちがずっと働けるような会社にしていかなければならない」と強く感じるようになりました。それまでも想っていない訳ではありません。しかし、誤解を恐れず言えば、それは同友会などの学びを通じ、“そういうことが大事だ”、“そういう風にしなければならない”と教わるから、それに習っていたに過ぎません。この、“理屈の上での理解”を、“経営者としての本心・決意”といったレベルに変えていく作業の一つとして、経営指針の策定と実践があると考えています。会社を変える、経営者自身を変えるような出会い・ご縁を引き寄せるのもまた、経営者自身の想いであり、日々の行動ではないかと改めて感じます。土江さんにもさらなるご縁、出会いが訪れることを願っています。

2.エンドユーザーからの声で気づく~どうしたら売れるかより、どうしたら喜んでもらえるか~

山善商会の事業の大きな柱の一つとなっているインターネット販売事業。この取り組みも大きな転機となっています。土江さんは、インターネット通販への取り組みを通じた気づきを、「どうしたら売れるか?ばかり考えていたのが、どうしたら喜んでもらえるか?を考えるようになった」と総括されます。

きっかけは、エンドユーザーのお客さまから届いた「お宅のおつまみが美味しかった。送って欲しい。」等という直接の反応です。基本的に卸売業として事業を営んでいた土江さんにとって大変新鮮に響き、また嬉しく感じたという事です。しかし、直ぐに売れるだろうっと思って始めたインターネット通販も、当初は全く売れなかったそうです。それが、しまね産業振興財団が企画する「webあきんど養成ジム」(※リンクは2012年度のもの)での学びをきっかけに変化していったそうです。勇気を持って商材を絞り込み、“誰のための何のサービスか?”を考える、という商売の本質に気づき、会社の想いと商品に対する想いを、ピンポイントで伝えたい人に伝えることが重要、だと強く感じたそうです。そして、それを実現するためにはどうすればいいのかを考えた。その結論を、「目的に向って共感するチームとなることが必要」と語られます。目的の明確化、共感を醸成するためにはどうすればいいのか。その後の同友会入会、そして経営指針成文化への取り組みの素地が生まれたのがまさにこのタイミングだったのでしょう。

この「エンドユーザーの声を聴く」という機会。実は、業種・業態によってその機会の有無は大きく異なります。小売業、飲食業、サービス業、など、いわゆるBtoCビジネスとして直接消費者と接する業種にとっては当たり前のことですが、製造業、卸売業、などのBtoBビジネスの場合、全く機会がないことも珍しくはありません。もちろん取引先担当者の評価はある訳ですが、あくまで、その商品が売れた・売れないという観点が中心であり、商品がよかった・よくない、という直接的な消費者の声とは視点が異なります。

当社のような建設業、建設コンサルタント業でも同様の傾向があり、直接エンドユーザーの声を聴ける業種のことをうらやましく思うこともあります。一方で、現実にはクレームや耳の痛い話を聴かされるという側面もあるでしょう。しかし、それに真摯に向き合ってきた企業が、お客さまに指示され、社員の働きがいを生みだし、生き残っている。だから、状況が異なるからといって諦めるのではなく、その業種・業態にあった方法でユーザーの声を把握し、社内で共有していることが必要だと考えています。当社も、昨年度から、お客さまアンケートをスタートさせました。いわゆる“エンドユーザー”にあたるお客さまは少ないのですが、それでも、当社の仕事ぶりに対する率直な、忌憚のないご意見を頂けますし、感謝の言葉を受け取れば素直にうれしく感じます。そういった「お客さまに喜んで頂く、そしてそれを自分達の喜びにする」ための活動は、どんな業種・業態であれ、取り組んでいかなければならないと改めて感じたところです。

3.丁寧に説明する熱意と社員の声を聞く勇気

今回の報告で特徴的だったことの一つとして、「理念と行動指針の解釈」を作成されたことがあります。土江さんが、島根同友会の経営指針成文化セミナーを通じて策定した経営理念と行動指針。これを社員のみなさんに伝えるために準備したものです。そこには、なぜ経営理念が必要なのか、山善商会にとってどんな意味があるのか、が記されるだけでなく、経営理念の一センテンスごとに、その意味するところの解説文を経営者みずからの言葉で書き記されています。

経営理念、行動指針を策定されて以来、朝礼で唱和するようにしているそうですが、それに先立ち、この“解釈”を社員のみなさんに説明し、表面的な文言だけでなく、その言葉が意味するところ、経営者の想いをきちんと伝える、という試みを丁寧に実施されています。この、「丁寧に説明する」という姿勢。大いに見習わなければなりません。紙に書いて配っておいたから読んでいるはず、伝わっているはず。一回話をしたから理解しているはず、などという経営者の勝手な思い込みを強く戒めて頂いたと理解しています。経営指針の浸透には繰り返し伝えることが大事、とよく言われますが、実際には中々できません。特に、丁寧に説明する、という姿勢は、本気で実現したい、何が何でもやらなければならい、という経営者の本気がなければ出来ないことだと強く感じます。

そして、もう一つ忘れてはならないのは、「社員の話を聴く勇気」です。土江さんは、今回の報告に合わせる形で、経営指針策定、そして4カ月の実践状況について社員のみなさんからアンケートを取っていらっしゃいました。「会社は楽しいですか?」、(理念・行動指針について)「毎朝の唱和で何か変わりましたか?」、「会社に望むことはありますか?」といった質問です。前向きな回答が多かったようですが、中にはマイナスの回答もあったとのこと。後ろ向きな回答、批判的な回答、経営者としては正直、聴きたくありません。いいことだけ言ってくれたらと思います。しかし、その耳の痛い話も受け止める勇気を持つこと、社員の声を聴くという行動に移すからこそ、会社が、自分が変わっていける。そして、経営指針によって未来を見据えることができるからこそ、様々な意見に耳を傾ける気持の余裕ができる、という側面もあると考えています。土江さんが経営指針を策定されて得られた大きな収穫の一つだったのではないでしょうか。

グループ討議の様子

報告の最後に、経営指針成文化セミナー受講後の変化を語られました。一つは、社員との関係性。自分自身の認識が、主従関係から信頼関係へと変化したと断言されます。そして、「お客さまの喜びを追求する一つのチームをつくりたい」という自分自身の、そして会社として目指したい方向性が明らかになったとも語られます。いずれも、土江さんが本気で会社を変えたいと思い、そして自分自身が変わろうと自覚され、指針策定に取り組まれたからこそ得られたものでしょう。そして、今後の目標は「やりたくて始めた仕事では無い家業を、一生の仕事として自分のやりたい事業へと変えていくこと」、だと語れます。同じ後継経営者として、私が目指すべき境地を代弁してもらったように感じるとともに、私自身の気持ちの甘さを痛感します。大いなる叱咤激励として受け止め、私自身も切磋琢磨する仲間として、自社の事業の発展に邁進したいと考えています。

2013
07.04

社長の温泉めぐり56 立久恵峡温泉(御所覧場) 島根県出雲市

私はさほど風呂好き・温泉好きではありませんが、温泉開発を行う会社の社長として、温泉に詳しくなければ説得力がありません。そこで、仕事や私用で出かけた先で温泉を巡り、少しずつ記事にしていくことにしました。温泉ソムリエらしいコメントにも配慮したいと思います。

56箇所目は、島根県出雲市乙立町の「立久恵峡温泉(御所覧場(ごしょらんば))」です。立久恵峡温泉は、出雲市を代表する景勝地である“立久恵峡”にある温泉で、渓流沿いにある2軒の旅館で入浴することができます。いずれも日帰り入浴が可能です。今回は、そのうち松江藩主 松平不味公の別荘跡地に立地するという「御所覧場」に、日帰り入浴で伺いました。訪問日は、2013年7月3日です。

御所覧場の建物

この御所覧場のお風呂の特徴は、「露天風呂しかない」という点です。しかも、旅館敷地と道路を挟んだ向かい側、すなわち渓谷の川辺に面して風呂があります。渓谷脇の道路から川沿いに少し降りる形で露天風呂に向います。建物の入口に“料金はフロントで”という但し書きがありますが、勝手に入る人はいないのかと心配になってしまう雰囲気です。入口から向って左手が男湯、右手が女湯、と分かれていました。(※なお、昨年のリニューアルでお風呂が新設されたお部屋もあるようです。)

露天風呂の中は、岩風呂風のつくりで、露天風呂といいながらもかなりの部分が屋根で覆われています。むしろ、内湯の一部が開口しているといってもいいかもしれません。しかし、前面に広がる立久恵峡の渓谷に向った大きく開けており、山陰随一の景勝を眺めながらゆっくりと浸かれる広めの露天風呂は、非日常的な秘湯の雰囲気を十二分に堪能させてくれます。そして、この風呂は、ややぬるめの温度設定(季節が変われば調整されるのかもしれませんが)になっていました。秋口以降もこの温度であればちょっとぬるいとかと思いましたが、実は、風呂の一角が1~2人用に小さく仕切られており、そこに熱いさし湯がそそがれ、越水が大きな風呂に流れ込むようになっていました。このため、この小さな風呂は温度が高く、熱い風呂がいい方はこちらに入る、というスタイルなのでしょう。なお、先に小さい方に入ってから大きな風呂に入ると、最初はかなりぬるく感じてしまいます。

露天風呂(男湯)の様子

立久恵峡温泉の泉質ですが、見た限り建物内には正式な成分分析表の掲示が見当たらなかったのですが、浴室の看板には「含砒素石膏食塩泉」と記されていました。これは、現在の表記で言うと、ナトリウム・カルシウム‐塩化物・硫酸塩泉という泉質名になると推定されます。また、“含砒素”というのは現在の泉質表記では表現されませんが、成分に微量の砒素が含まれているのでしょう。この他、インターネット上の情報では、源泉温度31.8℃、成分総計9.87g/kgというデータもありました。実際、口に含むとかなりの塩味を感じます。加水もされていない(加温、循環式との表示あり)ようなので、成分的にはかなり濃い温泉と言えるでしょう。

適応症としては、塩化物泉の特性により、湯冷めしにくく強い殺菌効果を持ち、また、硫酸塩泉の特性により、傷や火傷等の治癒効果が高く肌の弾力回復や引き締め効果が期待できます。前述のとおり成分濃度もかなり濃いと思われ、その特性が強く表れる温泉であると考えられます。入浴感はさっぱりとした感覚で、ぬるめの温度設定とあいまって比較的長い時間の入浴にも向いていそうです。ただ、正確なところは分からないものの、かなり成分濃度が高いので、肌の弱い方をはじめとして、湯あたりには注意が必要です。

洗い場は5箇所ありました。かなり狭いスペースに苦労して配置された様子が伺えました。シャンプー、コンディショナーとボディソープが備わっています。洗い場の間隔は狭く実際に5人が使うのは中々大変そうです。また、洗い場の前には鏡はありませんでした。脱衣場は、建物の入口からすぐのところにあり、鍵付きのロッカーが6個あります。別に籠のみが6つほどおけるようになっていました。洗面台は入口脇の待合コーナーのようなところに1箇所、ドライヤーもそこに1つだけ設置されていました。利用料金は、大人500円という設定です。

ところで、この施設を訪れるにあたり一つ注意が必要なことがあります。御所覧場がある場所は、渓谷の中でも最も急峻な場所(だから眺めもいい)のようで、道路がセパレート(上下線が離れている)になっている点です。建物はその上下線の間の敷地に立っています。そして、主要な駐車場は上り線(中国山地側から出雲市内に向う方向)の道路沿いにあるため、出雲市内側から向うと一旦しばらく先まで進んでから折り返す必要があります。山陰地方有数の景勝地ですから、それだけ地形的にも急峻だということでしょう。

露天風呂入口(左に降りると男湯、右が女湯)

“露天風呂のみ”というこの温泉。心を落ち着けたい時、日常の雑踏を離れたい時など、立久恵峡の四季折々の景観を楽しみにしながら訪れるのもよさそうです。なお、貸し切り露天風呂もあるようです。実は、男湯の入口横に「絶景の湯」という看板があり、入れるのかと思いきや鍵がかかっていました。ここがそれに当たるのかもしれません。ホームページによると、宿泊の方は無料で利用できるようです。またいつか機会があればと思います。また、御所覧場は、昨年、宿の中をリニューアルされたようで、お部屋からの立久恵峡の景観も絶景のようです。

「山陰の耶馬渓」と称される立久恵峡(「耶馬渓」をそもそも私は知りませんでしたが)。1時間ほどで渓谷を周遊することが出来るようです。ゆとりを持ってゆっくりと訪れ、絶景を楽しみながら心地よい汗を流した後の一風呂。さらには宿泊して美味しい料理とゆっくりと入浴を楽しむ。これが本来の立久恵峡温泉の楽しみ方なのでしょう。初めて訪れましたが、とても魅力的な、そして、またいつか訪ねてみたいと思わせる、すばらしい温泉でした。