私はさほど風呂好き・温泉好きではありませんが、温泉開発を行う会社の社長として、温泉に詳しくなければ説得力がありません。そこで、仕事や私用で出かけた先で温泉を巡り、少しずつ記事にしていくことにしました。温泉ソムリエらしいコメントにも配慮したいと思います。
57箇所目は、広島市南区の「半べえ温泉」です。半べえ温泉は、広島市南区にある「半べえ庭園」内にある温泉施設です。半べえ庭園は、面積が1万坪を超える広島市内の代表的な庭園で、ツツジの名所としても知られます。婚礼での利用(挙式、披露宴)も多く、実は、私もこの半べえ庭園で結納を執り行いました。とてもご縁のある施設ですが、温泉は今回初めて利用しました。訪問日は、2013年7月15日です。
この半べえ温泉は、いわゆる「温泉付きスーパー銭湯」とでも言うべき施設で、広島市内にある温泉施設、宇品天然温泉ほの湯、塩屋天然温泉ほの湯、などと同じようなタイプとなっています。半べえ庭園の場合、内湯部分は水道水を利用した銭湯であり、温泉は露天風呂にのみ使われています。“温泉”と銘打ちながら実質的にはスーパー銭湯の形態となっているのは、広島市内がスーパー銭湯激戦区で、競争が激しいことが背景の一つと思われます。単に“温泉”と言うだけでは集客が難しい面があったり、多様な風呂を用意しないと高い単価での利用料を設定することが出来なかったり、といった事情があるものと推察します。
半べえ温泉の泉質ですが、実は、この温泉には2つの泉源があります。主に使われている泉源は、「含弱放射能-ナトリウム・カルシウム‐塩化物泉」で、成分分析表によると、源泉温度19.8℃、湧出量26㍑/分、となっており、加温、循環式が採用されています。また、成分総計19.4g/kgとかなり濃い温泉で、特に、塩化物イオンの含有量が高く、口に含むとかなりの塩辛さです。この成分は、広島市内で瀬戸内海よりに立地する前述の温泉(宇品天然温泉ほの湯、塩屋天然温泉ほの湯)がほぼ同じような傾向をみせています。適応症としては、塩化物泉かつ高濃度であることにより、湯冷めしにくく殺菌効果を強く発揮することが期待されます。入浴後は、すぐに肌がつるつるしてくる感覚が得られます。これは、強い塩の成分が肌の成分と結びつくことによる被膜形成効果(塩のパック効果)と考えられます。アルカリ性温泉のヌメヌメ感とはまた違った、さっぱりした入浴感です。なお、これらの特性はいずれも温泉水が利用されている「露天風呂」で体感できるものです。また、かなり成分濃度が高いので、肌の弱い方をはじめとして、湯あたりには注意が必要です。
温泉が使われている露天風呂は、岩風呂風のつくりです。「阿の湯」「吽の湯」と名前が付いており、それぞれが風呂を形づくる“石”に特徴を出しています。私が訪問した日は、「吽の湯」が男湯でしたが、こちらは、高知産の赤石を使用しているそうで、赤みがかった石に囲まれ、一風変わった風呂の雰囲気を楽しむことが出来ました。一方、内湯の方は、天井も高く、明るく開放的でタイル張りの衛生的な造りとなっています。スーパー銭湯らしい、バラエティに富んだ風呂が楽しめます。腰かけ湯、寝湯、歩行湯・立湯、浮湯、座湯、などで、多様な風呂を楽しみたい方にはうってつけです。また、サウナが充実している点も特徴でしょう。
ところで、この温泉の2つ目の泉源は主泉源の補助用として開発されたそうですが、泉質は「単純弱放射能冷鉱泉」で、泉温18.5℃、湧出量75㍑/分、です。なお、成分総計は1.95g/kgとなっており、単純泉ではなく、“ナトリウム・カルシウム‐塩化物泉”といった名称が付いても良いと思いますが、不思議なところです。この泉源は、お風呂の利用状況によって主泉源の供給が不足なった時の補充用として用いるほか、夏場は水風呂にこの源泉をそのまま使用されているそうです。この話は、帰り際に施設の方から伺ったので、入浴中、水風呂は水道水と思いこんでおり、チェックしていませんでした。意外なところで温泉が活用されていることもあるので、良く注意していないといけませんね。
洗い場は、数えると38箇所ありました。うち、仕切り付が16箇所です。仕切りが無い方はやや狭めの印象です。シャンプー、コンディショナーとボディソープが備わっています。いずれも「炭」を使ったシリーズで、一般的なものと違って高級感があります。脱衣場も広くて清潔、ロッカーは136番まで番号がありました。風呂の大きさや洗い場の数等と比較してロッカーの数が多すぎるような気もしますが、余裕を持って入湯者を管理するには、このぐらい必要なのかも知れません。このうち、上着などを掛けれる縦長のロッカーが16用意されていました。洗面は、椅子と鏡が5つあり、ドライヤーも5つセットされていますが、蛇口が付いているのは2箇所のみで、あとはカウンターのみでした。民間施設では良く見られますが、合理的な造りと言えます。
この施設ように水道水の風呂と温泉の浴槽が一体的になっているような施設を利用する場合、「温泉の効果を最大限に得る」という観点では、“入浴の順番”ということには留意する必要があります。簡単に言えば、温泉に入った後で普通の風呂に入らない、と言う事。風呂に入れればいい方にとってはどうでもいいことですが、せっかくの温泉成分を洗い流してしまうのはもったいない事です。ところで、今回、たまたまかもしれませんが、温泉を使っている露天風呂に入浴する人は少数でした。訪問したのは祝日の午前中で、浴室内は結構賑わっていたものの、この時はサウナの利用がかなり多く、露天風呂は人気薄でした。施設の利用目的は人それぞれですが、島根県内にある日帰り温泉施設の利用とは少し感覚が違うのかな、と思ったところです。
利用料金は、大人750円。最も近傍の類似施設である宇品天然温泉ほの湯も750円、少し離れた塩屋天然温泉ほの湯は800円です。なお、備えつけてあったパンフレットでは大人800円となっていました。近隣施設との競争で値下げしたのかもしれません。なので、価格的には広島地域の相場、というところのようです。ただ、750円と言えばそれなりの値段です。このため、回数券や併設するお食事処とのセット券、無料送迎バスの運行など、様々な工夫がされているようでした。
施設内は、高級な庭園の雰囲気に上手く溶け込ませた落ち着いた仕上がりです。広々としたロビーも風呂上がりにゆっくりできる雰囲気を醸し出します。そして、併設するお食事処では、半べえ庭園の美しい庭園の一部を観賞しながら食事を楽しむ事が出来ます。これもこの施設の楽しみの一つではないでしょうか。しかし、この庭園も十分美しいのですが、これはごく一部で、半べえ庭園の本体は別にあります。興味をお持ちの方は、温泉だけでなく、ぜひ庭園も見て、散策して頂きたいと思います。なお、庭園だけ見学は400円という設定です。特に季節の良い時期であれば、一見の価値はあろうかと思います。