今回は、私の通っている松江市の美容室Rendez-Vous(ランデブ)の話です。
美容室ランデブは、先日10周年を迎え、記念イベントが開催されました。私は、島根にUターンしてから約3年通っており、ずっとオーナーである多久和崇士さんにお願いしています。私が通い始めた時にはすでに多くのお客様を持つ、松江市内でも知名度の高い美容室の一つでした。「松江のカリスマ美容師がいる」と聞いて興味を持って行ってみたのがきっかけですが、技術や提案力もさることながら、訪れるたびに、多久和さんの仕事に対する熱意、姿勢に刺激と気付きを頂いています。
現在、松江市内で2店舗を経営。26名のスタッフを擁する美容室に成長しています。事業を創業し、ここまでたどり着くためには大変なご苦労もあったと思います。今回、10周年記念イベントに招待頂いたのをきっかけに、この美容室、そしてオーナーから得た学びと気づきの一部をまとめさせていただき、これまでのお礼と今後に向けたエールにしたいと思います。
1.地方から発信する~大都市からの情報ばかりじゃつまらない~
私の会社も、ランデブも地方で商売をしています。私の会社は、基本的に地元完結型の商売をしていますし、ランデブも基本的にはそうです。美容室ですから、少なしそのお店の近傍にお客さんが居る。この場合、ビジネスのそのターゲットは地元であり、そこを見ていくのが通常です。
しかし、ランデブは違っていました。多久和さんと話をしていると、地元の業界情勢をほとんど気にしていないことが分かります。もちろんお客さんは地元の方ですが、地元の同業者のことは見ていない。横目に同業他社との比較ばかりしている私とは正反対です。
つまり、たまたま松江で店を開いているが、提供する技術やサービスは全国レベルと比較してどうなのか、ということを追求している。さらには、“東京並みの技術です”というレベルに留まるのではなく、コンセプト、スタイル、情報、など島根から新しいものを発信しようとしている。東京や大阪など大都市からの発信ばかりじゃつまらない。地方から、地方だからこそ、発信していこう。そんなアグレッシブで前向きな、そしてすさまじい闘争心にあふれた事業への取り組み。その姿勢こそ、最も学びたい、学ぶべきところです。
だから、ランデブでは、全国的なコンテスト等への大会へ積極的に参加されています。その目的は、大会に出場すること自体が人を育てるからでしょう。無理せず、ほどほどにやっていく方向性もあるかもしれません。しかし、常に高みを目指し、その歩みを止めない。すさまじい熱意、そしてそれを継続できる動機づけ、ほんとうに素晴らしいとしか言いようがありません。それこそが、このお店の大きな魅力ではないでしょうか。
2.安心して働き続けることのできる美容室を目指す~美容業界の慣習に挑む~
このお店はとにかく新規採用を続けています。それは、地元に雇用を生むということもあるし、人を育てることが未来につながることだと確信されているからにほかなりません。一方でその仕事は過酷です。特に感心するのは、美容室は通常月曜日が休みな訳ですが、その月曜日を使って県外へ研修に出かけると言うのもざら。よくみんな付いていくなと思っていましたが、それは美容師という仕事の特性。みな好きで美容師をしているから、自分を高めるための研修には積極的に参加する。自社の仕事に置き換えて、果たしてそんな風になれるのか、いつも考えさせられます。
しかし、それが仕事の根本の一つ。仕事を好きになるということ。好きだからこそ苦にならない。もちろん、苦しい時もあるでしょう。だけど、続けられるのはその仕事が好きだから。仕事を通じて得られるものに、かけがえのないものがあるから。日頃厳しいかもしれないが、そういう仕事の喜びを見つけてあげるための環境づくりを、妥協を許さず継続する。その姿勢を大いに見習いたいと考えています。
そして、経営的にみると、昨年度、株式会社化を果たされました。大きな決断と、スタッフを大切にするやさしさが見出す一つの結論。私も知らなかったのですが、美容業界というのは多くの場合個人事業主で、社会保険等を事業者側が負担しない(できない)のが当たり前なのだそうです。社会保険料を負担するためには、一般的な一人当たり売上を大きく上回る額を確保しないと事業的に成り立たない。株式会社化は、これに対する挑戦です。
働く者がより安定した環境で、安心して技術やサービスの向上に取り組める環境づくりを行う。言うは易し、ですが、そのためには、より高付加価値のサービスによる高い客単価の維持や、多くの顧客の獲得とリピートの達成など、非常に事業のハードルを高くします。しかし、そうするのだと決めて、それを実現し、さらなる高みを目指すその姿は、経営者としてとても尊敬できるし、今後とも益々頑張ってもらいたいと心から願っています。
3.着実に進化した3年間の軌跡~ワンマン美容室から“Rendez-Vous”ブランドの確立へ
私は、島根にUターンしてから3年と少し、この美容室に通っていますが、この3年間で着実に進化しています。それが「目に見える」というのが素晴らしいと感じています。最もわかりやすいのは、ワンマン美容室からの脱却です。3年前は、まだ多久和さんのワンマン美容室だっと思います。ほとんどが多久和さんのお客さん(今でも多いとは思いますが)で、周りのスタッフはそのお客さんをいかにさばくかに傾注する。
しかし、今では2店舗にそれぞれ数名のスタイリスト(カットを任されるスタッフ)が居て、それぞれに多くのお客さんを持っている。そこに専門性を持ったスタッフが施術の内容に合わせて的確にフォローしていく。10周年イベントでは、たくさんのスタイリストさんたちがステージ上で施術を披露しました。「ああ、こんなにたくさんスタイリストが育ったんだ」と、なにやらうれしい気持ちになったのは不思議なものです。まさに、ワンマン美容室から脱却し、“ランデブ”という美容室のブランドが確立したことを感じさせます。
別の例をあげると、この3年で、待ち時間が劇的に改善した(たまに長い時もありますが)ことからも分かります。平日昼間に行ってもものすごく待たされていたのが、休日に行ってもほどほどになりました。これは、若いスタイリストの台頭によるお客さんの適度な分散と、各種スタッフの成長や仕組みの改善により、施術の流れを効率的に改善し続けた結果だと思います。
また、昨年度2号店として新店舗をオープンしたのは象徴的なことです。高級感あふれるつくりの新店は、より高付加価値のサービスを期待させる、素晴らしいしつらえです。そこをオーナーではなく、新しい店長に任せている。先日、いまや新店の売り上げが本店を上回っているということも聴きました。これは、オーナー自身が過度なプレイングマネージャーからの脱却を図るべく、努力されてきた結果であり、今後はさらに事業の発展、人財の育成等、目指すべき未来に向けた仕事に傾注されていくのでしょう。その将来を大いに楽しみにしたいと感じます。
美容師という仕事は、職人的な技術とサービス業としての接客・コミュニケーション技術の両面に長け、さらには、“美”、“美容”についてお客さまに提案していく、という高度な能力を求められる、難しい仕事です。特に、情報があふれ、趣味や嗜好が多様化する今日では、以前とは比べ物にならないレベルで前述の能力が求められるのだろうと感じます。その難しい仕事に夢と希望を持って立ち向かい、この島根から、新しい美容の世界を発信していく。そういう志に満ちたランデブのみなさんの次の10年、非常に楽しみに感じ、また、明るい未来を描ける若さに溢れた素晴らし職場を羨ましくも思い、イベントを拝見しました。仕事は全く違えど、「私も頑張ろう!」と気持ちを奮い立たせてもらえる、すばらしいひと時を過ごさせて頂きました。多久和さん、これからも頑張って下さい!