島根県中小企業家同友会

第41回青年経営者全国交流会in東京 記念講演~「他人からどう思われても歩きたい夢ですか?」~

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2013年10月12日(木)~13(金)にかけて、第41回青年経営者全国交流会in東京が開催されました。昨年は島根で開催されましたが、今年は東京です。1600名を超える全国各地から集まった青年経営者が、初日は16の分科会に分かれ、経営に関する議論を戦わせました。そして、二日目、記念講演として、(株)マザーハウス 代表取締役兼チーフデザイナー 山口絵理子さんの講演がありました。国際援助機関の援助が途上国の貧困解消に本当に役立つのだろうか、という疑問をきっかけに、8年前、24歳の時に単身バングラディッシュに乗り込み、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という志のもと事業を立ち上げた方です。現在では、バングラディッシュを中心にバッグ等の服飾雑貨のデザイン・生産を行い、日本国内及び台湾で15店舗を展開するまでに成長しています。

講演する㈱マザーハウス 山口絵理子さん

既に様々なメディアでも注目されている有名な方のようですが、私は初めて話を伺いました。その内容はあまりに衝撃的で、初日の分科会での議論の記憶を私の頭から吹き消し、自分は何のために経営しているのか、改めて自らに問いかけざるを得ませんでした。その講演の一部、私にとって特に大きく響いた部分をまとめておきます。なお、かいつまんだ内容なので、マザーハウス及び山口絵里子さんについてある程度の知識がないと理解しにくい部分があるかもしれません。予めお断りしておきます。

1.“できるんじゃないか”という可能性にかけている

バングラディッシュの特産品である「ジュート」。主に麻袋などの粗い布製品に利用されている天然繊維素材ですが、原材料としての活用が中心で、その素材の特性にはあまり注目されていなかったそうです。それを見事に付加価値の高い商品としてブランド化しているのがマザーハウス。講演を聴く前の予備知識では、その素材への着目が事業のポイントのように思っていましたが、本質はそんな小さな(いや、大事なのですが)ことではありませんでした。

バングラディッシュには、この特産品であるジュート工場が多数あるそうなのですが、その工場で働くバングラディッシュの労働者は一日1ドル以下の賃金でひたすらその麻袋をつくり続けるそうです。日本など先進国とは全く異なる世界。その光景を目の当たりにした山口さんが感じた疑問。それは、「彼ら・彼女らは、本当に1ドル以下の製品しかつくれないのか?」というものです。もしかしたら、その製品を買っているバイヤー、そしていわゆる先進国側にいる我々がそう決めつけているのではないか。マザーハウスは、その疑問を見事に証明している訳です。

国際機関が途上国へ援助をおこなう根底には、途上国は「かわいそう」だからという発想が根底にあります。工場で大量生産の安い原材料をつくることしかできない人たち、と見下している訳です。山口さんは、「かわいそう」だからではない、「かっこいい、かわいい商品を!」と話されます。この、「決めつけ」「思いこみ」、私たちを取り巻く生活の中でもいくらでもある話です。会社を経営する中でもそうです。あの人はああいう人だ、という決めつけ、思いこみ。「人間には無限の可能性がある!」といった類の話を聴いて分かったような気になるが、またすぐその思い込みと決めつけの世界に戻っていく。それが私・自分自身なのではないかという気になります。“どうせ地方の会社だからこのぐらい”、ではなく、全国で、世界で通用する会社にする!、そう想えないのか、という話です。

といっても、この「可能性にかける」という選択。言葉で言うのは簡単ですが、やり遂げるためには凄まじい想いと熱意、我慢強さ、行動力、希望、人が極限状態を生きる上でのありとあらゆるものが求められるように感じます。私自身も、このブログなどで言葉には書いても実際にはどうなのか。その一部でも、山口さんに匹敵する強い想いを持ったことがあるのか。理屈の前に想いありき。そのことを、自分自身で感じられるようになった時、私自身も経営者としてもう一つ上のステージに進めるのではないか、そんな気持ちにさせて頂くお話でした。

2.「他人と比べてどうか」ということではない

山口さんは、現在の事業に取り組まれたきっかけを、「ただ、やってみたいと思ったから」と話されます。そして、他人と比べてどうかということではない。主観だと。

主観とは、その人一人の考え。だから、一般的感覚からみて普通じゃない(普通、24歳の日本人女性が一人でバングラディッシュにいってバッグを作ろうとは思いません。)と感じる山口さんの行動を理由づけしようとしても意味は無い、ということです。そして、人並みであったり、人と同じであることを求める感覚、特に、「人からどう思われるか」を気にして生きることに対する痛切なメッセージと受け取れます。

もちろん、主観だからといって、何をしてもいい訳ではない。その行動のベースには、善きことであり、正しいことが求められるのはいうまでもありません。山口さんは、それらをベースとした率直な疑問を持ち、行動に移した。途上国への援助が貧困解消に役立っていないのではないかという疑問。途上国の労働者が本当に単純労働しかできないのかという疑問。その疑問を解消するための行動は、行動した後に世間からみれば善きことであり、正しいことだった。だから今、世の中から称賛され、注目されている。ただ、それをやる前には、誰一人賛成しなかった。それでも決断できたのは、主観だから。

そして取り組みはじめてからも、とにかくケンカの毎日だったと話されます。取引先、提携工場の工場長、自社工場のスタッフ、関わり合うすべての人たちと意見を戦わせて来られたとのこと。人との摩擦、意見の対立を恐れず、理解し合おうと試みること。私にとても欠けている部分です。分かってはいるけど、改善できない。それが出来ないのは、やはり“他人にどう思われるか”を気にしているから。そして、なぜそうなのかと言えば、後述する「他人になんと思われても歩きたい夢」を持っていないから。その“想い”の欠落。これは創業者には理解しにくい、後継経営者に特有の課題だと思っていますが、私自身がそこをどう変えていくかが求められると、改めて認識する機会となりました。

3.他人からどう思われても歩きたい夢ですか?

講演の後、感銘を受けたたくさんの参加者が質問に立ちました。私は最初、講演の内容に圧倒され過ぎ、また自分自身とのあまりのかい離に、しばらく頭の整理がつきませんでした。最後になって聴いてみたいことの整理がつきましたが、残念ながら時間切れ。しかし、いつか機会があれば伺ってみたいその質問、それは「強い想いを持った創業者である山口さんは、後継経営者に対してどんなことを思われますか?」というものです。

今回の1600名の参加者。おそらく半分は後継経営者です。私もそうですが、後継経営者は何らかの“事情”で経営者になっている。“社長の息子だから”的なことがその代表例です。そして、多くの後継者は、最初は事情で後を継いだとしても、何かのタイミングで自分がその仕事を継承する意味、意義を自ら見出し、自らの使命を掲げ、真摯に経営に取り組んでいらっしゃいます。しかし、それは自分が本当にやりたかったことなのか。山口さんのように、本当に自分のやりたいことを見つけ、それを自らの使命と捉え、信じられないような困難に立ち向かい、邁進する経営者の姿を見せつけられると、その姿はとても眩しく見える一方、自分自身の生き方が一体どうのなのか、自問自答せずにはいられません。

山口さんは、「あなたの夢は、他人からどう思われても歩きたい夢ですか?」と語られます。この質問に対し、私には「そうです」と即答できるものがありません。会社の将来像、目指すべき姿はあります。私が考え、描いたものです。しかし、それは、後継経営者として、これまで当社の先輩方が培ってきた技術、ノウハウ、などの経営資源をベースに、今後、このような姿を目指せば将来が見通せる、社員も共感できる、という観点で描き出した姿に過ぎません。もちろん間違いではないし、それを目指すことが当社と当社の社員のためになると確信しています。しかし、やはり手順に沿ってつくった将来像、といった性質を持つことに変わりはありません。そうではなく、私自身が本当にこれをやりたい!と、なりふり構わず邁進できる夢なのかと問われると、即答できない訳です。

私にとっての「他人からどう思われても歩きたい夢」。山口さんに聴くまでもなく、その答えは自分で見つけるしかありません。そして今の事業・会社の延長線上になければならない。その答えが見つかった時、私自身が本当に大きく変わり、飛躍できるはずです。そのことを意識しながら、これからも試行錯誤し、追い求めていきたいと考えています。

衝動買い(笑)したバック(奥さんへのおみやげです)

今回の東京青全交、会場は新宿の京王プラザホテルだったのですが、そこからほど近い小田急百貨店新宿店の2Fにマザーハウスの店舗があります。講演終了後、多くの参加者がこのお店を訪れ、売上に貢献したようですが、私も多分にもれず立ち寄り、記念講演の学びを実践、いや、衝動買いしてきました(笑)。しかし、私の記憶に残るのは、商品もさることながら、その売場で働くスタッフのみなさんの笑顔、自然な接客、そして自信を持って商品を勧める姿です。自信というよりは、商品の品質を信頼している、といった方が正しいかもしれません。海を隔てたバングラディッシュの工場と日本のお店がつながっている。製造から販売までが一つのチームとなり、お客さまに対して満足を届ける。そんな心地よい印象を受けてお店を後にしました。一つのチーム、それはどんな事業でも同じ。職種・職場は全く違えど、お互いがお互いを信頼する関係の中でお客さまと接していく。私もそのようなチームをつくり上げたいと感じさせて頂ける素晴らしい体験でした。

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