協和地建コンサルタントでは、「地中熱」の地域活用に取り組んでいます。今回は、『雪のバリアフリー』対策として、地中熱を活用した融雪装置の必要性について簡単に紹介します。地中熱を利用した融雪装置は、積雪の多い地域を中心に様々な方式が開発され、実際に運用されています。その基本は、地中の熱を道路や駐車場等の路盤の下まで運び、その熱で雪を溶かし、着雪や凍結を防ぐというものです。地中熱による道路融雪設備は、島根県内では、国道261号の広島県との県境部に1km弱整備されています。鳥取県はもっと進んでいて、代表的なものとして大山へ至る道路に2km以上の融雪設備が整備されています。こういった設備が今後もっと必要になってくると考えています。
1.『雪のバリアフリー』対策の必要性~平常時のバリアフリーは進んだが~
ここで掲げる「雪のバリアフリー」とは、積雪によって道路や歩道、あるいは駐車場等への出入りに支障をきたす状況の解消を指しています。言い換えれば、除雪体制等の維持確保策とも言えます。当社が主に事業を営む山陰エリアは、中国山地沿いを中心に冬季には積雪により道路交通上の支障が発生することがあります。また、積雪だけでなく凍結によるスリップ事故など、安全面での懸念もあります。こういった事象に対応するため、国、県、市町村などにより除雪体制が構築されており、積雪になれば早朝より遅くまで地域建設会社の方々が除雪作業に従事され、交通環境の維持に尽力されています。
一方、島根県内においては継続した道路整備の成果により道路の改良が進み、より安全で走行性の高い道路の整備によって通行困難箇所が解消され、また、市街地等では歩道の整備による歩行者の安全確保や段差の解消など、さまざまなバリアフリーが実現しつつあります。しかし、こと「雪」に関しては、まだまだバリア“フリー”とはいかない状況がある、というのが問題意識です。前述のとおり、除雪体制によって基本的にはしっかりとした対応が図られていますが、それでも除雪には物理的な限界もあり、除雪基地から遠方箇所、トンネル出入口、交差点・歩道、など、除雪の難しい場所も多々あります。こういった箇所は除雪だけで対応するのではなく、消融雪装置による対応もあわせて、トータルの「雪のバリアフリー」を実現させるべきではないかと考えています。
2.除雪オペレータの高齢化・業者廃業と除雪ニーズの増加
冬季の積雪時には、除雪が行われます。除雪は各地域の建設会社が受託するのが一般的ですが、この除雪を行うオペレータの高齢化が進んでいます。加えて、建設業そのものの廃業もあったりして、除雪体制を維持していくのは年々難しくなっていくことが予想されます。行政サイドも、除雪用の車両を購入して貸与したり、オペレータの講習会を開催したりするなど、建設会社の負担を軽くしながら、除雪体制を維持できるよう努力されています。その一方で、前述のとおり、市街地内や学校、病院、福祉施設など雪のバリアフリー対策を必要とする施設はたくさんありますし、なにより、毎年道路は少しずつ改良が進み、かつその区間は要除雪区間となりますので、除雪が必要な道路総延長は毎年増えて行くと考えられます。
また、地域の除雪を担っている建設会社が雇用している除雪オペレータは、その専従職員とした雇用されている訳ではありません。冬季については除雪作業に従事することもありますが、それ以外の季節には一般の建設会社社員として各現場での工事等に従事します。除雪の仕事だけで1人の社員が雇用できるものではありません。かつては、県内各地において様々な建設事業が多く存在し、その中で冬場の除雪にも対応する社員を雇用していくことが十分可能でした。しかし、現在、地域の建設事業は減少の一途をたどり、除雪の必要性は認識するものの、その体制を維持するめに必要な雇用を確保することが難しくなりつつあります。そう考えて行くと、近い将来、島根県内における除雪体制が維持できなくなる可能性があるのではないか、という懸念があります。
大きな課題であり一朝一夕には解決できませんが、その一端を担うのが消融雪設備の整備ではないかと考えている訳です。道路融雪設備の施工にあたっては、地元建設会社が担う土木的な領域が多々あります。そこは減少している夏場の仕事を一部でも補完することにつながります。そういう地域経済トータルの視点も必要だと考えています。
3.地中熱による融雪装置の有効性~無散水式による環境にも優しい融雪~
道路の積雪等を除去する設備は、島根県内においても積雪の多い地域において以前から導入が進められています。多くみられるのは、いわゆる「散水式」の消雪設備です。地下水や河川水等を利用して道路に散水するものです。積雪時には各地の交通改善に役立っていますが、散水された水が近隣地域へ影響を与えたり、自動車による水跳ね等による苦情が寄せられたりします。また散水口の詰まりなどによる機能低下などのデメリットもあります。
その一方、「無散水式」と呼ばれる融雪装置は、古くは電気を熱源とする伝熱ヒーターなどが用いられてきましたが、現在は、地中熱を活用するタイプが普及してきています。地中に熱交換用の井戸を掘削してパイプを通し、水を循環させることで地中の熱を舗装の下の放熱管へと運び、融雪又は凍結防止を行うものです。散水式に比べて地下水などの水資源を無駄に使うこともなく、また、飛散した散水による影響もないため、環境にも優しい融雪装置と言うことができます。
この設備は、道路だけでなく、駐車場でも活用することが期待されます。国道54号では本線脇のチェーン脱着場に地中熱による融雪設備が整備されています。道路の雪が溶けているだけでなく、停車して作業をするためのスペースも確保されることは重要です。いずれも温度センサーによる自動運転が可能であり、維持管理・メンテナンス性に優れた道路設備と言えます。
こういった融雪設備が必要な場所は一般に中山間地域です。中山間地域は、今後人口が減る一方であり、新たな社会資本を整備してもそれだけの価値があるのか、という議論があり、私もそのように感じていた時もありました。しかし、先日、島根県中山間地域研究センターの藤山浩研究統括監の講演を聴き、考えが一変しました。島根県内の中山間地域には人口が増えているところがあります。また、総人口は減っていても若い女性と子どもの数が増えている地区はかなりの数になります。島根では中山間地域への定住が進みつつあります。だからこそ、これからのインフラ整備は、今まで以上に地域の生活に寄り添ったものでなければなりません。その一つとして、積雪地域における「雪のバリアフリー」対策。今後進めていくべき施策だと強く感じています。