島根県中小企業家同友会

島根同友会 第40回青年経営者全国交流会in島根~中小企業の事業継承とは?本質はやはり経営指針~

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2012年10月4日(木)~5(金)、第40回青年経営者全国交流会in島根(以下、「島根青全交」といいます。)が開催されました。全国から、実に985名の青年経営者が島根・松江に集い、11の分科会に分かれて経営について学びました。私は、実行委員の一人として運営に携わる一方、一参加者として第8分科会に参加しました。テーマは「後継者問題」。宮城県の㈱伸電 取締役会長 原田 誠氏、代表取締役 佐藤弘樹氏、創業者と後継者、お二方の報告の後、グループ討議を行いました。なお、原田会長は島根県益田市出身、宮城県で㈱伸電を創業、電気設備工事などを中心に事業を営まれています。佐藤社長は、原田会長とは血縁関係に無い後継者で、会社を引き継いでから5年目となります。

中小企業の事業継承において、一口に後継者社長と言っても親族が引き継ぐのと他人が引き継ぐのとでは、全く状況が異なります。私は身内から引きついた後継者ですし、当社の経営状態からして他人に事業継承するということは想像しにくい状況でした。今回の報告を通じ、『後継者≒息子』という私が抱いていた固定概念を改めるとともに、中小企業の経営課題の解決は行きつくところ、この「事業継承」に大きく係わるし、その根底には「経営指針」がある事を学びました。報告、そしてグループ討議を通じて感じた、私なりの気づきを整理しておきます。

報告する㈱伸電 原田取締役会長

1.他人にも継がせることが出来る会社を経営指針でつくり上げる

この分科会のテーマは後継者問題でしたが、中小企業の後継者問題とは、端的に見て「他人にも継がせることが出来る会社か否か」ということが大きな着目点になると感じました。中小企業ですから、オーナー会社であれば息子や身内が継いでもいいでしょう。しかし、“仕方なく息子が継ぐ”、ということでない方がいい。他人でも引き継げるが、たまたま息子が引き継いだ。そういう会社をどう作っていくのか、ということです。

財務的に見れば、高い自己資本比率を有し安定性が高いこと。無借金又は実質無借金会社であれば言うことがないでしょう。しかし、それは一面であって、本質的なところとしては、事業に発展性があり将来が見通せる会社、経営理念に根差す共通の目的意識に溢れたいきいきとした職場、といったものが実現された上でこそ、事業継承も意味あるものになると実感しています。

当社も、(今でもそうですが)私が継承した当時は、身内でなければ引き継いてくれる人はいませんでした。それは特に財務的に事情が大きく影響しています。それを他人でも引き継げるようにしていく。もちろん、他人に事業継承するためには、株式の譲渡問題など、会社を安定的に継続させるためにクリアしなければならない実務的な課題があります。しかし、それはあくまでも実務的な話であって本質ではない、というのが今回の学びの一つです。

原田会長は、今回の報告の中で、「人生はマラソンと言われるが、事業継承は駅伝。何をタスキにするのかと言えば、それは経営指針だ。」とおっしゃいました。この言葉を聴いたとき、2月に開催された、あいち青年同友会合同例会にて報告されたスギ製菓の杉浦代表取締役が「事業継承は経営指針があるか心配いらない」と、全く同じことを述べられたのを思い出しました。スギ製菓の後継者は息子さんでしたが、息子でも他人でも、事業の継承に経営指針が大きな役割を果たす、ということは共通するのだということを再認識したところです。経営指針を引き継ぐとはどういうことか。それは経営指針に基づいた経営の実践と継続、経営層そして職員への浸透、そしてそれに基づいた事業の維持発展、ということだと理解しています。

2.「新執行部」設置から15年を経て新社長が誕生

原田会長は、元々、会社を世襲制にしない、という方針をお持ちだったようですが、ご自身が社長で45歳の時、その頃まだ25歳前後であった会社の若手職員3名を「新執行部」と位置付け、彼らから会社の運営に対する新しい提案を求め、実際に会社の事業運営に取り入れて行かれたそうです。その3名のうちのひとりが、現在の佐藤社長。新執行部設置からおよそ15年を経て、社長の身内では無い、新しい後継社長が誕生した訳です。

新執行部設置から実に15年。その間に、育成の問題やお金の問題、株式の継承等、事業継承に関する様々な問題を一つ一つクリアされたということです。本当の事業継承とは、そのぐらいのスパンで考えていかねばならない。だから、継承したばかりの経営者であっても、“次はまだ先”とは考えず、その時々でやるべきことは手掛け始めておくことが大事だと感じます。しかし、そのように準備されてきた㈱伸電でも、佐藤社長が後継者として会社かじ取りを任され始めた頃、一時的に大量の退職者が出るという事態に見舞われたそうです。

佐藤社長は、その時のことを、「後継者となり自分自身が変化していった。そのことによって、今まで仲間と思っていた人がそうではなくなってきた。」と述べられました。一社員の立場から経営者となれば、変わらざるを得ない部分があります。しかし、今まで同じ社員で仲間であった者からみれば、“あいつは変わってしまった”という評価になり、離れていってしまう。経営者と社員の距離が近い中小企業だからこそ、より顕在化する課題ではないでしょうか。それだけ、事業継承とは難しく、様々な課題をはらんでいるということを実感し、先の事のように考えていてはならないと、強く感じたところです。

3.事業が伸びるから事業が継承できる~新卒者の今後40年を受け止める覚悟~

グループ討議を経た後、事業継承に関する私なりの気づきとして、「事業を伸ばすから事業継承が可能になる」ということがあります。ここで言う、“事業を伸ばす”というのは、単に売上・利益ということだけでなく、事業領域や雇用、従業員数と言ったことも含めて、会社が将来にわたって維持・発展する状況が続いている、という意味合いです。

私には息子が1人いますが、遅い年齢で生まれた子供なので、年齢的にみて私の後を直接息子が継ぐのは難しいと考えています。もちろん、子供が将来会社を継ぎたいと思うかどうかも分かりません。いずれにしても、私の次の社長は、身内以外の者になる可能性が高いと考えています。そう考えた時に何をするのか、どう準備していくのか、考えていかねばなりません。そして、後継者の育成は一朝一夕にはいきません。後継者と目した人材が必ず成長するとも限らないでしょう。なにより、これから新しい人材採用し、活躍の場を創出し、事業を伸ばして行くからこそ、人が育つ。そこで初めて事業継承できる環境が整ってきます。苦しくても、採用を続けていくと決めること。まずそこからではないかと考えています。

今回報告をされた㈱伸電は、社員数18名の会社ですが、来年度新卒採用の内定を3名出しているそうです。震災復興需要でかなりの仕事量が見込めるという背景はあるようですが、それよりも現在の就職難で優秀な人材の応募がたくさんある、ということが大きいようです。新卒採用は一時的な要員確保ではありません。復興需要があるとは言え、今後事業を伸ばしていく前提で、新卒者が今後およそ40年働くことになるであろう会社を守っていく覚悟で採用される。その覚悟が会社を伸ばし、結果的にその次の事業継承につながっていく。こうして会社は維持・発展していくのだと、おぼろげながら私自身も腑に落ちてきたところです。

報告する㈱伸電 佐藤代表取締役

最後に佐藤社長から「後継者の息子は親に反発するもの。しかし、ちっぽけな自分のプライドで社員の将来を危うくしないようにしなければならない。」というメッセージがあり、記憶に残っています。私自身への戒めも込めて、心に刻みたいと思います。佐藤社長は息子ではない後継社長であり、同友会の中で他の後継者をみてそのように感じられたのでしょう。私自身は、事業継承したばかりなので次の継承はまだまだ先のことと考えていました。今回の学びを通じて、それではいけないと気づかせて頂く一方、事業継承を株式の委譲等に代表されるテクニック的な側面だけにとらわれず、経営指針に基づいて事業全体を伸ばしていく中で築きあげていくことが本質だと理解しています。当社は昨年度経営指針を策定したばかりです。その経営指針に基づいて事業をしっかり継続していく中で、次の事業継承の姿も見えてくると信じ、経営に邁進したいと決意させて頂きました。

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