2014年10月25日(土)~26(日)、島根同友会の第15期経営指針成文化セミナーが開催されました。現在、2015年2月の成果発表会に向けてフォローアップを開催中です。島根同友会の経営指針成文化セミナーでは、受講生(今回は6名)1人に対して、2名のアドバイザーを付け、経営指針取りまとめまでの約半年間フォローアップをしていきます。フォローアップとは、経営指針を構成する、経営理念、経営方針、経営計画のそれぞれの具体的な内容について、助言・意見交換しながら一緒に指針を創り上げていくという役割で、この経営指針策定にあたり、このアドバイザーの果たす役割には大きなものがあります。今回、私も2名の受講生の方からアドバイザーの指名を頂き、フォローアップに取り組んでいます。アドバイザーもまた大いに勉強させて頂く機会になります。その気付きについてまとめてみます。
1.自分のことは分らない
私もそうですが、自分で自分のことは中々分りません。他人から教えてもらうからこそ分ります。
これは経営者を務める人も多かれ少なかれ同様(突き抜けてスゴイ方は別でしょうが)ではないでしょうか。だからこそ、このセミナーで“アドバイザー”を付ける意味があります。「自分」を「自社」と置き換えても同様です。自社のことは自社では分らないことがあります。外から見て頂くことで初めて認識できることがあります。だから、同友会の取り組みでも自社の状況を包み隠さず外部に示し、そこから多くの助言や指摘を得る。同友会でよく指摘される「自分の立ち位置を知る」とは、そういうことでしょう。
私もアドバイザーを引き受ける以上は、担当した受講生の方が素晴らしい経営指針を策定し、経営を飛躍させてもらいたいと考えています。だから、自分のことは棚に上げてでも、率直に指摘させてもらっています。物言いがきつい時もあるので、気分を害されたこともあるかもしれません。しかし、アドバイスを聴き入れて下さる方々について感じるのは、自社のことをいい面も悪い面も他人に示し、それに対する意見を受け入れて下さる、という懐の深さです。言いかえれば、セミナーを受講する方は、それだけ必要に迫られている、それだけ何かを求めている、ということでしょう。その想いに少しでも応えていけるよう、サポートしていきたいと考えています。
そしてそういう経験をしながら自分を振り返った時、最近、他人の意見を聴くということが少なくなっているのではないか、と反省します。私も自分のことは分かりません。ある時期、様々な方に助言を頂いていましたが、最近は少し自分で出来るような気持ちになって、おろそかになっているように感じます。そういった自分自身に置き換え、見つめ直す機会を頂けるのも、この経営指針のアドバイザーを引き受けるメリットではないかと考えています。
2. 隣の芝生は青く見える
経営指針成文化セミナーを受講される方は、他社のこと、あるいは他社の経営者のことを羨ましく感じている場合があります。
他社はあんなに素晴らしいのにどうして当社はこうなんだろう、あの経営者は素晴らしい。なのに自分はどうしてダメなんだろう、というやつです。もちろん全員ではありませんが、経営者も一人の人間。隣の芝生が青く見えるのはむしろ当たり前。私も常にそういう気持ちとの戦いです。だから、経営指針のアドバイザーを務める際には、受講生のみなさんが“隣の芝生は青く見える”状況に陥っていないか気にかけ、もしそうであれば、そこから抜けだすことのサポートに注力します。
なぜ、隣の芝が青く見えるのかと言えば、それは、自社の経営が思うようにいかないからであり、今まで自分がしてきたことや、現在の自分に自信を失いかけている、ということだと思います。しかし、経営者に自信を失っている時間はありません。人をうらやむ時間があれば、自分の芝生の手入れに精を出すべきです。私も自分自身にも常に言い聞かせています。
もうひとつは、青い芝生という表面の現象だけを捉えて、その芝生を青くするための努力には目が向いていない、ということがあります。やはり、芝生が青く見える会社は、それだけの努力をされています。その表に出てこない努力がどういったものなのかを知ることこそが必要なことでしょう。また、社歴の長い会社であれば、現在のことだけでなく、先代、先々代からの努力の積み重ねで今がある、という場合もあるでしょう。そういう場合は、過去を比較することにとらわれてしまい、これからどうするのかという視点に目が向きにくくなります。過去は変えられません。自分がどう未来を切り開いていくのか、そこに注力すべきです。
と言った話は、前述のとおり私自身のことは棚に上げた話です。社長を引き継いだ当時の私は、思わしくない業況を悲観して他社を羨ましく想い、業況が思わしくないことを先代のせいにして批判していました。そういう時期を越え、羨望や批判を少しずつ抑制できるようになりはじめてから、様々なことが少しずつよくなってきたと思います。わずかな経験ですが、受講生のみなさんに少しでもお伝えできたらと考えています。
3.結局は社長の想いで決まる
セミナーの最初と最後で大きく変化した経営者の姿がみられるのも、この成文化セミナーの楽しみです。見ている側が大きな刺激を頂けます。
島根同友会に経営指針成文化セミナーは、最初に2日間のセミナーで経営指針の素案を作成し、その後3カ月間のフォローアップでアドバイザーと一緒に内容を精査(1カ月ごとに経過発表)し、最後に成果発表会を開催する、という流れで実施しています。
受講生は、およそ5カ月間をかけてそれぞれの経営指針を策定する訳ですが、その5カ月は、これまでの人生の棚卸しでもあり、今後に向けた決意を固める期間でもあります。そして大きいのは悲観的、マイナス思考から、前向きな成長志向への変化することによる受講生(経営者)自身の変化です。島根という地域性もあり、この地で事業を営む中小企業の経営は決して良くはありません。受講前の発想は、右肩下がりで当たり前、縮小均衡の市場でどう維持していくのか、といった視点が前提になりがちです。私が経営指針成文化セミナーを受講した際も、そういった心境でした。
しかし、経営指針を策定して経営に取り組む以上、マイナス成長、リストラ、廃業、といった発想はありえません。廃業するつもりなら経営指針など創る必要もありません。だから、どんな明るい未来を描くのか、どうやって維持発展させるのか、を考えることになり、最初のマイナス思考はいつしか影をひそめます。それは、経営者の心の変化そのものであり、経営者自身が明るい未来を想うということであり、前を向く決断をするということです。成文化セミナーの最大の成果はその一点といっても過言ではありません。毎回、セミナー最初の姿と、成果発表会の時の姿、発表を通じて感じる気持ちの強さの違いに驚かされます。
会社の経営は経営者で決まる、と言いますが、それを受講する側も、周りでサポートする側も実感できる機会と言えます。そして、そのサポートにかかわり続けることで、自分自身の気持ちをブレさせず、経営指針に即した経営を継続する勇気をもらうことができるのも、アドバイザーを務めるメリットだと考えています。
第15期の経営指針成文化セミナーはやっと工程の半分が過ぎたところです。フォローアップでは、経営理念にはじまり、経営方針・戦略、経営計画、とより具体的な取り組みに落とし込んできます。そうなると、アドバイザーや会員からの助言、アドバイスもより具体的なものとなり、さらに精度が高まっていきます。島根同友会では、経営指針策定し、経営を伸ばすたくさんの中小企業が島根の地に誕生することが、島根全体の発展につながると考えています。地域全体が活性化することでこそ、地域で事業を営む企業の発展、生活する社員の幸せにつながるはずです。そう信じて、一歩一歩、経営指針策定の取り組みを続けていきたいと考えています。