島根経営品質研究会では、会員企業の役職員向けの研修として「H23ワールド・カフェ・シリーズ」を企画しました。その名のとおりですが、“ワールドカフェ”と呼ばれる話し合いの手法を採用し、誰もが気軽に参加出来て、気づきと学びを得られる場を、会員のみなさんに提供することを意図したものです。2011年4月に「DOIT!ワールドカフェin出雲」というセミナーに参加させて頂き、ワールドカフェという手法を初めて体験させて頂きました。それを自社の役職員のみなさんにも体験してもらいたいと考えたのがきっかけです。ワールドカフェという手法については「DOIT!ワールドカフェin出雲」でも整理していますので、参考にご覧下さい。
なお、今回のワールド・カフェ・シリーズは、次のような構成としています。
1.自己紹介
2.テーマに関する事前の討議
3.テーマに沿った講演又はビデオ試聴
4.ワールドカフェ
ア)ワールドカフェ1 テーマに対する討議
イ)ワールドカフェ2 グループを入れ替わって討議
ウ)ワールドカフェ3 元のグループで討議
5.まとめと発表
以下、今回のセミナー立案の経緯、ねらいなどについてまとめてみました。
1.働く者一人ひとりのための気づきと学びの場の必要性
最近、私は、島根経営品質研究会の他、島根県中小企業家同友会をはじめとし、経営者の学びの場、勉強の場にたくさん参加するようになりました。少し多くなりすぎた感もありますが、日々学びと気づきを得られ、少しずつですが当社の経営に落とし込み、生かされてきていると感じています。
しかし一方で、自分ばかりが学ぶだけではなく、自社の役職員のみなさんの学び・気づきも同様に大事なのではないかという気がしてきました。社長(私)が学ぶのはいいのだけれど、それだけだと自分と職場との間に距離ができ、考えていること、目指したいことが、伝わらなくなってきているのではないかという気もします。そこで、自分がいいと思った学びの場に、自社の職員のみなさんも参加してもらい、それぞれの立場での学びや気づきを得てもらえればいいのではないかと考えました。上から目線で“職員を教育する”というスタンスではなく、“一緒に学ぶ”場。そのような、“自社の職員のみなさんの学びの場”をどういう形で生み出し、提供していくのかというのは、中小企業の経営者の課題の一つではないかと考えています。
今回、島根経営品質研究会のみなさんの協力を得て、その課題解決の方法の一つとして、このワールド・カフェ・シリーズ(計4回開催)を具体化することができました。具体化にあたっては、前述の「DOIT!ワールドカフェin出雲」を企画・運営された株式会社ブロックスさんが実際に運営されたやり方を大いに参考にさせて頂きました。また、第2回以降は、ブロックスさんが制作する社員教育ビデオDOIT!シリーズを活用させて頂く予定としています。なお、ブロックスさんでは、同社以外の方がDOIT!シリーズのビデオを使って有料のセミナーを開催することはお断りされているそうなので、申し添えさせて頂きます。(このため今回のセミナーは会員限定で開催し、参加費は徴収していません。)
2.職場の近くで、安く、良質な学びの場を提供
このセミナーを企画する際に考えたのが、「近くて」「安くい」ということです。
企業にとって人材がもっとも大事あることは言うまでも無く、人材育成がその企業の先行きを左右するといっても過言ではないでしょう。しかし、実際の人材育成には「時間」と「お金」がかかります。これを惜しんでいてはおぼつかない訳ですが、中小企業にとってハードルになっていることも事実だと思います。
お金を出せば、いい内容の、学びの深いセミナーもあるでしょう。また、東京や大阪に出向けば、毎日たくさんのセミナー・研修が開催されています。しかし、島根県を中心に日々の仕事に従事する職員のみなさんが、東京や大阪に出向くのは実際問題として大変であるし、旅費も含めた費用面、移動時間などの時間の面でも負担になります。そうであれば、職場の近く(すぐ参加できる)で、安い(旅費があまりかからず、参加費も安い)学びの場があればいいと考えていました。それを概ね実現出来たと思います。ただ、今回のセミナーが低コストなのは、島根経営品質研究会のみなさんが手弁当で準備をして頂いているからですが、そういった手づくりの研修(自分達で出来る内容)であることも、継続的に進めていく上では大事なことだと考えています。
もう一点は「良質な学び」という点です。当たり前のことですが、“いい学び”がなければ企画及び参加する意味がありません。そこで今回(第1回)は、島根経営品質研究会の代表幹事を務めて頂いている、株式会社さんびるの田中正彦社長に講演をお願いしました。島根県内の元気な企業の代表格ともいえる、さんびるさんの取組み事例紹介を交えて、大変気づきの多いお話をして頂きました。このセミナーは、一方通行の座学ではなく、参加者が“あるテーマについて話し合う”ことを目的としていますが、話し合いを良質なものにするためには、漠然とスタートするのではなく、その討議のよい材料となるお話や事例などを事前に提供することが必要だと考えています。毎回、優れた講師の方に来て頂くのも難しいので、次回以降は、前述のビデオを題材にする予定としています。
3.多様な業種、役職の参加者が一緒のテーブルで話し合うことの効果
このワールド・カフェ・シリーズは、計4回開催しますが、それぞれの回でテーマを設定しています。
第1回は、「元気」というキーワード。元気な会社とは?自分自身の元気とは?、というテーマで話し合いをしてもらいました。漠然としたテーマで、とっかかりにくい面もあります。しかし、いずれも“仕事をしていく上で大事なこと”をテーマに据えています。つまり、“本当はしっかり話し合っておきたいことなのに、普段中々話すことができない大きなテーマについて、難しいことは抜きに話し合う、”そんな場にしたいと考えています。
そのためのポイントとして、「多様な業種、役職の参加者が一緒のテーブルで話し合う」ことが大事ではないかと考えています。日頃から大きなテーマについて話をする習慣のある組織なら別ですが、一般には、例えば「元気な会社とは?」といったテーマについて、日頃から社内で話し合っている会社は少ないでしょう。少なくとも当社にはそういった場はありません。毎日顔を合わせる仲間で、急にあらたまった話をしにくい面もあるでしょう。だから、そのハードルを下げるために、お互いに面識のない、様々な業種、役職の方々を一堂に集め、先入観なく話をしてもらう。今回も、その効果は出ていたと思います。
もう一つ、グループの中に、前向きな取り組みによって生き生きと働いている会社の従業員の方が居ること。これがとても大事なことだと考えています。いかに多様な業種の方を集めても、全員が後ろ向きのマインドでは愚痴の言い合いになりかねません。前向きな話をしてこそ意味があります。そのためのグループ討議のけん引役がいる訳です。このセミナーでは、講演をお願いした田中正彦社長率いる「株式会社さんびる」のみなさんにその役を担ってもらっています。なお、そのようにお願いしている訳ではなく、私の目論見として、勝手にそう位置付けているだけです。しかし、後日、参加した当社の職員に感想を聴くと、さんびるの職員のみなさんの前向きさ、社内での様々な取り組みに驚き、衝撃を受けたようです。結果、「社長(私)が言ってること、やろうとしていることが少し分かった」という嬉しい感想を聴くことができました。
ワールド・カフェ・シリーズ、島根経営品質研究会が主催したセミナーとしては初めてのスタイルでしたが、初回としてはまずまずの出来だったと思います。あと3回、運営面で改善すべきところは改善しながら、良質な学びと気づきの場として定着させたいと考えています。また、こういったスタイルの学びの場を、来年度からは当社内でも実施できるようにしたいと考えています。今回、そのための私自身の勉強も兼ねて準備役を担当させて頂きました。一受講者として参加するのとは違った気づきや学びがありました。誰もが参加出来る、近くて、安い、良質な学びの場、その実現に向けて継続して取り組んでいきたいと考えています。