私はさほど風呂好き・温泉好きではありませんが、温泉開発を行う会社の社長として、温泉に詳しくなければ説得力がありません。そこで、仕事や私用で出かけた先で温泉を巡り、少しずつ記事にしていくことにしました。温泉ソムリエらしいコメントにも配慮したいと思います。
2013年の最初、温泉めぐり51箇所目は、島根県出雲市佐田町市の「出雲須佐温泉 ゆかり館」です。出雲須佐温泉 ゆかり館は、出雲国風土記にも名前が出てくる歴史ある神社、須佐神社に隣接する温泉施設です。須佐神社は、一時、マスコミで強力なパワースポットとして大きく取り上げられ全国的に知名度を上げたことでも知られます。その隣接地にある「ゆかり館」は、温泉を中心に、お食事、宿泊、宴会・披露宴などに対応する、地域の大型拠点施設として活用されています。訪問日は、2013年1月3日です。
出雲須佐温泉の泉質は、ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉です。成分分析表によると、成分総計6.478g/kgと中々の含有成分量を誇り、泉温41.0℃、湧出量は毎分200㍑に達するなど、源泉のポテンシャルは中々のものです。ただし、豊富な湯量を誇ってはいますが、かけ流し式ではなく循環式が採用されています。成分的にみると、硫酸イオンの含有量が特に多いのが特徴です。硫酸塩泉は、一言で表現すると「傷の湯、脳卒中の湯」と言われ、傷や火傷の治癒効果が高く、血圧の高い人にも効果があるとされています。また、硫酸塩泉は、美肌の湯としても効果があります。ナトリウム-硫酸塩泉は、皮膚に皮膜をつくる“しっとり肌”効果、カルシウム-硫酸塩泉は、肌の弾力の回復や引き締め効果、があるとされます。この温泉は両方の特性を備えていますので、美肌めあての女性の方にとっても魅力的な泉質と言えます。
また、泉質上の特性として珍しいPRが行われていました。それは、「19種類ある温泉法の基準のうち5種類を規定以上に含む全国的にみても大変珍しい温泉です。」と、パンフレットや施設内のチラシ等に記載されています。詳しくは、現地でご確認頂きたいですが、温泉法に基づく珍しい適合成分を含むのは確かで、中々面白い紹介の仕方です。
浴室は、大きなドーナツ型の空間を切り取ったような形状で、男湯と女湯で半分に分けているようなイメージです。室内は、緩やかな曲線で構成された造りで、柔らかい印象を与えます。仕上げは基本的にタイル張りで構成されており、室内は外の明かりをふんだんに取り入れ、とても明るく健康的なイメージもあります。大浴槽のほか、気泡風呂、ジェット風呂、打たせ湯、水風呂、さらにサウナが備わっています。気泡風呂やジェット風呂は、成分が濃い場合は水道水が使われる場合もありますが、ここではいずれも温泉水が利用されています。露天風呂もありますが、やや狭目で周囲を囲まれており、開放感という意味ではやや低めだったのが残念でした。また、浴槽内のタイルが剥がれ、補修されているところがかなり目立ちました。施設自体にさほど古さを感じないので少し意外でした。
洗い場は12箇所、仕切りは無いタイプで間隔はやや狭めです。ボディソープとリンスインシャンプーが備えてありました。脱衣場のロッカーは60個弱、鍵がないタイプで棚に籠が置いてあり、そこに衣服を入れる形式です。このため、温泉入口のロビーにある貴重品入れを活用するように説明されます。なお、女湯の脱衣場には鍵付きのロッカーがあるらしく、籠式のロッカーは男湯だけとのことでした。男湯も早く鍵付きロッカーになるといいかと思います。洗面は4箇所でドライヤーも4つ備わっています。ただ、やや席の間隔が狭く、4人一度にならぶとすこし窮屈な印象でした。脱衣場には冷水器が備えてあり、入浴前後の水分補給ができるようになっており、いいと思います。
利用料は大人500円。出雲市内の公的な日帰り温泉施設の利用料は500円となっているところが多いので、相場的な価格と言えます。建築的には、川辺の地形を上手く利用した造りが特徴的で、ボリューム感ある建物とする一方、大きな中庭には水が張られ高級感を醸し出しています。地域の中核施設としての風格を備えています。
今回訪れたのは、お正月の1月3日の昼時でした。駐車場は、隣接する須佐神社と共用するような形になっており、初詣に来られた多くの参拝者でにぎわっていました。施設に入ると、お食事処が人で溢れ、そして宴会場がかなりの賑わいが漏れ聞こえてきました。地域の交流施設として、年末年始の宴会利用でも活用されているようです。初詣の前後でひと風呂浴びる、という方も多かったようで、お風呂場も中々の賑わいを見せていました。パワースポットとして一躍全国区となった須佐神社への訪問とセットでの入浴がお勧めの温泉と言えます。