私はさほど風呂好き・温泉好きではありませんが、温泉開発を行う会社の社長として、温泉に詳しくなければ説得力がありません。そこで、仕事や私用で出かけた先で温泉を巡り、少しずつ記事にしていくことにしました。温泉ソムリエらしいコメントにも配慮したいと思います。
66箇所目は、島根県雲南市掛合町の塩ヶ平温泉です。訪問日は、2014年7月2日です。
塩ヶ平温泉は、島根県雲南市の国道54号沿いにある温泉施設で、地域のコミュニティーセンターとしての色合いを持つ施設です。施設名称は「まめなかセンター」。方言を上手く取り入れたネーミングに思わず癒されます。施設前にある看板には「黄金色の湯」と掲げられており、このエリアにいくつかみられる濁り湯の温泉であることが伺われます。入口を入ると、「居ながらにして、日本の名湯 熱海温泉、片山津温泉と同じ浴用効果が楽しめる塩ヶ平温泉」というタイトルの説明書きがありました。詳しい成分的な検証はともかく、それだけ成分的に特徴のある温泉としてアピールされているようです。
塩ヶ平温泉の泉質は、成分分析表によると、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉で、phは6.3と中性からやや酸性よりです。成分的には、塩素イオン、炭酸水素イオンの含有量が高いのが特徴で、成分総計は6.57g/kgと比較的濃い目の温泉と言えます。口に含むとかなりの塩気が感じられます。また、溶存ガスとして遊離二酸化炭素572mgが含有されているのも特筆すべき点です。“二酸化炭酸泉”は名乗れませんが、源泉かけ流しで供給されていることも相まって、血管拡張作用による血行の促進効果はかなり期待できると思います。さらには、塩化物泉の特性として、塩の“パック”効果で湯ざめしにくいこと、ナトリウム-炭酸水素塩泉の特性として、皮膚の表面を軟化させる作用があり、皮膚病や火傷、切り傷によいとされます。また、皮膚の油脂分泌物を乳化して洗い流すことにより、石鹸のように皮膚が洗浄されることが期待できます。泉質的には多様な効果が期待でき、まさに“地域自慢の名湯”と言って過言ではないと思います。
また、源泉温度は21.2℃と表示があります。この冷鉱泉を源泉かけ流しで供給しているようで、21℃ほどの冷泉を常に加温しながら補給し続けるのは中々大変だろうなと思います。しかし、これだけの泉質、特に遊離二酸化炭素の含有量が多い温泉であり、かけ流しで使ってこそ温泉の意味が出てくるので、この運用が末長く続けられることを願いたいと思います。
湯船はタイル張りと思われるシンプルな造りです。“思われる”と言うのは、浴槽表面は、『黄金の湯』と称されるとおり茶褐色の成分結晶で覆い尽くされており、その下が何で出来ているのか分からないぐらいです。同じ雲南市の加田の湯と同じような状態です。大きさも2メートル四方ほどで、4人も入れば目いっぱいです。浴槽奥にある蛇口から常に源泉が補給されているだけというシンプル運用で好感が持てます。露天風呂もジェットバスもありませんが、泉質だけで入浴の価値がある温泉とは、本来このようなものなのかもしれません。
洗い場は3箇所。仕切りはありませんが比較的間隔は空いています。シャンプー、コンディショナー、ボディソープ、さらに石鹸が備えてあります。ロッカーは、鍵付きのものが6箇所、扉のないスペースが下段に6箇所あります。洗面台は2箇所で、ドライヤーも2つ据え置きがありました。夕刻など、利用者が集中する時間帯には少し狭いかもしれませんが、この浴室の規模感からすれば妥当な数量、スペースだと思います。浴室内同様、シンプルですが、脱衣場内がとても清潔に保たれている印象です。
営業時間は昼の12時から20時までという時間設定です。朝風呂には入れませんが、源泉かけ流しの加温コストもかさむのでしょうから、中山間地の施設ではこういう割り切った時間設定もいいと思います。利用料金は、大人300円。成26年4月からの消費増税でも変更は無いようです。シンプルな施設ですが、この泉質であれば非常にリーズナブルだと思います。この施設は温泉だけでなく、会議室(洋室、和室)、コミュニケーションホール、トレーニング室などの地域コミュニティ施設としての役割を担っています。私が訪問したのは平日の夕刻で、最初はお風呂の利用者は誰もいなくて貸し切りだったのですが、その後、次々と利用者が訪れ、これから賑わいが増しそうな印象でした。
この塩ヶ平温泉、施設の見た目はまるっきり地区の公民館のようになっています。川沿いにあることから、浴室は一段下がった場所にあり、川辺の景観を楽しめるのかと思いきや、窓の外はついたてでした(笑)。一方、浴室同じ並びとなるトレーニング室からの眺めと開放感は中々のものでした。平成25年3月に松江自動車道が開通して以降、並走する国道54号を利用する機会が激減しました。以前は、広島への移動中等にこの塩ヶ平温泉の看板を目にすることもありましたが、最近ではほとんどありません。そんな中、改めて訪れる機会がありましたが、シンプルながら素晴らしい泉質の温泉です。インターネットを検索すると多くのブロガーがこの温泉について綴っています。それだけたくさんの温泉ファンの気持をつかむこの温泉、これを目的地にこの地域を訪れてもいいのではないかというぐらいです。