2013年3月12日(金)、島根県中小企業家同友会 松江支部3月例会が開催されました。この日は、『終わりなきゴールを追い続けて~一度きりの人生、可能性を追求して~』と題して、明石屋株式会社 代表取締役社長 明石雅之さんから報告を頂きました。同社は、島根県松江市宍道町に本社を構え、山陰地域を主対象に食品原料、米穀、包装資材などの卸売を行う会社です。
明石さんは、若干23歳のとき先代(父)の急死により事業継承され、さまざまな苦労を重ねながら、現在は成長志向の経営の元、順調に売り上げを伸ばされています。事業継承から15年をかけて、売上高を約5倍に伸ばすなど、徹底した戦略と強力な営業力で市場を開拓し、成長を続けられています。私にとっては、中小企業家同友会をはじめ、様々な経営の学びの場で一緒になる機会が多い、大先輩の経営者(年は私が上ですが)です。これまでの経緯や社内の取りまとめなど、どのよう考えを持っていらっしゃるのか、興味深く話を聴くことができました。私が特に感じたことを3点整理しておきます。
1.数字を追い求める経営~売上100億円を目指す意味とは~
株式会社明石屋は、「売上目標100億円」を掲げて、成長志向の経営を続けられています。このことについて、明石社長は、社員に“目的と目標”を示したい、と話されます。目的は「社員にとって希望のある、夢のある会社」づくりで、その目標が「100億円企業」という訳です。そして、明石屋がどこに行こうとしているのか(目的と目標)が明確だからこそ、それによってやりたいこと、やらなければならないことが明確になる、とも話されます。目標の立て方は、各社それぞれです。どのような将来像を描くのか、については、到達時点での会社の状態をリアリティある表現で示す会社もあるでしょう。明石屋の場合は端的に数字で表した、ということだと理解しています。
この“100億円”という数字。数字を目標にしているからこそ、数字に厳しく経営できる、という面があると思います。例えば、経営理念を重視した“理念経営”という考え方がありますが、理念を重要視するあまり数字がおろそかになる、という一面もあるかもしれません。売上を確保し、利益が出せるからこそ事業が継続できるし、従業員の生活を守ることができる。明石屋は、成長志向で毎年売上を伸ばし、安定的な利益を確保し、自己資本を着実に積み上げています。それを実現するための生々しい戦略についても話がありました。いずれにしても、そこで勝ち残って得た利益があるからこそ、将来のため、従業員のために投資することができる。それも経営者の答えの一つでしょう。
今回の明石さんの話を聴いて思いだすのは、2011年9月の松江・出雲2支部合同例会での、福岡同友会所属の若竹屋酒造場 林田浩暢さんの報告です。この中で林田さんは、「利益を出せば会社は変わる、人も変わる」という話をされました。利益を追うこと、利益を出すことで、社員の意識が変わってくる、という訳です。どんないい理念を掲げても、利益の出せない会社では社員は安心できません。どんな人格者であっても、給料が払えない社長にどこまで従業員がついていけるでしょうか。“数字を追う”ことに対する徹底した執着。とかく経営理念を重視する同友会的考え方からすると少し異質なので、違和感を持った参加者もいたかもしれません。しかし、実は、やもすれば“経営理念”を言い訳にしそうになる私のような気持ちの弱い経営者に対する叱咤激励である、と私は理解しています。利益、それは数字で示される経営の結果であり、経営者の評価。その重要性を再認識し、その実践を身をもって示すことの力強さを感じる報告でした。
2.お互いが褒め、讃えあえる会社へ~サンクスカードが生み出す感謝の循環~
明石さんは、強力な営業力と仕組みづくりで事業規模を拡大させる一方、「社員の満足度を上げる」という命題に向けて様々な取り組みを積み重ねられています。その背景には、社長就任後、最後まで溝を埋めることができずに社員をリストラしたことへの後悔、経営者どおしの言い争いを社員に諭された経験など、赤裸々に語って頂いた過去の失敗があります。このため、明石さんが自社の経営指針を策定された際には、社員に対するアンケートを実施し、様々な社員の考え方を聴いたそうです。その中で“会社への期待とお願い”という問いかけでは、かなり辛辣な意見がたくさん噴出したそうです。それを、勇気を持って受け止め、できること・出来ないことをきちんと説明していかれたそうです。一つ一つ説明していくことで、心の荒んでいた社員の方も少しずつ変化していったということです。
実は、当社の経営指針策定に際して、明石さんにアドバイザーを務めて頂いています。明石さんからの助言を受け、当社でも同じような社員アンケートを実施しました。その中で、厳しい意見をたくさん頂きました。しかし、そういう意見が出てくることが実はとてもありがたいことな訳です。本当に荒んでいる会社や、社員が諦めている会社だったら、そういう意見が出ること自体がないでしょう。厳しい意見こそ、会社への期待と受け止め、前に進む勇気。それを明石さんから頂いたと考えています。
そして、明石さんが実施された様々な取り組みのうち、これまでで一番効果があったと感じていると言われるのが「サンクスカード」という取組みだそうです。明石屋では、半期に一度、経営指針発表会を開催されます。その際、社員全員が個人目標を発表し、その後、お互いに労いの言葉を綴ったサンクスカードを社員どうしで交換するという取組みを実践されています。これをはじめてから、場が和み、笑顔が増え、一体感が出たと話されました。今後とも、そのような、「お互いが誉め讃えあうことの出来る社風」を目指したいと語られます。社員どうしで示しあう感謝の気持ち。このことは、直接お客さまと接することに少ない職場で働く者にとって、とても大きな励みやモチベーションにつながると思います。当社でもぜひ取り入れていきたい素晴らしい取組み、そしてその実践方法を伺うことができたと考えています。
3. 社長自身が広告塔になって訴えていく~新卒採用にかける情熱~
明石屋は、明石さんの事業継承以降、常に成長してきた会社ということもあり、近年では慢性的な人員不足の状態が続いているそうです。そして、営業担当者が定着しない、さらには中途採用では人が集まりにくい、という状況が続き、現在では中途採用を諦め、新卒採用に切り替えられています。そして、平成24年度、同社初の大学卒の新卒採用(2名)を実施されたそうです。さらに、平成25年4月からは3名の新卒者を迎えるそうです。まさに成長している会社ならではです。
しかし、新卒採用に取り組む過程でもさまざまな試行錯誤があったようです。一番は、島根県松江市に本拠を置く卸売業では中々特徴を出せない、ということ。魅力に感じる会社、夢があるわくわくする会社として就活する学生の目に映らない、という悩みです。確かに、卸売業自体、花形の業種ではありませんし、企業(食品加工業者)向けの事業ですので、一般消費者の目線ではイメージが湧きにくいのが実態でしょう。そこで、明石社長が取り組まれたのが、「自分自身が広告塔となって訴えていく」ということ。就活イベント等では必ず自分が出向いて自分の言葉で語る。明石屋のホームページには、経営理念から各種施策、明石屋の事業意義、100億円の目標など、明石さんの考えていること、実践していることがしっかりと整理されています。
そうやって取り組むうちに、明石さんの考えに共感する学生が徐々に増えてきたそうで、その結果が平成25年4月からの3名の新卒者採用ということでしょう。新入社員が入ることで既存の社員の教育にもつながる、既存の社員が襟を正すきっかけになる、とも話されます。そのことは、私自身も実感します。当社においても平成24年4月、11年ぶりに2名の新卒採用を行いましたが、社内の雰囲気は大きく変わりました。なにより私自身が変化します。今後40年以上も会社生活を送ることになるであろう若い子たちが成長するステージ、将来にわたって活躍できる場づくり、そのための教育、そういったことにしっかりと取り組まねばならないと改めて自覚するきっかけになります。
先日、島根県商工労働部の主催で開催された採用セミナーでも同じような話がありました。成長している会社は社長が採用にかかわっている、のだそうです。まさにその手本が身近にあり、話を聴くことができる。そのことに感謝し、私も実践につなげたいと考えています。
明石さんの最後の言葉が、明石さんの人生、そして仕事に真剣に向き合っていることを如実に示していました。「一度きりの人生、まだまだ満足出来ない。死ぬときに満足できる人生だったと思える人生にしたい。」と断言されます。そして、真剣に企業経営に取り組む中で、自己中心的な思考から徐々に意識が変わってきたとも話されました。私自身も、最初に経営を引き継いだ時は、自分の為に経営していました。しかし明石さんをはじめ、様々な経営者と出会う中で、意識が変わってきました。社員の物心両面の満足度を高めるために全力で奔走される明石さん。その姿に少しでも近づけるよう、自分自身もさらに努力し、また結果を出さなくてはならないと強く感じさせてもらえる、大変意義深い例会となりました。