2014年9月9日(火)、島根県商工労働部雇用政策課が主催する、平成26年度「人財塾」にて、ネッツトヨタ南国㈱の視察研修に参加させて頂く機会を得ました。この塾は、“地域産業の振興を牽引する次世代リーダーの育成”を目的に企画されており、「日本でいちばん大切にしたい会社」著者の坂本光司・法政大大学院教授による講義や優良企業視察等から構成される経営の勉強会です。私も、平成23年度、平成24年度と参加させて頂いており、今回はOBとして平成26年度のカリキュラムに参加させて頂いた形です。今回、ネッツトヨタ南国㈱の横田英毅相談役の講義を受け、“人間性尊重”の意味するところに触れ、大変大きな学びを得ることができました。その一部をまとめておきます。
1.社員の満足と幸せを分けて考える
「満足」と「幸せ」を分けて考えることを提案したい。
今回の横田相談役の講義の中でとても大きな気づきを得た話です。お客様満足(CS)のために従業員満足(ES)を高める、ということが昨今よく話題になります。しかし、これらの最後につく言葉はいずれも“満足”です。そして、満足ではなく、幸せを追求すべき、というのは話の趣旨です。では、満足と幸せの違いとは何なのか。
一般的な傾向として、「満足」とは、追い求めるもの、損得に関係、今・金・自分だけ(利己)、wants、部分最適、目標、量、結果、相対、経済(便利)、見える(数字になりやすい)、際限がない、ということ。これに対して、「幸せ」とは、気づくもの、心の持ち方、利他、needs、全体最適、目的、質、プロセス、絶対、道徳(感謝)、見えにくい、反復でも効果的、といった傾向にあるとされます。
では、仕事に当てはめるとどうなるのか。満足とは、給与、賞与、昇給、昇進、昇格、福利厚生が充実、休みが多い、楽、といったもの。一方、幸せとは、自分の成長が実感できる、自分で考えて仕事ができる、自由に意見が言える、自分の努力が評価される、職場の人間関係、上司関係が良い、コミュニケーション、チームワークがよい、お客様、同僚、ビジネスパートナーから感謝されている、所属している組織を誇りに思う、といったものであり、端的に言えば「やりがい」という言葉に集約されます。だから、仕事においていえば、「幸せ=やりがい」となる。
満足ももちろん重要だが、幸せ(やりがい)を重視している人が、良い仕事をしている人ではないか、と横田相談役は問いかけられる訳です。ネッツトヨタ南国はいうまでもなく、車を売る会社。しかし、車を売るのは目標レベル(満足)の話。では目的は何なのか。それは、社員を成長させること、人間力を高めることだと。お金にならないことに全力投球できる集団であれば、お金を稼ぐことにも全力で働ける。やりがいとは人間の内側からの動機づけ。本来人間とは内側からの動機づけにより行動するもの。しかし、いつの間にか、給料という外側からの動機づけによって動くようになってしまった。それをもう一度、内側からの動機づけに戻していくことが求められているのだと。だから、「幸せ=やりがい」ということに気づかせることが大事、という訳です。しかも、このことは教えてはいけない。気づかないといけない。後述する、「教えない教育」の根本がここにあるのだと考えています。
そう考えると、もう仕事の内容は関係がなくなってきます。会社の目的はその事業によって様々でしょうが、その目的に向って社員の人間力を高めていくというプロセスは全ての企業に共通します。「あれは自動車業界だからできる話だ」とか、「接客業だから出来る話だ」といった捉え方では本質を見誤るし、それは、後述する、「どうしたらいいか考える」ことを経営者が放棄していることだと考えています。
2.どうしたらいいか考える
「教えない教育」を徹底しているのが、ネッツトヨタ南国です。
今回の研修後半で、同社の社員の方との意見交換の時間がありました。その中で「入社して、『本当に教えてくれないんだ』と実感した。」という話を伺いました。もちろん、基礎的な事のレクチャーはあるにしても、とにかく一つ一つ自分で考えることからスタートするのネッツトヨタ南国の教育。今まで私が学んできたことは、まず仕組みを作り、意味が分からなくてもその通りに仕事をさせ、その中で気づかせていく、というスタイルが大半でした。いわゆる「形から入って心に至る」ということですが、ここの話は全く逆です。そのことについて、横田取締役は、仕組みに頼り過ぎる企業は、20年後、30年後、弱い体質の企業になってしまうのではないかとと危惧している、と話されます。仕組みは確かに便利だが、一方で、問題解決力を育まない。仕組みは働く人をロボット化する、それよりも風土が大事、と語られました。
前述の社員の方の話に戻りますが、ある仕事中の疑問点に対して、「先輩はどうされてますか?」と尋ねたところ、「どうしたらいいと思う?」と返されたそうです。直ぐに答えを言わず、考えさせる。驚くべきは、そのやり取りは、1年目の新入社員と4~5年目の先輩社員の間のことだということです。そうやって、自ら考えさせる風土、先輩にそうやって指導されてきたことを、今度は後輩に同じように指導する。先輩から後輩に受け継がれ、ネッツトヨタ南国の風土として定着している訳です。そうやって育った社員集団からなる企業が業績面で強さを発揮するのは当然のことです。
ネッツトヨタ南国にも仕組みはあります。社内見学の際に、来店するお客さまを出迎える際の情報共有の仕組みを紹介してもらいました。通常であれば、「こんな仕組みがあります」と紹介して終わるところ、説明して頂いた社員さんは、「この仕組みは便利だけれども、この仕組みが出来る前の社員と、出来た後に入社した社員との間では本質的な対応力に差がでている。そこをどう埋めていくかが課題になっている。」という趣旨の補足説明をして下さいました。その問題意識の高さに驚くとともに、それが、「どうしたらいいか考える」教育を常に実践したきた結果なのだと実感したところです。
3.経営とは変えること
「経営とは変えること」。経営に対する横田相談役の端的な回答です。
今回、懇親会の席にも横田相談役に参加頂き、講義とは異なる話を伺うことができました。“経営とは変えること”、その意味を、個人に置き換えた例え話で教えて頂きました。「健康になる」という目的のために、毎朝6時に起き、7時に出社し、夕方は18時には帰宅し、21時には寝る、という規則正しい生活を繰り返している人がいるとする。それはそれで健康になるために一定の役には立つが、あるレベル以上にはならない。あるいは自分が年をとるなど、環境が変われば健康を維持できなくなるかもしれない。本当に、その人が健康になることを目的としているならば、その目的の達成に向けて常に何かを変えていかなればならない。例えば、10分早く起きてラジオ体操をする。30分早く起きてウォーキングをする。それこそが目的を達成するためにすべきこと。それはまさに自分自身を経営する、ということ。だが、多くの人は、そういった変化を年に何回起こしているだろうか。ほとんど、変化していないのが実態だと。
これを会社に置き換えても同様。会社の目的に向けて会社を変える、ということが年に何回あるだろうか。ほとんど変化出来ていない会社が大半。もし、社長が、社員が、会社を、自分自身を変える変化を毎日一つずつ起こしていったとしたらどうなるか。会社は永遠に進化し続ける。日々進化し続けているから、そんな会社は改革する必要がない。そして、それはネッツトヨタ南国という会社の姿そのものなのでしょう。そして、そういった変化の連続は、「自ら考える」ことのできる風土のある会社でなければ起こらない。だから、考えさせる教育が大事なのでしょう。
この会社に派手さはありません。見た目にスゴイ技術、革新的なサービス、といったものはありません。しかし、毎日少しずつ進化し続け、結果的に企業は成長し、全社員がやりがいを持って働いている。とてもシンプルだけど衝撃的、かつ端的な指摘です。変化はさまざまな経営の実践を通じて生まれてきます。だから、さまざまな取り組みを実践し続けること、進化させ続けることが継続すれば、きっと会社はよくなると確信させて頂くことができる、素晴らしいお話でした。
ネッツトヨタ南国で実践されてきた人間性尊重の人財育成は、島根経営品質研究会の特別講演会で毎年島根にお招きしている、ビスタワークス研究所の大原光秦さんの講演(H24年度はこちら)でも何回か聴いてきました。そこで学んだことも踏まえて今回の研修に参加できたことで、一層の理解が深まったと感じます。やはり経営の学びも繰り返し、継続していくことが大切だということを改めて実感します。今回、当社がどのような姿を目指していくべきなのかを考える、すばらしいヒントを頂いたと思います。ネッツトヨタ南国のような会社になろうと決めた訳ではありません。しかし、会社の未来を考える際に、この会社の事を知らずに考えるのと知った上で考えるのとでは、その結果にはとても大きな差が出てくると感じます。いずれにしても、変化すること。会社も、社長も、社員一人一人も。その積み重ねの先に、当社の未来も見えてくると考えています。