島根県が主催する平成24年度「人財塾」に参加しています。昨年度から参加させて頂いていますが、この塾は2年まで連続参加できるとのことで、今年度も申込させて頂きました。第1回目が2012年6月7に開催されて以降、なかなかタイミングが合わず、今回の第5回にやっと参加することが出来ました。今回は、会場を島根県奥出雲町に設定し、(有)エヌ・イー・ワークスの三澤社長に講演を頂きました。それに続き、グループワークによって「経営理念」について議論を深め、自らの会社、自分自身の認識を明確にしていく、という内容でした。
エヌ・イー・ワークスの三澤社長とは、中小企業家同友会でご一緒させて頂いているご縁もあり、過去にも数回お話を伺う機会がありました。繰り返し聞いても都度新しい気づきがあります。講演での気づきと、グループワークでの気づきに付いてまとめておきます。
1.「人のふんどしで相撲を取るのが仕事」の意味~地域の資源と人を活かす~
三澤さんは現在、「DEF(Dry Edible Flower)」と呼ばれる、食べる事の出来る食用の“押し花”を活用したビジネスに力を入れて取り組んでいらっしゃいます。元々は、自社製造のお菓子に添える形で使っていたものを、現在では、押し花のみを製造、販売する形態も採られています。そのことを、「素材に立ちかえることで広がりが出た」と語られます。
さて、三澤さんは「人のふんどしで相撲を取るのが私の仕事」とおっしゃいます。一聞するとあまりいい意味に聞こえません。しかし、当日の資料の表紙には「仕事を造るのが仕事です!」との記載もあり、それを三澤さん流のいい方で具体的に表現したのがこの“人のふんどしで相撲を取る”ということだと理解しています。三澤さんは、「田舎には古くからのすばらしいもの残っている」と言われます。古くからある特産品であったり、それを造る技術であったり、しかしそれを安値で売ったり、売れない場所で売っていることがある。そのやり方や場所(≒土俵)を変えれば、売り手・買い手、お互いにいい商売になる可能性がある。そのつなぎ役を自分自身がしている、という意味合いでしょう。
これは、一般の企業で言えば「人を活かす」ということに他なりません。取引先や協力会社を活かす、と言ってもいいかもしれません。その人の能力や技術、そして熱意といったものを把握し、最も活躍できる舞台を準備する。これを社内では当然に行い、自らが事業を行う地域でも実践する。それが、エヌ・イー・ワークスさんの仕事のやり方であり、地方で、そして地域で仕事をする企業の経営の本質ではないかと感じるところです。
2.徳島の葉っぱビジネスが証明してみせたこと~何歳になってもいきいきと働く~
三澤さんは、このDEFを「奥出雲の葉っぱビジネスにしたい」という想いを持って取り組まれています。そして、“葉っぱビジネスが証明してみせたこと”として語られたことが、三澤さんが本当にこの地域で実現させたいことなのだと、改めて感じました。葉っぱビジネスが証明したこと、それは、「田舎で現金収入を得ること」ではなく、「葉っぱがお金になること」でもなく、『人から必要とされることや働くということによって人は何歳まででも輝き続け、健康で健やかに人生を全うできること!』と話されます。
働ける幸せ、働いているから世の中と接点がある。徳島で葉っぱビジネスにいそしむ高齢者のみなさんは、「病気なんかしている暇がない」という感覚で、いきいきと仕事をされている。それを、DEFを使って奥出雲でも実現する。三澤さんの話を聴いていると、それが本当に実現できそうな、元気でいきいきと働く人が行き交う奥出雲町がイメージされます。
この、「働くことによって何歳まででも輝き続ける」という視点。なにも過疎地の高齢者だけの話ではありません。一般の企業においても同じように考えなければならない視点だと感じます。現在、高齢化の急速な進行と年金受給開始年齢の引き上げに合わせ、労働者が65歳までは働ける就業環境整備が求められています。そして、雇用延長を単なるコスト増という観点で見ることなく、企業が当然実施しなければならない環境整備だという認識が求められる。そして、それは工夫と熱意次第で実現できるのではないか、と感じさせてもらえます。身体的な衰えはあるとしても、その豊富な経験を活かして活躍できる環境づくり、それができる経営者になるべく努力したいと感じたところです。
3.未来は明るいと信じる気持ち~現在の延長上に想像される未来を裏切る~
今回のグループワーク(グループ討議)の冒頭、アドバイザーとして付いて頂いた島根県のコーディネーターの方から次のような投げかけがありました。「今社会全体がどうなっているのか、何をみんな求めているのか、どうしたら変わっていけるのか、最初に考えてみよう。」というものです。この趣旨は、現在の日本を覆っている(と言われている)政治の混迷や既存制度の疲弊や破たん等を、経営者としてどう捉え、その上で、自社をどうしていくべきか考える、というものです。
この投げかけ、実は私があまり考えていない領域だったので、とっさに回答に窮する思いがしました。最近の私は、とかく目先のことに囚われ、目先の対応に追われ、政治とか国の制度等の話は、どこか他人事的に考えていました。しかし、「どうしたら変わっていけるのか?」という問いかけに対しては、一つの答えが浮かびました。
それは「明るい未来を信じること」です。最近、とかく想うのは「将来に向けた展望は全て暗い」ということです。確かに、人口は減るでしょうし、地域の担い手が居なくなるかもしれない。もっと大きな不況がくるかもしれない。地球温暖化で災害が多発するかもしれない。地球の資源が枯渇して豊かな生活が享受できなくなるかもしれない、等々きりがありませんが、とにかく未来は暗そうです。少し前まで私もそう思っていました。
しかし、今思うのは、「未来は明るいと信じなければならない」、ということです。仮に、我々の努力に関わらず、未来が暗いと完全に決定しているのなら、頑張らなくてもいいかもしれません。しかし、そうではない。明るい未来も当然にありえます。それを決めるのは我々自身だし、現在の延長上に想像される未来を裏切ることが求められていると思います。そして、地域の経済活動の未来を明るくするのは、地域の経営者の仕事です。
そういう答えがその場でスムーズに出たのは、やはり、地域をいきいきと輝く人たちでいっぱいにする、という明るい未来に対する三澤さんの熱意でした。その気づきに、改めてお礼申し上げたいと思います。そして、私がこのような考え方になる大きなきっかけとなったものとして、「ふるさとがえり」という映画がありますので、ご紹介しておきます。地域に住み、生活する方に一度ぜひ見て頂きたい映画です。
この「人財塾」という学びの場、島根県の商工労働部が企画されて3年目になります。多くの企業の参画があり、県内企業の特に若手経営者に多くの学びを提供しています。この人財塾があったからこそ知り会えた島根県内のすばらしい経営者の方々がたくさんいらっしゃいます。経営者の学びの場は色々ありますが、この人財塾も、今後さらに発展し、島根の中小企業経営者に学びと未来に向けた力を与えて頂きたいと思います。