私はさほど風呂好き・温泉好きではありませんが、温泉開発を行う会社の社長として、温泉に詳しくなければ説得力がありません。そこで、仕事や私用で出かけた先で温泉を巡り、少しずつ記事にしていくことにしました。温泉ソムリエらしいコメントにも配慮したいと思います。
温泉めぐりも60箇所目となりました。今回は、鳥取県西伯郡大山町の 大山火の神岳温泉「豪円湯院」(ごうえんゆいん)です。訪問日は、2013年11月26日です。
豪円湯院は、中国地方の最高峰「大山」のふもとにある大山寺参道に新しく開発された温泉及び温泉入浴施設で、2013年11月2日にオープンしたばかりです。大山寺参道は観光地としても著名で旅館街を形成していますが、現在ではかつての賑わいは無くなっています。そこで、大山活性化に向けた取り組みの第一歩として、同町出身の経営者の方が事業会社を設立し、新たな泉源掘削から温泉施設整備を進められ、オープンに至ったという経緯があるようです。施設は、参道沿いの旧旅館を改装して整備されており、黒を基調とした外壁とロッジを彷彿させる赤レンガ色の屋根が特徴で、大山寺参道の景観に配慮ながらも、新しい施設であることもアピールするバランスが取れたデザインに感じます。
「大山火の神岳温泉」というちょっと長めの温泉名ですが、この泉質は、「単純温泉」です。源泉温度が28.0℃で、温度の規定値のみが温泉の定義に当てはまる泉質ということになります。なお、PH値は8.1ですので、「弱アルカリ性単純温泉」標記してもいい(成分分析表にはカッコ書きで“弱アルカリ性”であることが表示)と思います。成分含有量が少ないので、刺激が少なく、誰でも入りやすい温泉と言うことが出来ます。入浴すると、適度なアルカリ度で肌にやさしく感じられます。また、加温・循環式で運用されていますが、加水はされていません。大山の奥深く、1200mの地下からくみ上げられたお湯にしっかり浸かり、雄大な自然に想いを馳せることで、分析書上の成分以上の効果を得られるように感じます。
風呂場内は、周辺にある既存施設とは一味違った造りになっています。まず、内湯は「神の湯」と名付けられた、洞窟風の風呂になっています。照明はぎりぎりまで落とされ、風呂の奥に神棚のようなものがあり、“かがり火”風の照明が灯されています。暗過ぎて危ないのか、注意書きの立て札がありました。このお湯はやや温めで、暗がりのなかでリラックスして長く過ごすのに適しています。一方、人がごった返すような時期や時間帯には注意が要りそうです。隣接して洗い場があるのですが、通常、洗い場と内湯は一つの空間の中に造られるのですが、ここの場合は内湯と洗い場が完全に仕切られており(洞窟風にするためには当然そうなるのですが)、こういう造り方も一つのアイデアだと、新たな発見をさせてもらいました。
一方、外湯の露天風呂は岩風呂風の造りで、ヒノキの軸組みで造られた大きな屋根がかかっています。内湯とは打って変わり、大山の風景を借景しながら開放感ある入浴感を楽しめます。露天風呂で特徴的なのは、同じぐらいの大きさの風呂が二つあり、一つは水風呂になっている点です。やや温いので、おそらく、源泉を加温せずにそのまま使っているのではないかと思いますが、冬場に入るのは勇気がいるものの、夏場などは気持ち良い心地よく過ごせる面白いアイデアではないかと感じます。
洗い場は13箇所あり、ボディソープ、リンス、コンディショナーが備わっています。洗い場は仕切りの無いタイプです。ロッカーは100箇所ほどあり、すべて鍵付きの正方形のタイプで統一されています。洗面台は6箇所でいずれもドライヤーが備えてあります。大型の鏡とデザイン性の高い洗面台が採用されており、施設内でもひときわオシャレな造りになっています。
利用料金は、平日大人700円、土日祝は大人1000円、という設定です。券売機で最初に購入するタイプ。フェイスタオルが料金に含まれています。この値段、大山のふもとの皆生温泉やその他米子市内にある日帰り入浴施設(おーゆランド、オーシャン、ラピスパ、淀江ゆめ温泉)などと比較すると、中間的な価格設定です。施設内容と、この地域の相場観からすれば妥当な価格設定ではないでしょうか。スキー場の駐車場にも近いので、この価格設定なら、冬場のスキー帰り客で賑わいそうな気がします。
付帯する施設としては、おみやげコーナー、レストラン、健幸センター、があります。レストランは、山小屋風とでも言うレトロ感ある風情で、すべて座敷です。奥にはイベント用のステージ的なスペースが確保されており、土日祝日には伝統芸能や地域のイベントなどが開催されるそうです。健幸センターでは、マッサージなどのサービスのほか、健康相談なども行われるとのこと。このうち、レストランと健幸センターは、入浴者のみが利用できるようで、レストランのみの利用はできないようです。そしてもう一点特徴的だと思ったのは、施設内の至るところに“写真”が掲示してあることです。写真は、大山の風景から大山を取り巻く様々な出来事まで多岐にわたり、これを見て歩くことで、大山に関する様々なことを学ぶことが出来ます。単なる温泉施設ではなく、「大山」という地域資源に対する理解を深めてもらう場。この施設に対する運営側の気持ちが伝わってきます。
この施設は、大山エリアの活性化プロジェクトの一翼を担う施設としても位置付けられており、今後も大山周辺エリアで様々な活性化策が取り組まれるようです。その一環か、この施設の対面には、足湯が整備されており、無料で開放されています。大山の山並みを眺めながら足湯でゆっくりするのもいいでしょう。新たな温泉を核にして地域の活性化が図られるということは、温泉開発に携わる企業としても、素晴らしいことだと感じますし、是非とも成功してもらいたいという気持です。次回は季節を変え、新緑の時期にまた訪れてみたいと考えています。