2011年11月17日、島根県技術士会青年部会の主催で、平成24年度島根県技術士会青年部会企画 産学交流会が開催されました。この企画は、平成19年度から島根大学、松江高専との産学交流会イベントとして実施されているもので、技術者を目指す学生を支援する目的で開催されています。これまで計6回開催されており、私は、2009年度、2011年度に続き、3回目の参加です。今年は、島根県松江市の島根大学生物資源科学部を会場に開催されました。今回、島根県技術士会、島根大学(学生)、松江高専(学生)、日本技術士会中国本部青年技術士交流会、からそれぞれ参加があり、およそ30名で実施されました。
今回のテーマは「BCP」。BCP(business continuity plan、事業継続計画)は、企業等が大規模災害等に直面したとき、企業をいかに存続させ、事業を継続できるようにするのかを検討し、事前に対応するための計画を定めておくもの(過去に実施されたセミナーの様子はこちら)です。BCP策定の第一人者である、山陰セコム㈱システムデザイン部の中谷室長を迎え、ワークショップによる模擬的な演習を通じてBCP策定の“さわり”を体験するという企画でした。
1.“演習”を通じて見えてくること~創造力と実践力の訓練~
今回のワークショップは、参加者を5つに分け、そのグループを“1つの会社”とみなし、その中でBCP策定のさわりを体験する、というものでした。グループ毎に様々な設定を行った後、まずBCPの必要性を理解するための「演習」が実施されました。
この「演習」が、今回のイベントで大変大きな意味を持っていたと感じます。体験を通じて学びを深める機会は色々ありますが、災害に関しては“試し”に体験する訳にはいきません。避難訓練という機会もありますが、この場合は、“災害時にどう動かなければならないのか”は決まっており、決められたとおりにきちんと動けるか、が重要視されます。これに対し、今回の演習は大規模災害が発生した場合に想定される出来事を仮に想定し、創造力を働かせながら問題点や課題を予め抽出する、という趣旨になっています。
具体的な進め方は、講師である中谷室長から示される条件設定に対し、どうするかをグループで話し合うことを繰り返す、というものです。例えば、自分達が社内で仕事をしていた時の出来事という前提で、「11月17日(交流会当日)、大規模な地震が発生、社長は不在、全社停電、電話不通、インターネットのパケット通信は使用可」といった状況が提示され、「さて、まず何をしますか?」という問いかけについて話し合う、という具合です。
今回、実際にどうなったかというと、社員の安否確認、被害状況の確認、といった順当な意見が出る訳ですが、一とおり出た意見を聴いた後の中谷室長からの問いかけは、「リーダーを決める、という意見がでましたか?」でした。これを決めたグループは一つもありません。社長不在という条件設定の中で、今後の災害対策の意思決定権者を誰にするのか、どういう順番で決めるのか、これは予め定めておかなければ、その局面で中々決めることが出来ないそうです。ほんの一例ですが、これも現実に災害発生時の対応上、起こった課題に基づいているものです。その経験を実務に活かしていくための手法として、この演習というやり方は、分かりやすく有効な方法とだと実感しました。
2.就業経験はなくとも責任感ある対応は出来る
BCPは主に企業の事業継続のための計画です。このため、各グループのメンバーには(仮の)役割が設定されます。今回、総務部長、営業部長、事業部長など、組織の責任者としての役割が割り振られ、グループメンバーで、大規模災害時の企業運営(社長は不在という設定)を模擬体験しました。就職した経験のない学生は、「事業の継続」とか「○○部長」言われても、そもそも事業に携わったことが無いわけですからイメージしにくいだろうと思っていました。しかし、グループでの話し合いを進めていくうちに、必ずしもそうではないことが分かってきました。
というのも、話をしていくうちに、学生であってもそれぞれの立場で責任ある役割を果たす経験をする機会は多い、という点です。部活動に熱心に取組み、部長を任せられている学生、バイト先で責任感を持って働いている学生、など様々です。例えば、部活の合宿先で災害に遭遇した時、部長として部員の安全をどう図るか、バイト中に災害が発生し、被害が出た時にどう対応すべきか、など、学生であっても自分が置かれている立場でやるべきことがあるでしょう。それを今回の仮想の会社に当てはめて考えてみる。そのことで、少しイメージがしやすくなり、グループ内での検討がより進んだと感じています。
そして、あくまで仮の設定で検討を進める訳ですから、やはり想像力が大事になります。その想像力を引きだすための設定、自分自身の経験と関連付けさせて考える工夫。そういう配慮の大切さを感じることが出来ました。
3.「異質な人財によるダイバーシティ」の実感
私の参加したグループに、中国からの留学生がいました。中国で一度大学を出て、再度日本の大学に留学に来ているそうです。彼が言うには、中国での大学生活は遊んでばかりで、何か自分を変えたいと思って日本に留学した、とのこと。日本企業へ就職を希望しているそうで、昼食の時間中も技術士会メンバーに対して中国人を採用することについてどう思うか、など積極的に質問をしてきます。さらに日本で就職して、10年後には中国にその企業の現地法人をつくって赴任させてもらいたい、という構想まで話を聴き、その積極性と行動力は非常に印象に残りました。
その際に思い出したのが、以前、㈱日本レーザーの近藤社長の講演で伺った、「異質な人財によるダイバーシティ」というお話です。当社もそうですが、地元で暮らす地元出身者で構成される会社は、異質な価値観に基づく刺激があまりありません。まとまりやすく、おだやかである反面、変化に乏しくマンネリ化しやすいという傾向もあると思います。そこに、いい意味で異質な人財が入ることで、刺激が生まれ、社内が活性化する。そういった大胆な人財採用も中小企業だからこそ、考えていかなければならないと、感じる機会ともなりました。
とはいえ、世の中に全く同じ人など居ない訳で、“異質”と言えば、全員が異質です。誰しも様々な価値観を持って生きているし、それを受け入れることで見えてくることがある。異質な人財によるダイバーシティとは、まず、経営者が異質な価値観を受け入れる勇気を持ち、その異質な価値観を遠慮なく組織内で相互に発揮できる環境づくりを図る、といったステップを踏むことがことから始まります。そして、それは誰もが好き勝手にしていいという事でなく、その企業・事業の目的を達成するために必要な範囲内であることが前提です。その意味でも、企業の進む方向性を明らかにし、その企業が持つ価値観、大切にすべきことの共有化が大切、という認識を再確認することができました。
実は、当社も平成23年度に、山陰セコムさんのご支援を頂き、BCPを策定しています。中谷室長には大変お世話になりました。当社のBCPは極めて基本的な事項のみを定めた最低限の構成となっていますが、それでも、大規模災害時の指揮権者の設定、代替拠点の設定、安否確認の方法、取引先等の代々方法の確認、さらには、既存経営資源の再確認と今後に向けた対応課題の洗い出し等、様々なメリットがありました。特に、最初にご紹介した「演習」を行うことで、作ってみた計画が実態に即していないことが良く分かったりします。この“演習を通じて問題点を洗い出す”という手法は、様々な場面で役に立つ可能性があると感じます。当社での演習は幹部社員だけで実施しましたが、一般社員も含めて研修の一環として実施することも効果が大きいのでないかと考えています。