2014年11月22日、島根県技術士会青年部会の主催で、平成25年度島根県技術士会青年部会企画 産学交流会が開催されました。この企画は、平成19年度から島根大学、松江高専との産学交流会イベントとして実施されているもので、技術者を目指す学生を支援する目的で開催されています。これまで計7回開催されており、私は、2009年度、2011年度、2012年度に続き、4回目の参加です。今年は、島根県民会館を会場に、島根県技術士会、島根大学(学生)、松江高専(学生)、日本技術士会中国本部青年技術士交流会、から約30名の参加がありました。毎回のことではありますが、島根大学及び松江高専の学生と交流しながら、一緒に課題解決に向けて“頭を使っていく”ということが、社会人にとっても大いに学びにつながると実感するところです。今回の取り組みについて簡単にまとめてみます。
1.「大根島」、「外国人」、「製品開発」で独自の視点を見出す
今回、約30名の参加者を4~5名のグループ7班に分け、演習課題に取り組みました。
テーマは、『大根島(松江市八束町)への外国人来訪者を増やすためにどのような製品を開発し、どうやってPRすればよいか?』というもので、その方策をトータルに考える、というものでした。企画を担当して下さった方が、後述する“エンジニアリング・デザイン”という観点も踏まえて工夫して設定して下さったものです。
会場である島根県民会館の会議室から大根島までは車で15分程度です。交流会の開催時間は10:00~17:00まで。その間に、実際に大根島の現地を見て回り、前述したテーマに沿うようなアイデアを立案して発表する、というところまでが演習です。限られた時間をどれだけ有効活用できるか、優れた着眼点を持てるか、チームメンバー(学生2~3名、技術士2~3名)で適切に役割分担できるか、などがポイントになります。
最終的には、各グループとも独自の発想でそれぞれの提案を取りまとめることが出来ました。大根島と言えば『牡丹』が特産品として最も著名であり、そこに着眼したグループが一番多かったですが、中にはマイナーな地域資源を取り上げたグループもあり、チームの個性が出ていて、面白い成果を見せてもらうことが出来ました。
今回、テーマ設定に気を使っていたなと感じるのは、『外国人』をターゲットにするということ、また、製品のアイデアだけでなく、どうやって『PR』するのかについても言及するよう求めた点です。外国人という視点がなければ普通のまちづくり提案(それでも十分難しいですが)になってしまいます。しかしその視点を入れることで、(日頃外国人の方と接する機会の多い人は違うかもしれませんが、)自分達の今までの常識の範囲外のところで発想していかなければならなくなります。それが「考える」ということにつながり、日々の生活の中では気が付かなかった新しい発想を導き出すことにつながります。そういった頭を使わせることに留意したこの取り組み、日頃の仕事で頭が固くなってしまいがちな我々大人こそ、こういった取り組みにもっと参加していくべきではないでしょうか。
2.『エンジニアリング・デザイン』を知る
今回の交流会で、私の耳に残ったキーワードは「エンジニアリング・デザイン」というワードです。島根大学の方では、今回の交流会での演習を、エンジニアリング・デザインの学習の場にする、という意向があったようです。私自身耳慣れない言葉でしたが、後で調べてみると、技術者として認識しておく必要のある視点でしたので、まとめておきます。
エンジニアリング・デザインとは、『数学、基礎科学、エンジニアリング・サイエンス(数学と基礎科学の上に築かれた応用のための科学とテクノロジーの知識体系)および人文社会科学等の学習成果を集約し、 経済的、環境的、社会的、倫理的、健康と安全、製造可能性、持続可能性などの現実的な条件の範囲内で、ニーズに合ったシステム、エレメント(コンポーネント)、方法を開発する、創造的、反復的で、オープンエンドなプロセスである。』と定義されるようです。(一般社団法人 日本技術者教育認定機構(JABEE)資料による)
もう少し平たく言えば、なんらかの製品を造ろうとする時、どのような形に作るかを考え始めるスタートから、作るための情報を集め、工夫をし、プロトタイプを作るなど試行錯誤し、「設計」としてまとめあげるまでの一連のプロセスのことを指すようです。今回の演習は、情報を集め、工夫し、プロトタイプを作るためのアイデア出し、といったところでしょうか。
日本語で“デザイン”というと、意匠や外観のデザインをイメージしますが、英語のDesignは、工業製品等の設計開発なども含まれるそうです。そして、工業製品の場合、製品の設計を行うプロセスと、実際の製造を行うプロセスに分けられますが、エンジニアリング・デザインとは、その設計を行うプロセスまでを指します。その過程で、製品デザインをどう具体化し、実現していくのかはまさに技術者の活動であり、技術力そのものと言えるでしょう。そしてその活動は、製品開発だけでなく、社会人生活における全ての活動に反映できるものだと思います。学生がそれを鍛えるための演習の一助となれば、今回の企画も大いに意義あるものとなるでしょう。
3.ipadを利用したプレゼンテーションで固定概念を打破
今回、各チームにおける検討果は、タブレット(ipad)で作成し、会場のスクリーンに映写してプレゼンテーションするという試みが取り入れられていました。このプレゼンテーションの作成においても、学生が中心となり技術士会メンバーはフォローに回るという役割分担となりました。
私自身、タブレット端末(アンドロイド)は使ってはいますが、メールチェックやインターネットの閲覧等が主体で、タブレットのソフトウェアでプレゼンテーションを作成する、という作業は経験がありません。長年の慣れもあり、「アウトプットを作成するのはパソコン」、という固定概念から脱却できませんが、今回、直接的な作業には携わらなかったものの、学生の参加者が実際にプレゼンテーションをつくっていく過程をみて、時代の流れを実感する機会を得ました。どこでも作業できる利便性の中に、高レベルなアウトプットの作成ツールを共有させている訳です。もちろん、すべてのアウトプットの作成がタブレットに置き換わる訳ではないでしょうが、状況に合わせた使い分けを行い、自分自身の仕事の生産性を上げていくこととの必要性を感じたところです。
今回、私の所属したグループで一緒になった2名の学生は2人ともタブレットは初めて取り扱うということでしたが、最初こそ戸惑っていたものの、直ぐに慣れて作業していました。そして、限られた時間の中で、我々の助言も受け止めながらしっかりとしたアウトプットを作ってくれました。残念ながら賞を頂くことはできませんでしたが、私自身も新しいツールを使うということに挑戦していかなければならないと、改めて感じさせてもらえるいい機会となりました。
毎年恒例ですが、交流会終了後は、島根県技術会青年部の忘年会を開催します。日本技術士会中国本部青年技術士交流会からも参加して頂きます。地元同業他社の技術士の方々もいますし、建設業及び関連業以外の企業に属する技術士の方もいらっしゃいます。そういう間柄で、情報交換できる貴重な機会です。私も経営者としての付き合いや勉強会などに出かける機会が多くなり、こういった現場も実務者との交流の場が少なくなってきています。技術士会メンバーも会社に戻れば技術者である前に、一人のサラリーマンであり、中間管理職であったりします。そんな彼らがどのような問題意識や課題、また悩みを抱えているのかを伺い知ることもまた、私にとって大いに学びとなっています。最近は島根県技術士会の行事に参加する機会も少なくなっていますが、出来るだけ頑張って、多様な交流を続けていきたいと考えています。